第13話「村の悩みごと」

「あの、わたしたちでよければ、話を聞くのはできます」

 アイリはおそるおそる村長に提案する。

 よそ者の手なんて借りないって怒られないかと内心ビクビクして。

「ありがたい」

 と村長は手を叩き、

「魔女ちゃんなら何かわかるかもな」

 男たちはうなずきあう。

 いつのまにか魔女ちゃんで定着している。

 アイリは反応に困る。

 悪気ない愛称らしいので、いやだと言う勇気がない。

「えっと、じゃあ、村長さん」

 と彼女がお願いすると、

「うむ。実はここ一カ月ほど、畑の様子がおかしいのだ」

 村長はけわしい顔で事情を話す。

「作物が見たことない病気になった。畑を変えても同じ病気になる」

「何を作っているんですか?」

 とアイリが質問をはさむ。

「トカゲ芋だよ」

 村長が答える。

「あれが病気、ですか?」

 アイリは首をかしげた。

 トカゲ芋は彼女も知っている。

 寒さと干ばつと病気に強く、増産もしやすい。

 苗も入手しやすく貧しい村では特に人気だ。

「聞いたことがないですけど」

「わしらも初めてだ」

 と村長に言われると説得力が違う気がする。

「気候におかしいところはなく、病気の流行も聞いたことがない。わしらにはもうお手上げなんだ」

 途方に暮れた顔を見てアイリの胸が痛む。

「たしかに変ですね」

 と応じて気持ちを切り替えた。

 彼らのほうが作物について詳しいに決まっている。

 なら、彼らにはない視点から考えるほうがよい。

「実際に見てもいいですか?」

 とアイリが問う。

「そのほうがいいだろう」

 村長が言うと、

「じゃあ俺が案内しますよ」

 ガズが手をあげる。

「ガズか」

 アイリだけじゃなく、村人たちにも意外だったようだ。

「この子のことは俺とターニャが一番わかってるだろうし」

 と彼が言えばみんな納得する。

「たしかに一番接した時間が長いかもです」

 アイリも認めた。

「では任せた」

 村長にうなずいてガズはアイリを畑へ先導する。

 近くから人がいなくなったところで、

「悪かったな」

 ガズがぽつりと言った。

「えっ?」

 謝られる理由がわからずアイリは混乱する。

「お前さん、人見知りしそうだからな」

 自分が一番マシだと思ったとガズは語った。

「お心遣いありがとうございます」

 とアイリは答える。

 彼の予想は正しい。

 妖精の話をするだけでいっぱいいっぱいだったのだ。

 あの時間が続くと想像しただけでもアイリには厳しい。

 ガズは口下手なのか、話しかけて来ないのがよかった。

「ふんふーん」

 エルは浮かんだままついてきて、鼻歌をうたっている。

 緊張とは縁がなさそうでアイリにはうらやましい。

 ただ、ガズとふたりよりはましだと思える。

「なんて歌なの?」

 ガズへの話しかけ方がわからないので、エルを選ぶ。

「てきとーな歌だよ?」

 名前はないとエルは笑う。

「そうなんだ」

 アイリは何だか肩の力が抜ける。

 妖精らしい気楽さの影響かもしれない。

「ついたぞ」

 いつのまにか目的地に来ていたようで、ガズが立ち止まる。

「ここですか」

 アイリは声が出そうになるのを何とか堪えた。

 土は黒色でおかしなところはなさそうだ。

 問題は生えているトカゲ芋の茎葉が白くしなびているところか。

「トカゲ芋の茎と葉っぱって赤色ですよね?」

 と聞く。

「そうだ」

 アイリの知識は合っているとガズは認める。

 それはいいがさっぱりわからない。

 途方に暮れそうになる彼女をよそに、

「なるほどー」

 エルは畑の上を飛び回る。

 満足した彼女はアイリの肩の上に戻ってきて、

「このあたりの土の魔力の循環が変になってるね」

 と指摘した。

「言われてみれば」

 アイリが目をみはる。

 注意深く探らないと気づかないような、ごくわずかな差だ。

「微量でも時間がたてば変になるってことかな」

 と彼女が推測すると、

「そうよ」

 エルは肯定する。

「このままだとモンスター化しちゃいそう」

「え、芋が⁉」

 彼女の予想にアイリは仰天した。

 トカゲ芋は生物みたいな名前だが、れっきとした野菜である。

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