第70話 精霊王、再び
パノキカトでは足止めと住民避難で手一杯だった。
アステリの魔法で転移して、上空から静かに降り立てば周囲は様々な反応を見せる。
聖女が戻ってきたと喜んだり、魔王が来たと震えたり、魔物に驚いたり、倒すべきは私だと叫んだり。
それに対しエフィは通る声でシコフォーナクセーから助力に来たと伝え、住民の避難を最優先に動き始めた。
カロを中心にしたエフィの直轄の騎士団は迅速に動いて人の避難を優先させる。次にアステリが加わったアネシスからの助けである魔法使いで構成された部隊が精霊の動きを止める、はずだった。
「ちっ、やっぱそーかよ」
「アステリ?」
「あいつに魔法はきかねえぞ」
予想していたことだったらしい、精霊に私たちの使う魔法がきかない。
攻撃は無効、蛇が振り回す尾の物理ダメージを防いだり、壊れ飛んでくる瓦礫から人々を守ることしか今は出来ない。
「フェンリル、アステリたちを助けて」
「ああ」
他国から干渉があるからとドラゴンを筆頭に一部を海の向こうに寄越している。呼び戻すべきだろうか。あちらではヒュドラとかリバイアサンにも話がついたから足止めとして申し分ないはずだ。
魔物の一部をアステリたち魔法使いの補助に回した。住民を守りきるだけでも難しいところをこなしくれている。けど守りだけではこちらの耐久戦でしかない。
エクセロスレヴォの助けも今は住民保護を優先の上、一部がカロたちに加わっている形にしてもらっている。蛇を倒すにはもう一つ決定的なものがほしい。何があれに効くのだろう。
「イリニ」
「え?」
蛇の精霊が半身をあげ空を仰いだ。
同時咆哮し、空気が震動する。
「はい?」
蛇から手足が生えた。身も少し縮み、完全な
「ここにきて?」
怪獣映画じゃないんだから、変身とか進化とか必要?
その怪獣が全身に何かを纏う。遠くからでも熱さを感じた。
「イリニ!」
「!」
エフィが私を抱いて横に飛んで逃げた。
エフィの身体の隙間から見えたのは炎だ。蜥蜴になった精霊が口から放った。
「サラマンダーになったの?」
四大元素の上位精霊には名前がつく。火の精霊はサラマンダーだ。でもそれはリーサが聖女になる前の伝承で、今になって出てくるなんてことはないはず。
「ちっ、炎を防ごうとするな! 魔法の障壁は意味ねえぞ!」
アステリが叫ぶ。サラマンダーが全身から放つ無数の炎は矢になって襲ってくる。いずれも魔法の障壁を打ち破り、魔法使いが次から次へと負傷していく。
「アステリ! 剣なら防げる!」
「効くの物理だけかよ、くそが!」
エフィが飛んできた炎の矢を叩き落とした。
矢は土にしみて鎮火する。聖女の魔法を纏い僅かな炎の触れれば中身が知れた。
「精霊王……」
「いつも君を苦しめるこの国が許せない」
頭の中で声が響いた。許せないと言った男性の声の主は、ずっと探していた人物だ。
「精霊王?」
「イリニ、下がるぞ」
「待って」
ここは神殿に近い。
まさか精霊王がきている?
「どうした」
「精霊王がいる」
エフィが目を開く。
精霊王がいるなら、サラマンダーをおさえることができる。私の力を返す以前に、精霊王と対話さえできれば、この惨状を終らせることができるはずだ。
「神殿に行く」
「待て、イリニ」
「駄目だ。来ないで」
精霊王の声が聞こえる。来ないでなんて拒否の言葉は聞けない。すぐそばまで来ていて行かないなんて選択肢は選ばないわ。これだけ近くに聞こえる声と近くに感じられるなら、精霊王に会えた意識の世界に行ける気がした。
その考えに辿り着いた時、私の足元が光る。見たことない特殊な魔法陣に、精霊王だとすぐに分かった。
「イリニ!」
私の足元が光っているのを見て、エフィが慌てて私の手を取った。
待って、このままだとエフィまで一緒に連れてっちゃう。
「エ、」
ぐらりと視界が変わった。独特の浮遊感に、見覚えのある空間がある。意識の世界だ。
「うそ」
エフィが跳ね返されて現実世界に戻らずに意識の世界についてきた。聖女以外は無理だと思っていたけど、案外できるものなんだと逆に感心する。
エフィは足元もふわふわの不思議な空間をきょろきょろ見ながら、ここに精霊王がいるのかと囁いた。それにしっかり頷く。
「いるんでしょ?」
「イリニ」
「リーサ、
私の中で溶けて混じりあった二人の前世が人の姿をして現れた。確実だ。
意識の世界では溶け合った意識は個を取り戻し形として現れることができる。肉体や魂といったものの境界線が曖昧な世界だから、普段形として見えない前世の記憶と意識が姿を持つことが可能だからだ。まあぶっちゃけていえば、なんでもありの世界。
「二人とも急いでるの。精霊王は?」
「大丈夫だ、イリニ」
「ここは時間の流れが特殊なので、ここから戻っても数秒も経っていない設定ですよ!」
聖が意気揚々と語っている。そういう特殊空間もテンプレといえばテンプレよね。
エフィは私の二人の前世に驚きつつも、後から現れたもう一つの気配に警戒の色を示した。
「エフィ、大丈夫」
「なら、彼が?」
「そう、精霊王」
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