第9話 自警団生活一日目 ②
「よし、食事パックが届いた。十二時半までに食い終わって、午前組と交代だ」
デスクで事務作業にあたっていたトマツリが、駐機場に配送ワゴンを自分で押してきた。
自己紹介の時に整列していた十人のうち、半数がいま立哨とパトロールに出ている。詰め所にいる俺たちは食事のあとで指揮車とセンチネルに分乗して彼らのところに向かい、現場で交代することになっているのだった。
ギムナン・シティの人口はおよそ二万五千人だという。それを外敵から守るための自衛力として、軽武装のリグが六輌というのはいささか貧弱にも思えるが。
学生の頃連載されていた、おまわりさんのチームが巨大ロボットを擁して犯罪者と戦うマンガを思い起こせば、まあ順当かも知れない。
昨日のようにリグでは手に余る敵が来たときにはレダのような傭兵――グライフに応援を要請すればいいわけだ。おおよそ特撮ドラマや古典的ロボットアニメの、防衛チームとヒーローのような関係、ということか。
「さて、今日の昼飯は何かな……」
――お、ハンバーガーだぜ! ありがてえ!
――昨日の
周囲の隊員たちが先に歓声を上げたので、中身に対する驚きは味わえなかった。トレイの蓋を開けると、そこには概ねハンバーガーと言ってよさそうなものが載っていた。
柔らかめに成形されたパンに、例の肉っぽい塊を油揚げのような性状に圧延したらしい、色の薄いパテ。それと、横のくぼみには本物と思しいキドニー・ビーンズのトマトソース煮。
保温容器らしい背の低いボトルを開けるとコーヒーガム程度にコーヒーらしい香りのする温かいお湯が入っていた。口をつけると、砂糖とはやや違うものの嫌みのない程よい甘さに調節してあった。
まあ、悪くない。
悪くないが、どこか物足りなさが付きまとう。量や味ではなく、質というかもっと根源的な何かのレベルで。
(ニコルも今同じものを食べているんだろうか……)
あの子ならこのハンバーガーと煮豆を喜んで食べる事だろう。自警団の隊員たちもおおよそ満足しているし、たぶんここで微妙な思いをしているのは俺だけか。
こりゃあ、本気で傭兵の道も考えるべきか――そんなことを考えながら食事を済ませ、俺たちは午後組としてギムナンと外の荒野を隔てるゲート前へ移動した。
俺たちがセンチネルに搭乗する際にかぶっているシールド付きのヘルメットは、バイク用の「ジェット」タイプに似た形状をしている。俺が昨日初めてセンチネルに乗り込んだときには使用しなかったが、本来はセンチネルをはじめトレッド・リグの中でも比較的新しいタイプのモデルには、ヘルメットと連動した割と高度な操縦システムが採用されているらしかった。
具体的には視線追従式の照準器と、外装カメラ複数を連動させた視野補完機能など。また、眼輪筋の緊張を検出してモード切替やフォーカス補正を行うといった具合。主に視察装置のコントロールに重点が置かれている。
他にもシールド部分はメインモニターの映像に対して分析や照合の結果を付加表示したり、また機体のコンディションに応じて必要な操作をガイダンスするといった「情報強化ディスプレイ」としての機能を持つ。それと耳と口元にはそれぞれイヤホンとマイクが用意されていた。
(こりゃあ、トマツリが真っ先にヘルメットのことを訊くはずだなぁ)
昨日の通信でのやり取りが今さらながらに思い出される。
ちょっと動かしてみても分かるが、メットなしとでは操作感が全く違う。ただ、視線入力に慣れない俺にとっては、どちらかというと隊員たちの言う「予備システム」の照準器を用いた方が安心感があった。
そんなにてきぱきと目玉を動かしたり正確に瞬きしたり、センサーが感知しやすいように目を大きく見開いたりするのはしんどいし、重機の扱いに慣れているせいで目を動かすより手の方が補助レバーなどを探して彷徨ってしまいがちなのだ。
俺は初心者ということで、今日はゲート内側すぐのエントランス部分でじっと立っているのが仕事だ。
あと二人のセンチネル要員は別に設けられたリグ専用のゲートから出て、外の荒野をにらんでいる。メインゲートの扉は核にも耐えるレベルの耐久性をそなえていて、モーターグリフの主要火器でも突破は困難なのだそうだが――蛇の道は蛇、というやつで。
ゲート外の操作盤に手のひらサイズのツールを接続してハッキングをかけ、ものの数秒もあればロックを解除してしまうような錠前破りもいるのだという。
とはいえ、そんな化け物も、モーターグリフを持ちこんでくるような派手な襲撃も、そうそう頻繁にあるわけでなく。
昨日とは打って変わって、今日は何ごともなく一日が終わりそうだ――
そんな気分でそろそろ次の交代が待ち遠しくなった午後五時半。シティの中央部から、一台の乗用車らしきものがゲートへ向かって接近してくるのを、俺のセンチネルの後部カメラが捉えた。
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