第2話 断罪を受けてます
「真実の愛を私は遂に見つけたのだ。ヴィトリア!貴様との婚約をここに破棄することを宣言する!」
はい、きましたこれ。皆さまおなじみの断罪、断罪、断罪、悪役令嬢に対する断罪スチルそのもの、それ以外の何ものでもない。
「貴様が愛しのベネディッタに対して行った数々の嫌がらせ、口にするのも憚られるほどの虐めを行なっていたということは調べがついている!」
これってテンプレ以外の何ものでもないよなあ、でも、悪役令嬢となったからには問わない訳にはいかないんでしょう。
「な・・なぜ・・そんな・・・」
悪役令嬢と名指しされたヴィトリアは、わざとらしいほど瞳を見開き、胸の前で握りしめた両手をブルブルと皆から見えるように震わせた。
「私はベネディッタ様に対してそのような、嫌がらせや虐めなど行った事などございません!」
「嘘をつくな!」
アルフォンソ・フォン・ルシタニアは熟しきったトマトのように顔を真っ赤にさせた。
「私からの愛を得られないからと嫉妬にかられ、ベネディッタの命まで狙う愚行を犯していた事を私が知らないとでも思っているのか!」
「ヴィトリア嬢、貴女がベネディッタ嬢を階段から突き落とし殺害を図ったという事はすでに公となっているのです」
アルフォンソ王子の後ろに控えていた公爵家の嫡子、ペドロ・デル・カルバーリョが一歩前に出てこちらを睨みつけながら言うと、
「ヴィトリア嬢がベネディッタ嬢を噴水に突き落としている姿を見たという者も何人もいる、もはや言い逃れは出来ないね」
侯爵家の次男、ディオゴ・デル・モルガドが一歩前へ出る。
金髪碧眼の美丈夫であるアルフォンソ王子に腕を絡めて縋り付くようにして立っていたベネディッタ・ボルボーン男爵令嬢は、左右に並び立つ美丈夫二人の顔を見上げて、庇護欲を掻き立てるような儚げな微笑みを浮かべた。
男爵令嬢を守るように前へと進み出るペドロは人形のように美しく整った顔立ちの眼鏡キャラ。もう一人のディオゴは優しい面立ちをした文官タイプのお兄さんキャラ。
断罪といえば階段落ち、断罪といえば噴水、断罪といえば、震えながらヒーローの腕に縋り付くようにして立つヒロインと、ヒロインに傾倒した王子と側近ども。
王子と側近の憎悪の瞳、嫌悪の表情。そして、顔を俯けながらも口元に嘲るような笑みをうっかり浮かべてしまうヒロイン。
テンプレ中のテンプレ、ド!テンプレ!の展開に、はあ、やっぱり何処の悪役ものでも、展開は変わらないものなのねえ。などと感想を頭の中で述べながら悪役令嬢ヴィトリアは感心していたのだが、周りの人間全てがこの現状に感心しているとは限らない。
王家主催の大舞踏会、メロヴィングの皇帝アレクサンドル・ボアルネとの戦いを目前にして行われた王家主催の舞踏会場。
今後のルシタニア王国としての方針を示される重要な場でもあったはず。その重要な局面での突然の婚約破棄宣言なのだから、正気の沙汰とは思えない。
グラスを持って談笑をしていた紳士淑女は息をのむようにしてその場に固まっていた。
戦争も何もない平和な世の中で、学園に通いながら王子とヒロインが悪役令嬢相手に恋の鞘当てを繰り広げているような情勢ならまだしも、今はヨーロニア中を巻き込んだ戦争の真っ只中。
婚約破棄をしたいのであれば、内々で済ませれば良いだろうに、こともあろうに、今、この時に婚約破棄を突きつけるのか。
集まった貴族の視線を一身に浴びた王子は恐ろしいような形相で前に出て来ると、ベネディッタのほっそりとした腰を引き寄せ並び立つ。
「顔色ひとつ変えず非道な行いをするお前のような奴は国母に相応しくない!」
でた!国母に相応しくない!定番の文句にヴィトリアは思わず顔を顰めて見せた。
「私はヴィトリアとの婚約を破棄し、ベネディッタ・ボルボーン嬢との婚約をここに宣言する!」
宣言したーー!今!この時に宣言しちゃったーー!戦争大臣でもあるフォルハス公爵家の令嬢との婚約破棄を宣言し、何の後ろ盾にも、戦力にもならない、資産家といえども黒い噂がてんこ盛りのボルボーン男爵の令嬢との婚約発表ですって!
周りの驚愕たるや並々ならぬものがあり、失神する淑女が続出する中、舞踏会のホールに近衛兵が銃床を床に打ち鳴らすリズミカルな音が2度ほど響くこととなった。
黄金の扉が近侍二人によって開かれると、真紅のドレスに身を包んだ女王がようやっと舞踏会の会場へと現れたのだ。
ルシタニア王国を治めているのはマリアルイザ女王であり、王配フェリペにエスコートされながら悠然と歩を進めている。
滑るように前へと進み出たマリアルイザ女王はこうべを垂れる臣下を睥睨しながら、
「何が起こった?」
と、問いかける。
「母上!実は私の婚約者であったヴィトリア嬢は!」
男爵令嬢をどうやって虐めていただとか、階段から落として殺そうとしただとか、ないことないこと、アルフォンソ王子は滔々と語り出したのだ。
「ヴィトリア、お前に問いたい、面を上げよ」
マリアルイザ女王は42歳、年齢を感じさせない輝かしい美しさを保ち続ける女王であり、第一王子が亡くなってからは人が変わってしまったかのように覇気を無くしている。
「アルフォンソはお前がその男爵令嬢を噴水に突き落とし、階段から突き落として殺そうとしたと言っているが本当か?」
「女王様ほど私の事をご存知の方はいらっしゃらないと思います。ですので、私がやったかやらないかについては、女王様のご判断に準じようと思います」
と、ヴィトリア答えて、恭しく頭を垂れた。
この展開じゃ、私が何を言おうが変わるまい。王位継承者第一位がやったと言うのならやったという事になるんでしょうよ、女王の判断ひとつで明らかに白いものでも黒って事でハイ決定。
「証拠は抑えられておるのか?」
「母上、充分に用意出来ておりますとも」
ヴィトリアは、こんな忙しい時にどんな偽証を用意したのかと呆れた思いでいたのだ。平時ではない戦時に、皆様よくもそんなことを平然とやりますね。
「ふむ、そうか」
女王は興味なさげに、
「お前がそう言うのならそうなのだろう」
実の息子にそう答えると、
「婚約破棄は仕方ない。ヴィトリア、お前はしばらくの間、カルダスにて謹慎しておけ」
と、命令したのだった。
婚約破棄はOKです!
カルダス領、女王の直轄領ですよね。
女王の直轄領に謹慎ですか。
いつまで?
私の真剣な眼差しを受けた女王はぱちぱちと瞬きをした。
いつまで?
女王は機嫌悪そうに眉を顰めた。
いつまで?あれ?これ、目と目で会話出来てないって感じ?
ヴィトリアがパチパチパチと瞬きをすると、女王は小さくため息をついて、
「沙汰あるまでお前は大人しくしておけ」
と答えて、壇上を戻って行ってしまったのだった。
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