【本編完結+後日譚連載中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。
山法師
本編
1 遭遇
何か道路に落ちているな、と思った。
夜だし、ちょうど街灯と街灯の間の暗闇にそれはあったので、なんだかよく見えなかった。
周りを見て、車など来ていない事を確認して。
なんだろう。
それだけの思いで、私はそれに近づいた。
「……?」
手、だった。
手首から先、私より一回り大きな少し骨ばった右手が、掌を地面側にして落ちていた。
「……? ……っ?!」
一瞬思考が止まったあと、飛び退くようにそれと距離を置き、もう一度周りを見る。車も人もいない。街灯がぼやけて見える。
私は震える手でスマホを取り出し、どうにか回っている頭で警察に通報しようとした。
けど、躊躇ってしまう。
『手が道端に落ちている』
そう言って、信じてもらえるんだろうか。
手が震えていたし、生まれて初めての110番だったのもあって緊張して、すぐには発信ボタンを押せなかった。
そしたら、
「……っ?! っひぃいああ?!!」
落ちていた手がびよっと跳ねて、私の顔に張り付いた。
「ああぁぁああ?!! やああぁぁぁあああ!!!」
私は半狂乱になりながら、持っていたスマホも肩に掛けていた鞄もそっちのけで手を剥がそうとした。
やっと顔からその感触が消え、固く瞑っていた目を薄く開ける。すると、雨が降っていた。
「えっ……あ、スマホ!」
星がよく見えるほど晴れているのに、と驚いたけど、放ったスマホが目に入り、そっちに気がいって慌ててそれを拾う。保護ガラスに少しひびが入っていた。
同じように放り出した鞄も、ぶちまけた中身と共に拾って肩に掛ける。辺りを見回す。
手は、どこへいった?
頭にも服にもくっついたりしていない。鞄に間違えて入れたりもしていない。駆除中に見失った害虫のようで、気持ちが悪い。
……帰ろう。一刻も早くこの場から立ち去ろう。
雨はいつの間にか止んでいた。
また何かあったら嫌だ。
コンビニに行こうとしていたのをやめ、小走りで家に帰ろうとした。
「なあお前、聞こえるか? なあ?」
とても近くで男の声がした。私はまた驚いて、転びそうになってしまう。
「はっ……?」
「おお、聞こえてんだな?」
さっきも見たし今も見回したけど、周りに人っ子一人いないのだ。さっきからなんなんだ、これは?
「あん? 気付かなかったか?」
またどこかから、とても近くから声が聞こえる。
「さっきでかいのに頭を潰されかけたろう? とっさに俺が飛びついて、逆にでかいのを潰してやった」
もしかしなくとも、この声はあの手……なんだろうか?
「勢いつきすぎちまってお前の腹の中に入っちまったけどよ」
腹の中? それが、手が、私のお腹の中で喋っている? と、いうわけ?
「……………っおっぅうえええ……」
「はっ? どうした?」
吐き気が込み上げてえづいたが、別に吐けはしなかった。意味が分からない。頭が、追いつかない。
「おい大丈夫か? でかいのの気に当てられたか?」
コンビニに行こうとしただけなのに、何を間違ってこんなことになってしまった? これは現実? 私は狂ってしまった? いつの間にかストレスでも溜めてしまっていたんだろうか?
「この程度でくたばったりしないだろうな……」
お腹にいると言っているのに、異物感が全くしないのはなぜだろう?
未だ聞こえる幻聴と、ぐるぐる回る思考でふらふらしながらも、なんとか家にたどり着いた。そのまま布団に直行して、いつかのように固く目を瞑る。もし明日もこうだったら病院に行こう、と、そんなことにはならないでくれ、と思いながら眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます