僕らのダンジョン労働奮闘記

涼風 鈴鹿

ダンジョンのススメ

彼らの夢の原材料は、未知への探究と企業努力


 老若男女の声が引っ切り無しに響き渡る明るく賑やかな商店街。

 通る人は皆笑顔で、時々立ち寄り商品を吟味する。


 そして、その中の殆どの者は、何かしらの武器を携え同じ方向へと歩みを進める。

 その先にあるのは一つの二階建て木造建築。

 表には酒場の看板が立て掛けてあり、武器を持つ者達は皆ここを目指す。


 酒場の中も外と変わらぬ喧騒で、酒と雰囲気に酔った者達がバカみたいに騒ぎ立てる。

 

「さて、お客様。何をご注文ですか? 」


 やがて酔っ払いの群れを抜け、カウンターへと辿り着いた男は注文を口にする。


「ダンジョン攻略を、1人で」


「かしこまりました。では、番号札を持ってお待ち下さい。

 お待ちの間お暇でしょう。当店では、何と2,500デルで、何と酒類飲み放題を提供しております。ご一緒に如何ですか?」


 受付嬢はニコニコと笑いながら、男にメニュー表を差し出す。


『生ビール 450デル

 葡萄酒  600デル

 ・

 ・

 ・』


 とメニューは続いており、一番下にメチャクチャに目立つように赤い枠線で囲まれて


『酒類飲み放題! 2,500デル!! 

 お得だよ!! 』


 そう強調されていた。


「じゃあ、それでお願いする」


「かしこまりました! ではお客様、楽しい待ち時間をお過ごしください! 」


 店員はニコニコとしながら男から硬貨5枚を受け取り、空っぽのジョッキと一枚の紙切れを手渡す。

 そこにあるのは『32』の番号。


 男はジョッキを受け取り、とりあえずビールの詰まった酒樽を目指す。


「はい! では『25』の番号札のお客様、どうぞ此方へ! 」


「お! 俺だ俺だ! 俺たちだ!

 行くぞオメェら気合い入れろォォォ!! 」


 すると、受付嬢から呼び出しの声。

 それに合わせて10人くらいの大男達が立ち上がる。

 皆それぞれ武器を携え、リーダー格の男に至っては180センチはありそうな巨大なバルディッシュを軽々と担いでカウンターを目指す。


「では皆様、最終確認を致します。

 此処から先、私達は皆様の安全の保障を一歳致しません。

 もし大迷宮の中で命を落としても、全て自己責任となります。

 よろしければ、『了承』と。お願いします」


 先程までとは打って変わった真剣な受付嬢の言葉に、男達は一瞬黙る。


 だけどリーダー格の男がその後ニヤリと笑い、


「俺たちは泣く子も黙る超武闘派盗掘団、『クラッシャーズ』! 母ちゃんの雷以外に恐れる物などこの世に無し!!

 当然、『了承』だ!!」


 大声で啖呵を切る。

 それに続いて、他のメンバーも『了承』と口にする。

 直後、男達の体はほんの数秒淡い青い光に包まれる。


「はい、コレにて契約は完了致しました。

 それでは皆様、良い迷宮の旅を! 」


 その言葉を受けて、受付嬢は笑顔で大きくお辞儀する。

 すると、直後カウンターの隣にあった扉が開く。


 扉の先にあったのは、地下へと続く石階段。

 灯りは左右に立て掛けて並べられた粗末な松明たいまつ達だけ。


「っしゃぁぁあ!! この大迷宮の財宝を頂くのは俺たちだァァァァァ!! 」


 その道に恐怖心すら抱かずに、クラッシャーズと名乗った男達は勢いよく駆けていく。

 そして、全員が地下への階段へと入ったところで、扉は勢いよく閉められる。


 ここは冒険都市『グラテア』

 地下に広大で謎の多い、誰も最奥に辿り着いたことのない大迷宮が広がる大きな都市。

 そこには連日連夜引っ切り無しに、腕に自信のある命知らずの旅人が冒険と浪漫をの為に訪れる。


 コレは、そんな夢見る冒険者たちの物語……




 などではなく、


「ロイ! 次の客は何人だ!? 」


「えーっと、10人は居るね。面倒だし分断する? それとも一人ずつ潰して恐怖心煽

る? 」


「折角だしビビって貰おうぜ! 確か人骨のストックあったよな? 」


「あー、あるけど間に合うかな……ちょっとヤマさんに聞いてみるよ。

 適当に時間稼いどいて? 」


「オッケー任せろ! 」




 此処は大迷宮。

 正確には『株式会社 大迷宮』


 夢見るバカを相手に、日夜夢と浪漫とスリルを提供する企業である。


 そしてこの物語は、迷宮の中で冒険者きゃくをもてなすコイツらの物語である。

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