第68話 テンプレラストバトル開始

「殿下!」

「どうした」


 用意してもらった客間で着替えてエフィと合流し、城の中庭でまったりお茶を頂いていたら、焦った様子で騎士の一人が現れた。


「パノキカトに得体の知れない生物が現れました」

「続けて」


 どこから来たか分からない。

 巨大な蛇に見えるという。神殿近くに現れた蛇は街を破壊しながら王城へ向かっているらしい。


「魔物じゃないの?」


 話の間に入るのはよくないかなと思いつつも口を出してしまった。

 騎士は私を見て気まずそうに口ごもる。

 あ、私が魔王なの気にしてる?

 ちらりとエフィに視線を寄越せば、分かったと言わんばかりに頷いた。


「アギオス侯爵令嬢に応えなさい」

「は、はい……シコフォーナクセーではどの魔物にも該当しないと判断されていますが、パノキカトでは魔物としているようです……その、聖女様が寄越したものだという話も出ています」

「やっぱり」


 私がパノキカトを恨んで魔物を送り込んだとかそのへんかな。ひどいな、もう。全部捨て置いただけでやり返す気ないって何度も言ってるじゃない。

 それにやり返すなら元婚約者だけでしょ。国で暮らす住民に罪はないから、危害を与えることはない。


「父上は」

「この件は殿下に一任するとの事です」


 疑いは自分で晴らせってことか。

 パノキカトの出方によっては友好関係に罅が入りかねない事態だから、最終手段として王陛下を残しておく方が安全だろう。

 外交でよく顔を出していて、聖女である私に関わりあるエフィを選ぶのは当然のことだ。


「分かった」


 エフィは騎士に指示を出す。直轄の騎士団とアネシスの方にも声をかけることになった。前に山の城に来た二個師団なら数も十分だし、騎士と魔法使いのバランスもいい。

 騎士が指示を受け去った後、私たちは一旦山の城に戻ることにして、アステリとカロと合流した。


「連絡手段はアステリに用意してもらったよ~」

「つーか面倒なことになったなー」


 イディッソスコ山の城に戻ってすぐ、皆でドラゴンの見張り台からパノキカトを見下ろすと、確かに大きな蛇が蠢いていた。蛇の魔物は沢山いるけど、どれにも該当しなさそう。

 パノキカトの騎士やら魔法使いが駆り出されてなんとか進行を止めている。けど戦力が乏しい。元々聖女の結界で守られていた分、自国の防衛力は最低限だ。


「確かに見たことないね」

「あれは魔物ではないぞ」

「ドラゴン?」

「精霊だな」


 予想していたのか、私以外は驚くこともなく頷いた。


「精霊って……」

「精霊王が出したんだろ」

「まあそうなるんだろうけど」


 なんで?

 出てくる気ないけど口出したいなにかがあった?


「イリニ絡みか」

「だろうね~」

「私?」


 エフィが頷いた。

 祝福をさらに与え、聖女からは外さず、新しい聖女を設けない。それだけでも異例であるのに、以前の二回の地震と今回の蛇の来襲は精霊王が起こしたことだと言う。


「地震も?」

「いずれもイリニがパノキカトの王太子に冷遇された後に起きている」

「まー可能性は高いよなー」

「今までなかったものだしね~」


 地震や巨大な蛇は精霊王なら簡単に扱える。

 私が元婚約者と関わると地震が起きた。加えて巨大な精霊がパノキカトを襲うということは、元婚約者が私にした行動もしくは言動が引き金ということだろうか。

 そういえば、あまりにひどい死に方をするからどうこう最初に話していたっけ。となると、私が元婚約者によって殺されそうになったら起きるということ?

 先日の社交界で元婚約者は私を始末していればと苦々しく囁いていた。それが蛇を召喚するに値するものだったということ? けどこれだけだと確定できない。本当にやったかはそれこそ精霊王にきかないと。


「あれをどうにかすれば分かるよね~」

「そーだな」

「多少骨が折れるがやるしかない」


 皆やる気満々だった。しかも蛇を倒せる未来しか想定しない物言いだからすごいと思う。なんだか巨大怪獣へ立ち向かう特殊部隊の面々みたいな感じだけど。


「ん? おい、待て」

「アステリ?」

「来やがった」


 アステリが蛇の向こう、パノキカトを越えた水平線を睨んだ。


「海の向こうから来たな」

「ドラゴン?」


 私にはなにも見えない。分かるのはアステリとドラゴンだけだ。どうやら海の向こうから多数の他国巨大船舶が来ているらしい。


「聖女不在の話を聞き付けてパノキカトを落としに来たか」


 このタイミングで?

 蛇の精霊だけで手一杯のパノキカトが海の向こうの他国の相手が出来るとは思えない。


「カロ、他国船舶については父上に報告を」

「おっけ~」

「で、エフィどーする?」

「……イリニ」


 静かに名前を呼ばれた。真剣な面持ちのまま、逡巡はなく真っ直ぐ言葉がおりてくる。


「皆の、魔物の助けが欲しい」

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