異世界で奴隷になったら溺愛されました。

tsukasa

第1話 プロローグ

 異界人。


 それは異世界からやってきた災いを運ぶ者。

 この世界の人間にとっては畏怖の対象となる存在だった。


 千年以上の昔、ある国の魔法師が偶然、最初の異界人を召喚した。 

 その異界人は桁違いの強大な魔力を持っており、こともあろうに召喚者を裏切って城を奪い、国を簒奪しようとした。


 魔法師はその異界人を止めようと、別の異界人を召喚した。

 今度の異界人は、理性的で平和的だったが、力では最初の異界人に遠く及ばなかった。

 だが、平和的な異界人はこの世界の人間たちと協力して、最初の異界人を倒すことに成功した。


 ところがこれで終わりではなかった。

 異界人召喚の秘密を知った者が、他国に情報を売ったのだ。

 その結果、世界各国で異界人召喚が行われ、立て続けに多くの異界人が召喚されることになってしまった。

 その中には好戦的な者とそうでない者がいて、好戦的な異界人たちは、各地で侵略戦争を始めてしまい、世界を戦乱の世に変えてしまった。

 

 良識ある国の領主たちは、平和を望む異界人と手を結び、好戦的な異界人と戦った。

 その戦いは十余年に渡り、大きな犠牲を出しながらも好戦的な異界人を排除することに成功し、世界は平和を取り戻した。


 その後、二度とこのような間違いを繰り返さぬため、生き残った平和的異界人が中心となって国際条約機構という監視組織を作り、異界人同士の争いと召喚術を禁じた。


 それから千年の間、異界人が召喚されることは一度もなかった。


 だがある時、突如アレイス王国という国の王都が正体不明の敵に襲われた。

 巨大な炎の塊が宙を舞い、人々が行き交う街の真ん中に落下して、爆ぜた。

 多くの人々が爆風で吹き飛ばされ、熱に焼かれて死んだ。

 街の中は逃げ惑う人々でパニックになった。

 炎の塊は都市のあちこちに落下し、街を燃やし、破壊していった。

 それは都市の中央に建つアレイス城にも降り注ぎ、城壁や塔の一部を破壊した。


 その悲劇を引き起こした張本人を、近くに住んでいた農家の者たちが目撃していた。

 襲撃者たちは、アレイス王都を見下ろす郊外の丘の上にいた。

 彼らはそこから巨大な魔法を放ったのだという。

 襲撃者は全員、全身を鎧兜で包んでいて、顔どころか性別や年齢さえわからなかった。その上、紋章を外していて、どこの国の者かも不明だった。

 

 だがひとつだけ確かなことがあった。

 目撃者たちは口々に言った。


 あれは異界人だ、と。


 そのタイミングで、隣国メルトアンゼル皇国がアレイス王国領内に軍を進め、国境の砦を落として国境付近一帯を占領してしまった。

 王都攻撃がメルトアンゼル皇国による陽動かあるいは威嚇であったことは、誰の目にも明らかだった。

 そのため、メルトアンゼル皇国は禁止されている異界人を召喚したのではないかとの密やかな噂が流れた。


 アレイス王国はメルトアンゼル軍の侵攻を防ぐため軍を派遣し、戦局は双方一進一退の攻防を繰り広げていた。。

 そして今もなお、国境で睨み合いを続けている。

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