夢日記のような100文字小説集

数打屋 的

第1話 いろいろなテディベア

「これは熊の剥製ですよね」「いいえ、テディベアです。」「テディベアはぬいぐるみですよね」「縫ってあって、中には綿も詰めています。これは充分にぬいぐるみです。」


 プレゼントされた熊を見上げてみる。二本足で立ち上がり、こちらを襲おうと牙をむいた姿で固まっている。硬そうな毛といい、2mのずんぐりした巨体といい、充分以上に剥製でしかない。

「シリアルナンバー入りなんですよ。」

 後ろ足の肉球に5桁のナンバーが入っているそうだが、立っているので見ることができない。

 5桁もあるのかと私は感慨深くなる。


♢♦︎♢


 手芸好きの部屋に通される。色とりどりのぬいぐるみが天井まで積み重なっている。すべて自作のテディベアだと紹介される。

 一般的なもの。和柄のちりめん生地で作られたもの。極小のもの。手足が五、六本もあるもの。毛が剥げて目が取れかかっているもの。うさぎのような耳が生えているもの。ぬるついたもの。戦艦のプラモデル。

 よかったら一つもらっていって下さいと勧められるが、ぎゅうぎゅうに詰まっていて、一つ引き抜いたら崩れてきそうで手が出せない。


♢♦︎♢


 ファンシーな内装と良い睡眠体験を謳うホテルの部屋をとった。ぬいぐるみを抱き童心に返ることで安眠できるそうだ。

 やわらかな桃色の壁紙に学習机。そしてベッドの上はみっしりと並べられたテディベアで埋め尽くされている。大きなものは私の身長ほどもあり、小さなものは食玩にありそうなサイズだ。これでは自分の寝るスペースが無い。

 あまりに数が多いので、一つ一つ机に移すのを諦め、腕で薙ぎ払っていく。ぽろぽろと床に落とされるクマたちに罪悪感が募る。

 一番大きなクマを放り投げ、ようやく空いたベッドに倒れ込む。なんだか気疲れして体も重い。

 せっかくなので手近にあったプラスチック製キーホルダーのクマを握り込んで眠った。


♢♦︎♢


 ふと見ると指からほつれた糸が出ている。

 長年使ってきた身体だからそういうことにもなるか。

 あらためて見ると、指の腹もところどころ皮膚が透けてきていた。

 穴があく前に適当に自分で縫い直すか、皮膚科に行くか、いっそ美容整形外科に行ってかけはぎしてもらうか。相談するのは友達にするか、母にするか。

 考えるのも億劫で、ため息が漏れる。

 お肌の曲がり角ってこういうことかあ……。


♢♦︎♢


 害獣が出たとの一報で、猟友会に出動要請が来る。

「クマか、イノシシか、サルか」

「不明だそうです」

「不明だぁ? 困るなあー、何もかんも変わってくるんだよ」

 まあ、役所の人間に言っても仕方ない。先輩方と共に、猟銃を抱えて目撃現場へと向かう。

「しかし不明ってのがなぁ。クマとサルは見間違えんだろう」

「サルはうるさいですしね」

 現場が視認できる程度の距離に身を潜め、じっと待つ。

やがて薮が大きく揺れ、獣が飛び出した。


「ヴォアアアアアア!!!」

 シャンシャンシャン!シャンシャンシャン!!

 雄叫びをあげるクマがシンバルを打ち鳴らしながら突っ込んでくる。


「ハイブリッド型だあ!!」


♢♦︎♢




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