10-31 錬金術の頂
「雑兵とは言ってくれるね。だが――"神槍グングニル"の威力を味わった今、もう一度同じ事が言えるか?」
マグナスの傍らに立っていた女騎士が僅かに笑みを浮かべながら言い放つ。
彼女が手を開くと、魔人の腹部を貫いていた槍は瞬時に消え去り彼女の手元へと戻っていた。
腹部に大穴を開けられた魔神は口から血を吐きながら両手をつき地面へ倒れ込む。
『――"神槍グングニル"!? バカな……素材も製法も失われた伝説のアイテムのはず――』
そこまで言って魔人がハッと顔を上げる。
見れば、女騎士達はそれぞれに異なる武器を構えている。
七色に輝く長剣。
ガラスのように透き通った盾。
黄金の鎚。
『まさか……"エクスカリバー"に"ヒルドルの盾"、"ミョルニル"――全て錬金術における伝説のアイテムだというのか!?』
狼狽える魔神に向け、それぞれの武器を構え直す女騎士達。
『ふ、ふん。……成る程、私とした事が取り乱しました。そんな偽物を用意して私の注意を引こうとは、なんとも浅はかな――』
腹部の傷を再生しながら魔神は再び立ちあがろうとする。……が、どういう訳が傷が思うように治らない。
『な、なんですか、このとてつもないダメージは!?』
そんな魔神を尻目に、透明に光輝く盾を構えた騎士がそれを天へと掲げると――盾から眩い光が放たれ、まるで流星のような光の雨が戦場に降り注いでいった。
戦いに傷つき疲れ果てていた兵士達は、雨に打たれた途端一瞬にして傷が癒え力を取り戻していく。
それどころか、既に事切れた兵士達の亡骸も光に包まれ元通りに息を吹き返していくという奇跡のような光景が広がっていた。
『こ、これは!? 戦死者を蘇らせるという“ヒルドルの盾”の力――』
目の前で起きた出来事に戸惑い、あからさまに焦りの色を呈する魔神。
そんな魔神の様子を見て、先陣に立つマグナスが静かに言い放つ。
「――あんたも錬金術師の端くれなら分かるだろう。インチキなんかじゃない、全部本物だよ」
『バ、バカな! たった1つでも錬成に成功すれば後世に名を残せるような神器の数々だぞ! こんな事があり得る訳が――』
どうにか腹の傷を再生し慌てて立ちあがろうとする魔神だが、今度はその真紅の翼がみるみるうちに崩れ落ちていく。
『なっ!? ――何が起きている!?』
自分でも状況が掴めないのか、焦りと怒りの織り混ざった顔でマグナスを睨みつける魔神。
「分からないか? お前が街に放った魔物がどんどんと撃破されてんだよ」
『――そ、そんなはずは!?』
ハッと我に返り辺りを見渡すと、大量に居たはずの褐色の魔物は既に1匹たりとも残っていない。
魔人は慌てて天を仰ぎ、周辺の気配を探る。
……街中に無数に放ったはずの魔物達も、もう殆ど残っていないようだ。
『き、貴様! 何をしたぁぁ!?』
自ら問いかけておきながら、その返答も待たず怒りのままに魔神はマグナスに向かって飛び掛かっていった!
しかし、その一撃は傍らで控えていたロングソードの騎士にあっさりと止められてしまう。
「“魔人”の力は確かに強大だ。それこそ無限に近い力がその身に宿ってるのかもしれない。……それに比べたら俺たち人間の力なんてちっぽけなもんだ」
静かに話し始めるマグナス。
七色に輝く"聖剣エクスカリバー"を携えた騎士が魔人を大きく斬り付ける。
『グ、グオォォォオ!!』
傷口から大量の血を流しフラフラと後退する魔人。
「……けどな、強さってのは何も持ってる腕力や魔力の事だけを指す訳じゃない。――人が自分だけの力じゃ到底倒せないような大木も、斧があれば切り倒せるように。素手じゃ到底動かせないような岩もテコがあれば動かせるように。人間はそうやって“
聖剣の斬撃を受け、再生能力が追い付かないのか魔人は地面を揺らしドサリと膝を付く。
ゼェゼェと息を上げ、立ちはだかるマグナスを睨みつけるしかできない。
『だ、だから何だというのだ……! だからといって、これだけのアイテムを何処から揃えて来たというのだ!?』
目を血走らせ獣のような叫びを上げる。
「――錬成したんだよ」
『錬成だと!? バカな! こんな数のアイテム、錬成するのに何十年かかると思っているんだ!!』
混乱し声を荒げる魔人。
だがマグナスは至って冷静に言葉を返す。
「……なぁ、この世界にアイテムって何種類あると思う? 派生品まで含めると実に数千種類に及ぶらしい。――その全てを一斉に錬成する。これがマクスウェルの秘術――“ヤオヨロズ”だ」
『――――そんなはずがあるか!! そんなもの、滅茶苦茶にも程がある! だいたい、素材はどする!? 錬成に必要となる膨大な魔力は!? そもそも伝説のアイテムに至ってはレシピすら殆ど失われているんだぞ!! そんな……そんな、この世の法則を全て無視したような錬成をどうやって――』
そこまで言って魔人も自ら気づいたようだ。あんぐりと口を開けたまま固まってしまう。
――方法なら1つだけあるではないか。
錬金術師ならば誰でも知っている。
この世の成り立ちにすら干渉し、"真理"を意のままに操り全ての法則を無視した錬成を可能にするアイテム。
誰もが知っているが、ただのおとぎ話と揶揄され誰もがたどり着けなかった錬金術の
『まさか……マクスウェルは至っていたというのか――"賢者の石"に』
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