色欲の錬金術師 〜アイテムが全て美少女化して錬成されるんですけど！？ これじゃ商品にならないので、アイテムさんたちと街の便利屋始めます〜

10-29 奇跡と呼ぶには余りにも奇妙な光景

「大丈夫ですか！？　しっかりしてください！」

　倒れた騎士の肩を抱くリリア。

「どうしたの！？」

　追いついたナーニャがリリアの隣にしゃがみ込む。

「わ、分かりません！　突然倒れ込んでしまって……目立った外傷も無いみたいですし……」

「そうね、さっき見た時も特に問題無さそうだったけど。……さすがに無理が出たのかもしれないわ。一旦後方まで運ぶわよ」

　そう言って、兵士の肩を担ぎ立ちあがろうとしたとき。

（――！？）

　突然目眩を感じ、ナーニャもその場にへたり込んでしまう。

「ナーニャさん！？　大丈夫ですか！」

　驚いて声を上げるリリアだが、その声すらもナーニャには歪んで聞こえる。

（――何これ？　疲労……？　違う。この目眩……何かおかしい）

　ぐわんぐわんと揺れる景色の中、どうにか顔を上げ周囲を見渡す。

　すると、あちこちで同じように人々が倒れていくのが見えた。

（これだけの人数が同時に……まさか！）

　改めて周囲を観察する。

　目についたのは……腐敗したように醜く膨れ上がった魔物の死骸。

　そこから赤紫色のガスが噴き出している。

（――しまった！　毒！！　……迂闊だった。本来毒というのは弱い生き物が強者から身を守るために使うもの。まさか自らを“神”と豪語する魔人が毒を使ってくるとは――！）

　周りを見ると、最初から居た狼型や鳥型の魔物の数は減り、いつの間にか骸骨やゾンビを模したアンデッド型の魔物が増えていた。

「ナーニャさん、私も、何だか……」

　ナーニャの隣でリリアもパタリと倒れてしまう。

（これは……不味いわね。どれもこれも初めて見る魔物だし、毒の成分も不明。普通の解毒剤が効くとも思えない……。今から成分を解析して解毒薬を錬成なんてしてたら到底間に合わないし……）

　途切れそうになる意識を必死に手繰り寄せてどうにか打開策を考える。

　けれど……どうしてもこの場を乗り切る案が思いつかない。

（どうしよう……身体が……痺れてきた……）

　やっとのことで開いていた瞼が重くなり、徐々に視界がぼやけてくる。

　そんな最中……

「あら、夜も遅いから皆さんお眠かしら。もぉ、こんな所で寝たら風邪をひいちゃうわよ」

「そんな訳ないでしょ。毒よ。ほら、あなたの“万能薬”貸して。手分けして飲ませて周るから」

「……そんな事言って。どさくさに紛れて“惚れ薬”飲ませる気でしょ？」

「なんでそうなるのよ……」

　殺伐とした戦場には到底似つかわしくない、フワフワとした会話がどこからか聞こえてくる。

　どうにか目を開けると、綺麗なドレスを着た女性が2人、悠然と戦場を歩いている。

（……逃げ遅れた貴族？　それにしては何処か浮世離れしたような独特の雰囲気が……）

　そんな2人を目掛け、死角から魔物が飛び掛かる。

（――危ない！）

　叫ぼうとするが痺れて声が出ない。

　しかし――次の瞬間には魔物は宙を舞い遥か遠くまで吹き飛んでいた。

「あんたたち、戦場のど真ん中で油断してんじゃないよ！」

　彼女達を助けたのは、騎士でも兵士でもなく……巨大な十字架を背負った筋骨隆々なシスターだ。

　信じられないが、どうやらあの十字架で魔物を遥か上空まで打ち上げたようだ。

「だってシスターが居るんだから、油断しても安全でしょ」

　深緑色の髪の女性がニコニコと笑う。

「あのさぁ。アタシはこれでも補助アイテムなんだからね！　戦力としてアテにしてもらっちゃ困るわよ」

　十字架を担ぎ直しながらため息をつくシスター。

「そんな事ないですよぉー。私なんかよりぜんぜん頼りになりますもん」

　そんなシスターの傍から、小柄な女騎士が姿を表す。

　その手には蒼白く輝くシルバーソードが携えられている。

「ちょっと！　あんたは武器だろ！　甘ったれてないで行くよ！」

「ひーぃ」

　シスターに首根っこを引っ張られ魔物の群れに突撃させられていく女騎士。

　涙を浮かべ時折悲鳴をあげながらおっかなびっくり戦うものの、その一撃はかすっただけでアンデッド形の魔物を跡形もなく葬り去っていく。

「ほら、貴女もコレ飲んで」

　薄れ行く意識の中、何かの薬を飲まされるナーニャ。

　明らかに怪しいが、最早抵抗する力すら残ってない。

　――暫くすると、先程まで息をするのもギリギリだった呼吸が徐々に戻ってくる。

　うっすらと目を開けると、丁度隣でリリアも目を覚ましたようだった。

「あの……ナーニャさん。いったい何が起きたんですか？」

　頭を押さえながらフラフラと立ち上がるリリア。

「私にも分からないわ……。ただ――」

　辺りを見渡すと、あれ程居た魔物はその数を大幅に減らし、倒れていた人々も無事に意識を取り戻したようだ。

『ブゥルァァァア――！！』

　遥か遠くでは、先程のシスターが十字架を振り回しながら魔物の群れを蹴散らしている。

　十字架が一振りされる度に数匹の魔物が宙を舞い粉々になって消える。

　その周辺では、さまざまな武器を持った女性達が次々と魔物を討伐している。皆相当な使い手のようだ。

「……ごめんなさい。やっぱり本当に、全くもって訳が分からないわ。何なのかしらね」