捻れて歪んだ愛のカレ

梅福三鶯

第1話 魁1

 カレはとても愛してくれた。いつも私を守ってくれた。でもそれは異常な程で、例えば私がノラ猫に手を引っ掻かれた時、カレはすぐに猫を殺した。


「キミを傷つけるなんて許せないからね。もう大丈夫だよ」


 そうにっこり笑って。


 そして私に絡んできた男も、いじめてきた女も、動物だけでなく人間も全て殺した。


「アイツはボクが殺しといたから。心配しなくても、証拠はないよ。もう怖くないからね」


 眼鏡の奥、神経質そうな瞳を優しく笑ませて、私をぎゅっと抱きしめて言った。





 私はそんなカレが怖くなって、カレから離れる為に引っ越した。別れを言ったら、カレがどんな行動をするか怖かったから何も言わずに。


 そしたら、毎日のように彼からの手紙が前の住所から、転送されてきた。


──どこにいるの? 淋しいよ。


──いつもキミの事を考える。


──ボクを試してるの? 必ず見つけ出してみせるから。待っててね。


 何通も何通も送られてくる手紙に私は怖くて、次第に封を開けずに捨てるようになった。






 そんなある日、会社から帰宅して家の玄関を開けようとしたら、


「栞」


 と、私の名を呼ばれて、後ろから抱きつかれた。


「やっと見つけた。逢いたかったよ。早く愛し合おう?」


 カレは私の首筋にキスをしてきた。


「どうして……ここが……」


 カレはくすっと笑い、


「それは内緒だよ。キミと一緒にいる為なら、ボクはなんだって出来るんだ」


『だって、ボクとキミは運命の赤い糸で繋がった恋人だからね』


 カレは楽しそうに言った。






 そしてカレに別れを言う勇気もなく、私はカレと暮らす事になってしまった。けど、私がカレに悩みや苦手な人の話をしなければ、カレは殺す事はない。


 そうしたら、いつもの優しいカレのままでいてくれる……。


 そう思い、私はカレに会社での事は何も言わなかった。


 ため息をついていれば、


「会社で何かあったの?」


 そうカレは聞いてきたけど、


「ううん。なんでもない」


 と、笑ってごまかした。






 ある日私は、会社の上司にこっぴどく叱られ、落ち込んで帰った。


「ただいま……」


「おかえり。栞、聞いて。もう大丈夫だよ」


 カレはサプライズを明かすように、浮き足立って言う。


「……何が?」


 まさかまさか嘘でしょ……。


「今日、キミを叱っていた上司、殺しといたからね」


 そう言って、いつものにっこり笑い。


 私は血の気が引いた。


「い、いま……なんて……言ったの?」


「ん? だからキミの上司、ボクが殺しといたからもう大丈夫だよ」


 私の頭を優しく撫でるカレ。


「なんで……会社での事、知ってるの……」


 カレはカンタンに一言。


「みてたから」



 そう当たり前の事のように言った。





「もう……やめて……こんな事しないで……」


「なんで? なんでそんな事言うの? キミを傷つけるものは、みんな死ぬべきなんだ。死んで当然だよ」


 カレが冷たく言った。


 もう……ダメ……一緒にいられない……。


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