友人の彼女に頼まれて寝取ったことにしてざまぁされる予定だったが、俺の彼女が友人に寝取られてた。
でずな
第1話 寝取ったことにした
「お願い。私のことを寝取って」
俺――
話しかけてきたのは、友人――
聞き間違えたのでなければ、今俺は友人の彼女に寝取りを提案された。
(どういうことだ?)
ひかりちゃんとは天と一緒にいた時数回喋ったことがある程度で、あまり接点がない。
あの時は清楚でおとなし目な子だと思ってたのに、天抜きでNTRの相談をするなんて危ない性癖の持ち主だ。
「それって天に相談してるの?」
「相談? あ、あ〜……そういえば寝取ってほしい理由言ってなかったね。寝取ってほしいのはね、天くんが私と本気で付き合ってるのか見極めるためなの」
本気で付き合ってるのかを見極めるのなんて、いくらでも方法がはるだろうに……。
NTRを選ぶなんて、やっぱりひかりちゃんは危ない女性だ。
整った小さな顔に真っ赤な長髪で、モデル並のきれいなスタイルであるひかりちゃんからの頼みなんて、断りたくても断れない。
高校まで陰キャ道を貫いて大学デビューをした俺に、少しでも断る勇気があればな……。
「見極めるためなら寝取るんじゃなくて寝取ったことにしない? 最終的に天には男らしいところを見せてもらって、俺がざまぁされる感じでさ」
「ほほう? ざまぁね……。なんかラノベみたいで面白そう! ……でも、岸辺くんが悪役になっちゃったら天くんから嫌われたりしちゃうかもよ?」
「ひかりちゃんの彼氏の天は懐が広いから、最初は怒ってくるかもしれないけどちゃんと事情を話したら分かってくれるよ。それは彼女であるひかりちゃんがよく分かってるでしょ?」
「へへっ私の彼氏ってばいい男でしょ?」
彼氏のことをとろけた顔をしながら自慢する彼女……。
この姿を天が見たら「くぅ〜。やっぱり俺の彼女は完璧で可愛くて最高だ!」とか言って、俺にマウントを取ってくるだろうな。俺もつい最近人生で初めて彼女ができて、マウントを取りたくなる気持ちがよくわかる。
(本当、お互い良い彼女を持ったな)
でも、寝取ったしたことにしないといけないんだよな。
人生初彼女のことを裏切ってるみたいだから、一言連絡でもしたほうがいいのか?
(もしそれで幻滅されたら嫌だ)
どうせすぐ何もなかったことになるのなら、言う必要はないはず。
(大丈夫。大丈夫。悪いことをするわけじゃないんだから、こんなドキドキする必要ないんだ)
「岸辺くんってこれからなにか予定ある? ないのなら早速寝取ったことにするために協力してほしいなぁ〜なんて言ってみたり」
「なんも予定ないから取り掛かるか」
「うんっ」
寝取ったことにする、というのは意外と簡単だった。
というのも、なぜかひかりちゃんが『こうしたほうがいいんじゃないか……?』『やっぱりこっちの角度のほうが……』などと、結構乗り気だったからだ。
俺は何もせず、言われたことを言いながら動画を取って、写真を取ったりした。
で、俺が今いるのはラブホ。
(まさか彼女ともまだ一回も来たことがないラブボに、友人の彼女と行くことになるなんて思ってなかったな……)
自分でもわかるくらい震えながらラブホに入ったから、罪悪感があったのかな。
俺のことを彼女より先にラブホに誘ったひかりちゃんは、「せっかくだし」と言ってシャワーを浴びに行ってしまった。
広い部屋の中、大っきなベットの上でぽつんと座っているとなんだか虚しい。
(でも、ひかりちゃんとは寝取ったことにした動画を取ってちょっと気まずくなってたし、虚しいのがちょうどいいのかな)
「ふぃ〜このラブホのシャワー最高」
バスローブ姿のひかりちゃんが出てきた。
髪の毛を後ろに団子でまとめていてらいつものおしとやかな雰囲気がガラッと変わって無邪気な女の子みたいだ。
「ひかりちゃん。一応確認するんだけど、俺に寝取られたってことにしていいの?」
「ふふっ当たり前でしょ。私が信頼できる天以外の男性って、岸辺くんだけなんだから」
「そっか」
「そういえば聞くの遅くなっちゃったんだけど、岸辺くんって今お付き合いしてる人っているの?」
ひかりちゃんは真剣な声色で聞いてきた。
本当はいるけど、もしそう言ったら寝取ったことにするのはなかったことにされそうだ。
彼女には悪いけど、俺はひかりちゃんの手伝いをしたい。
「付き合ってる人なんて今まで一度もできたことないよ」
「え〜? そんなことってあるの?」
「どうも。付き合ったことがない暦=年齢の男です」
「あ、いや。バカにしたってわけじゃなくて、岸辺くんみたいな女の子に惹かれるような人に彼女ができたことがないって聞いてビックリしたの」
ひかりちゃんは優しいな。
「あはは……。そう言ってもらえるとちょっとは救われるってもんだよ」
「本当にビックリしただけだからね? ……もし天くんに出会ってなかったら私、岸辺くんと付き合ってたかも」
(な、なんなんだこの絶妙な空気は。完全に誘ってるとしか……)
「なんちゃってぇ〜。ふふっ岸辺くんには魅力があるんだから、ちゃんと彼女を作る努力をしたらすぐできると思うよ」
「あ、ああ。そうか……」
真面目に励ましてくれてたのに、誘ってるなどと邪な考えをしていた俺のことを殴りたい。
「よぉ〜し。じゃ、そろそろ天くんに私が寝取られたって勘違いするような動画送ろっかな」
「ほーい」
そうして俺は天の彼女を寝取ったことになった。
翌日。
俺とひかりちゃんは、天をカフェに呼び出した。
そこでネタバラシをして、一件落着する予定だ。
「ねえ。上手くいってると思う?」
ひかりちゃんは不安を感じさせるか細い声で聞いてきた。
昨日は寝取られることにノリノリだったのに、この有様である。
「いってるいってる。だって、昨日スマホに天からとんでもない数電話かけられたし。ひかりちゃんもかけられたでしょ?」
「い、いや……」
「えっ?」
(おかしい……。普通、寝取られたってなったらまず最初に彼女の心配をするだろ)
不可解な点はある。でも、俺は確かに昨日電話をかけられた。ラインで事実確認のふしの連絡も来た。天が知らないという可能性は微塵もない。
(なんか手違いでもあったのかな?)
と、考えているうちに。
「……着いた」
待ち合わせ場所のカフェに到着した。
窓から覗くと、すでに天がカフェの中に入って待っているのが見える。
口を動かし、顔は角度的に見えない場所にいる正面に向けられている。
(これ、誰かと一緒にいるな)
「岸辺くん。まだ、天くんが私と本気で付き合おうとしてるのかわからないからちゃんと演技してね」
「ああ。それは任せてくれ」
よし。どうなるかわからないけど、行くか。
俺はひかりちゃんの手を無理やり握り、奥歯を噛み締め、少々強引にカフェの扉を開いた。
チリンチリンと本来来客を知らせる鈴の音がアラームのような大きさで店内に響き渡り、話し込んでいたお客さんや、店員さんが俺たちに視線を向けた。
端っこの席に座っている天もそれは同じで……。
「ん?」
(なんで天の前に俺の彼女――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます