第7話 私、教えるの苦手なのよ。保健以外。

 ゴールデンウィークがあっという間に終わり、俺たち生徒会役員は、今日も集まっていた。


 俺はホワイトボードに『1学期中間テストについて』と記入する。


「さて、ゴールデンウィークも終わり、5月の中旬から中間テストとなる」


 俺の言葉を聞いて頭を抱えるカエデと春菜ちゃん。


「拓海!集まれって言われたから集まったけど、まさか、拓海がテストの話をするとは思わなかった…見損なったぞ!」


「そうです!センパイの鬼!鬼畜!鬼瓦!」


「いや、鬼瓦は家の屋根に置くかわらのことだから悪口じゃないぞ」


 俺は2人の悪口を無視しつつ…


「生徒会役員が赤点を取るなどあり得ない!よって今日から放課後はここに集まって勉強をするぞ!」


「「えーーー」」


「どんだけ勉強が嫌いなんだよ!」


「だって、机に座ってジッとするなんてアタシには難易度が高すぎるぜ」


「そうです!そもそも、高校の勉強なんて将来、役に立たないです!」


「勉強のできない人が絶対に言う言葉を言い出したよ」


 俺は呆れる。


「雪野先輩、どうすれば2人が勉強してくれると思いますか?」


「そうね。私と拓海くんが先生となって教えるしかないと思うわ」


「なるほど。やっぱりそれしかないですね」


 俺は先輩の提案を了承し…


「2人の学年が違うので、個別に教えた方が良いですか?」


「そんなことしなくていいわ。私なら2人同時に教えることができるから」


「おぉ!さすが学年トップの成績を持つ雪野先輩です!」


「いや、拓海くんも学年トップでしょ」


(いや、そうだけども)


「こほんっ!と、とにかく、それならまずは先輩にお願いしてもいいですか?」


「えぇ、2人に勉強させればいいのよね、任せて」


 そう言って雪野先輩は立ち上がり、俺がホワイトボードに書いた文字を消して…


「桜井さん、秋風さん。今から私が2人に授業をするわ」


 2人とも先輩の方を文句を言わずに頷く。


(うん、素直でよろしいんだが、俺の時も文句を言ってほしくなかったよ……)


「では、さっそく授業を始めたいと思うのだけど、桜井さんと秋風さんの苦手教科は何かしら?」


「ウチは日本史です。どうしても暗記ができなくて…」


「アタシは数学だな。あんなのいつどこで使うんだよ」


「なるほど、2人の苦手教科はわかったわ。それを踏まえて、今から保健の授業を始めるわよ」


「ちょっと待て!」


 俺は先輩を止める。


「なにかしら?私は2人に保健の授業を…」


「いや、なぜ保健!?さっき聞いた苦手教科を授業するんじゃないの!?」


「私は聞いただけよ。その教科を教えるとは一言も言ってないわ」


「確かにそうだけど!」


「全く、拓海くんが邪魔したせいで授業時間が減ってしまったわ」


「苦手教科を聞いてた時間も無駄だったと思うんだけど!」


「そんなことないわよ。私にとっては無意味な解答だけど、拓海くんは参考にするでしょ?」


「ま、まぁそうだな」


「なので、拓海くんがツッコんできた時間の方が無駄ということになるわね」


「そう言われるとそうだけど、納得できねぇ!」


 納得できないが、これ以上勉強時間を減らすわけにはいかないので、黙っておく。


「で、2人とも、保健の授業でいいのか?」


「えーっと……できれば他の教科でお願いします」


「ウチも」


「なら、私が2人に教えることのできる教科はないわ」


「おかしいだろ!それでも学年トップかよ!」


「私、教えるの苦手なのよ。保健以外」


「なぜ保健だけ得意なんだ!?」


「そ、そんなことを容赦なく聞いてくるのね。拓海くんのエッチ」


「あー、もう!これ以上は聞きませんから、とりあえず席に座ってください!」


 俺は無理やり先輩を席に座らせ…


「よし、今から俺が個別に授業をする。カエデは数学、春菜ちゃんは日本史を教える」


 最初、春菜ちゃんには自主学習を命じ、カエデに数学を教える。


 10分ほどマンツーマンで教えていると…


「なぁ、拓海」


「ん?なんだ?」


「言ったら怒られると思ったから言うのを躊躇ってたんだが…」


「なんだよ。そう簡単に怒らないから遠慮なく言え」


「あぁ。実は、10分前くらいから、拓海がなにを言っているのかがわからなかった」


「10分前に言え!」


(最初からわかってねぇじゃねぇか!)


「ほら怒った!」


「いや、怒りたくもなるわ!てか、さっきめっちゃ頷いてたやん!あれはなにを理解してたんだよ!?」


「えーっと……雰囲気?」


「頷くべき雰囲気を理解されても!」


 もう一度最初から教える気力はないので、一旦カエデから離れ、春菜ちゃんに近づく。


「春菜ちゃんはどんな調子かな?」


「全く頭に入ってきません」


「だろうね。やる気のなさが伝わってきてるよ」


 ぼんやり眺めているだけだということが一目で分かった。


「いい?日本史の覚え方にはいろいろあるが、まずは語呂で覚えるところから始めてみたらいいと思うよ」


「語呂ですか?」


「あぁ。例えば『いちごパンツ本能寺の変』とかがあるんだけど、聞いたことあるかな?」


「うーん……いちごパンツがキッカケで本能寺の変が起こったとかですか?」


「何が起こったんだよ!」


「あ、やっぱり違うんですね!薄々そうだと思ってました!」


「薄々かよ!」


(ヤバいぞ。思ってたよりカエデと春菜ちゃんの頭脳がヤバい!どうすれば…)


 俺が頭を悩ませていると…


「なぁ、拓海。聞きたいことがあるんだけどいいか?」


「ん?あぁ、いいぞ。なんでも聞いてくれ」


「なら、一つだけ。今日の勉強会って、会議の議題がなくてアタシたちに会うことができなかったから、勉強会という口実で無理やり集めのか?」


「そっ、そそそんなわけないだろ!」


「あら、私も今日の集まりが勉強会って聞いた時、拓海くんが私たちに会いたいから集めたのかと思ったんだけど」


「ウチもそう思いました!」


 3人がニヤニヤしながら俺に詰め寄ってくる。


「で、どうなんだよ、拓海?」


「…………きょ、今日は解散っ!明日はちゃんと勉強するぞ!」


 俺は3人の視線に耐えられなくなり、荷物をまとめて生徒会室を出た。


 その後…


「あちゃー、逃げられたか」


「うぅ〜、ホントは勉強を教えてほしかったんですが、つい揶揄ってしまいました」


「ふふっ、明日は真面目に勉強しましょうね。拓海くんは本気で2人の学力を心配してるから」


 そんな会話が行われていた。

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