第23話 キャンプモード→釣りモード→ラッキースケベ

「ソロキャンしたかった……」

「そろきゃん?」

「一人でキャンプすること。ソロのキャンプ」

「なら離れた所に設営すればいいだろ」

「ん? いいの?」


 どういうつもりだったんだと逆にきかれた。

 ソロがデュオになるだけだよね? テントが一回り大きくなるんだよね?


「テントの中で並んで寝る的な?」


 素っ頓狂な声がエフィから漏れた。

 あ、だめか。

 朝ちゅんやらかしてたんだった。あの慌てようを見る限り、キャンプになったところで一緒に並んで寝るはないわけね。

 そもそも未婚の男女がどういう形をとろうと、一緒に夜を過ごすこと自体がよくない気もする。


「お互いテント張ればいっか」

「ああ」


 キャンプ地は山を下って湖までやってきた絶景地だ。森林キャンプも捨てがたかったけど、ここの景観最高だし湖畔キャンプを採用した。

 にしたって軽く受け入れちゃってるけど、なんでエフィついてくるんだろ。朝ちゅんの気まずさないの?


「エフィ、テント立てられる?」

「野営と同じなら」

「見てく?」

「ああ」


 この世界の野営と私のキャンプにはズレがある。だからテント設営は説明しながら目の前で組み立ててみた。

 アステリが予備のキャンプ道具一式渡してたらしく、物も私の使うのと同じだしいけるだろう。少し離れたところでエフィがテント設営するのを見ることにした。


「魔法使わないんだね」

「イリニが使ってなかったし、そういうものなんだろ?」

「まあね」


 不自由さと不便さを楽しみ、失敗を重ねられる。キャンプの醍醐味の一つよ。


「エフィ、器用ね」

「ああ」


 卒なくこなし、私のアドバイスなしに設営を完了させてみせた。

 椅子等のギアも設置して、映えるキャンプ風景の出来上がりとなる。映えは求めてないけど、初めて娯楽のキャンプするなら視覚的な刺激はあった方がいいだろう。


「この後はどうするんだ?」

「薪拾いに行くよ」

「なら俺も」


 引っ付いて来るな……朝ちゅんやらかした時は、あんなに離れろ言ってきたのに。いや比べるものじゃないか。


「なんでついてきたの」

「イリニを一人にするわけには、」

「一人になりたかったんだけど」


 ぐぐっと唸る。

 キャンプモードは引きこもりモードの派生みたいなものだ。一人になりたい気持ちに解放感ほしいとかプラスアルファがあって形として出てくるのに、二人でキャンプしてたら一人になれないので意味がない。これだとモード解除するのかな? ソロキャンするまで続いたらどうしよう。


「そんなに私の監視必要?」

「……監視じゃない」

「え、趣味? 誰か側にいないとだめなタイプ?」


 そういえば、エフィは王子殿下だった。カロみたく護衛であれ侍従であれ、誰かが側にいるのは当たり前の生活をしている。

 となると、それを見習って実践してるだけ? 王子殿下が侍従のまね事してるって?


「そういうことかあ」

「勘違いしてるな?」


 一人で勝手に答えを出すなと言われる。


「なに? じゃあエフィ、私が好きだから側にいよう的な?」

「え」


 あからさまに肩を鳴らした。


「好きな子と一緒が嬉しい的な?」


 少し緊張が解かれ、僅かに顔を赤くして口ごもる。


「べ、つに、その、それは……」


 視線を逸らしてもそもそする。

 なんなの、女子なの? もじもじくんめ。


「ふうん?」

「ラッキースケベが起きても、すぐ抱きしめれるようにで」

「はいはい、エフィの言いたいこと分かってるから」

「え?」

「エフィ真面目だから、自分の言ったこと守ろうとしてるんでしょ? ごめんね、からかっただけよ」

「ま、待て、今のは」

「よし、薪集まったし次は釣りね」

「え?」


 湖で釣りだ。

 モードといえばモードだけど、そこまで前面にでるものでもない。またぎみたく濃ゆい衣装があるわけでもないし。ただ釣りモードになると魚が確実にとれる。


「ボートに乗って少し出るよ」

「いつ用意した?」

「こっちの山に来てすぐ湖の麓の村長さんに頼んだの。釣り道具とかキャンプギアとかはシコフォーナクセーの技術屋さんにお願いしたよ」


 パノキカトで聖女しててよかったと思えることかな。

 外交がてらシコフォーナクセーの街中散策していたら伝手ができた。

 しかも仕事早くて要望出したら翌日すぐ納品だし、魔王の噂は鵜呑みにせずに接してくれる。シコフォーナクセーは本当いいとこだと思う。


「今日の夕飯になるから、自分の分頑張って釣ってね」

「夕飯?」

「うん」


 予備食料あるから問題ないけど、魚が釣れるのありきで動いてる。せっかくだしね。

 湖で二人静かに釣りだ。

 エフィは釣り道具を興味深げに見つつ、ボートを漕いで湖の奥へ出てくれた。


「エフィ」

「なんだ」


 湖だからか、声音も静かだ。やっぱり湖畔キャンプはいいなあ。


「エフィって私の時と、アステリ達の前とで話し方違うよね?」

「え」


 ギクッとした雰囲気を感じた。


「私の前だと滅茶苦茶緊張してるよね?」

「そ、それは」


 明らかに動揺している。なんだかな、納得いかない。


「魔王なの怖い?」

「いや」

「聖女様々拝みますの方?」

「違う」

「じゃあなんで緊張するの?」


 途端無言になった。

 エフィの中で私だけ別だ。女性苦手なの?

 この城にいて、私の近くにいるのなら、もう少し態度柔らかくてもいい気がする。塩対応じゃないけど、こう、気兼ねない関係というか。そもそも女性が苦手ならハグ係なんてやってはいけない。


「アステリたちみたく付き合い長くないけど」

「……イリニ」

「あの中で私だけ態度あからさまに違うのも、ちょっとというか」

「待て、イリニ」

「今日の猥談も盛り上がってたけど、エフィ全然態度違うし」

「イリニ」

「お、釣れた」


 さすがモード。

 エフィがもう一度私を呼んだけど、無視して魚を優先した。

 水面から出たのは小振りの川魚……まあやまめとかそのへんかな? しかもたくさん釣れて、一度に三匹ぐらいひっついてる。やったね、二人分が確保できた。


「ん?」


 すぽんと一匹、針が外れて宙を舞う。

 綺麗な弧を描いて、エフィの開いた襟元から服の中にするっと入っていった。


「?!」

「あ、やば」

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