07-03 こわがりシルバーソードさん

「――お呼びですか、我が主」


 “シルバーソードさん”がゆっくりと目を開き、穏やかな声で話しかけてくる。


【シルバーソード】とは、呼んで字の如くシルバーを折り込んで鍛造した長剣の事。

 銀は硬度が低く、物理攻撃面だけを見ればロングソードよりも劣る。

 けれど、銀の持つ特性“アンデット特効”によりアンデット系の魔物相手には無類の威力を誇るのだ!!


「た、助けて! 魔物がぁ!」


「落ち着いてください、我が主。大丈夫です。敵はどこですか?」


 慌てて泣きつく俺を宥めるように、優しく微笑むシルバーソードさん。その女神のような微笑みを見て、いくらか冷静さを取り戻した。



「あ、後ろ! 後ろから来てます!」


 シルバーソードさんのすぐ背後まで迫るゾンビを慌てて指差す。


『オオ、ォォオオーー!』


 迫り来るゾンビに対して慌てる事もなく、ゆっくりと振り向きその姿を確認するシルバーソードさん。

 ゾンビは今にも飛び掛かってきそうな勢いだが、それでも全く動じない。

 ――さすがアンデッドの専門家だ。低級の魔物ごときでは慌てもしないのか。


 その落ち着き払った態度に関心していると――


「……ひぃ!」


 ん?

 シルバーソードさんが突然ビクリと震えて、悲鳴のような小さな声を上げた。



 そして――


「――ひぃーー! お化けぇぇー!!」


 森中に響き渡る程の大声を上げて、そのまま脱兎のごとく逃げ出してしまった!


「へ?」


 何が起こったのか分からず呆然としていると、周辺の地面がボコボコと波打ちゾンビが次々と沸き上がってくる。どうやらシルバーソードさんの絶叫で目を覚ましたようだ。


「え? ええええっ!!?」


 5体に増えたゾンビたちにあっという間に囲まれる。


「ち、ちょっと! 冗談じゃねえって!!」


 涙と鼻水を流して腰を抜かすちびっ子達をどうにか抱き起こし、捨て身タックルでゾンビを躱しながら、訳も分からないまま森の出口に向かって全速力で逃げまくった。



 ―――



 ――翌日。



「ねぇ、木の盾ちゃん。昨日逃げるとき私の事押しのけたよね!?」


「えぇ!? そんな事してないよ! 麻の服ちゃんこそ私の足踏んだよね!?」


 朝っぱらから喧嘩を始めるちびっ子たち。



「――はぁ……。自らの主君しゅくんを置いて逃げ出すとはどういう事だ。騎士としてあるまじき行為だぞ」


「……すいません、先輩」


 ロングソードさんにお説教されるシルバーソードさん。


『何かあったら私に言ってくれ』と言われていた手前、ロングソードさんを呼び出し事の顛末を説明した訳だが……。

 話を聞くなり、どうしても話がしたいという事でシルバーソードさんを呼び出した次第だ。


 一通りお説教を終えたロングソードさんが、シルバーソードさんを連れて俺の元へ謝りにくる。


「申し訳ない、主殿あるじどの。私の見立てが甘かった。彼女、実力ではそこいらのアンデッドになど後れを取るはずも無いのだが――いかんせん怖がりでな。良い実戦経験になるかと思ったのだが……」


 そういって深い溜め息をつくロングソードさん。


「そうなんですか。いえ、全員怪我も無かったし気にしないでください。あの強いロングソードさんがそこまで言うなら実力は間違い無いんでしょうけど……シルバーソードさんも、もう少し自信を持ったら良いんじゃないですか?」


 ロングソードさんの隣でいじけたように俯くシルバーソードさんに声をかける。


「……我が主! そうは言いますけど、主殿は生きてる虫とか平気で素手で潰せますか!?」


 しょげているのかと思ったら、突然顔を上げて詰め寄ってくるシルバーソードさん。


「へっ? え、いや、虫はちょっと。むしろ苦手な方というか」


「そうでしょ!? 別に虫に負けるなんて微塵も思ってないけど、いざ潰せるかって言われたらそう簡単にもいかないでしょ!? 勝てるかどうかと、得意か苦手かは別問題なんです! 私はアンデットが苦手なんです! ……だって見るからにグロいのばっかりじゃないですかー!!」


 ブンブンと激しく首を振るり抗議するシルバーソードさん。その度に美しく長い髪がたなびき、ティンクとはまた違った良い匂いが辺りに広がる。



「はぁ……仕方ない。こうなったら、あの方にお願いするか」


 頭を抱えたロングソードさんが、手近にあった紙にメモを書き始めた。


「主殿、悪いがこの素材を集めてきて貰えないだろうか。今の主殿ならばそれほど苦戦する素材ではないと思う」


 手渡されたメモには――【退魔の聖水】の材料が書かれていた。


「……これは?」


「シルバーソードと違い補助アイテムだが、退魔の聖水――通称“シスター”もアンデッドにはかなり詳しいかただ。主殿の強い味方になってくれるはず」


 ロングソードさんからメモを受け取り内容を確認する。確かに近場で取れる素材ばかりだな。


「分かった。直ぐに用意してるよ」



 ……余談だが、"銀"はそれなりに高価な素材なので、お説教のためだけに呼び出すのは中々に懐が痛い。頼むよ、シルバーソードさん。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【シルバーソード】

 剣身の一部、又は全部が"銀"で鍛造されたロングソード。

 "銀"は貴金属レアメタルの中では割と安価な部類であるとはいえ、値段はそれなりの物になる。

 素材としての強度は"鉄"や"鋼"より低く、脆く傷がつきやすため取り扱いには注意が必要。

 そのため真剣での斬り合いではなく、ゴーストやホロウなど実体の無いアンデッドを斬るのに使われる事が多い。または魔法剣の触媒や儀式的な用途に使われる事も。

 ちなみに……"アイテム"としてはシルバーソードの方がお値段は上だが、"アイテムさん"としてはロングソードさんの方が先輩らしい。

 シルバーソードだけではなく、ゴールドソードも、ミスリルソードも、原型は全てロングソードであり、長剣類の中ではロングソードさんが一番の大先輩とのこと。

 なるほど、結構すごいんだねロングソードさん。


※シルバーソードさん

https://kakuyomu.jp/users/a-mi-/news/16817330651837391125

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