第21話 朝ちゅん(未遂)
「イリニ」
「三人揃ってどうしたの?」
夜、そろそろお風呂にでも入ろうと城の中を進んでいたら、エフィたちに遭遇した。
「酒でも飲もうと思って」
「三人で?」
「ま、男子会ってやつだなー」
お前も来るかとアステリに言われたけど、男子会なんだからそもそも女性の私は論外じゃない。男性同士だからこそ話したいこともあるんだろうし。
「いいよ、皆で楽しんできて」
「おー」
心なしかエフィがほっとしてるように見えたけど、何も言わずに無視してお風呂場に向かった。
近くでわいてる温泉を引いて、城の中に大浴場を用意している。
毎日温泉の癒しがあるのは最高だ。露天つきで毎晩星空も眺められる。うん、贅沢。
「男子会ね」
静かで広いお風呂場で、水が滴る音がする。
皆で囲んでお酒飲むだけなのに、男子会もとい女子会できるような同性の友達が私にはいない。
「寝よ」
ざばっとお風呂から勢いよく出て、さっさと自室に戻った。
寝てしまえば、一瞬よぎったものは誤魔化せる。
そう思いつつも、二度あることは三度あるを繰り返したのは言うまでもない。
* * *
「……二、…………だ、目…………れ………………い……………」
「ん……?」
朝の半分寝ているこの時間が至福だ。
まどろみ中、ただあったかいお布団から出ないでぬくぬくしてられるとか幸せすぎる。
にしても今日一際あったかくていいな。
「……頼む、起きて、くれ」
「んん?」
なんだろ、いつもとなんか違う。
もう少し寝たいんだけどな。ベッドの上掛けを引き寄せて丸くなる。
ん、ちょっとかたいな。なんでよ。
睡眠環境大事って上等なベッドを用意してたはずなのに。
「~~っ! こ、れ以上は駄目だ! 起きてくれ!」
「ん?」
今度はしっかり聞こえた。ゆるゆる瞼をあけると、視界はシーツの白色じゃない。
「んん?!」
「お、起きたか?」
戸惑い焦る声が耳元で聞こえた。
嘘でしょ。
「……エフィ?」
「イリニ?」
上掛けを求めて引き寄せた手はエフィの身体をまさぐっていた。
がっつり密着している。そりゃかたいわけね。私朝から筋肉にダイブしてたわけだもの。
「う、そ」
ゆるゆるエフィに絡める腕を離してベッドの上を這って人一人分の距離をとった。
エフィが大きく息を吐いた。
「エフィ」
ラッキースケベだ。
昨日男子会するっていうのが羨ましかった。寝ることで、すぐに打ち消したっていうのに、一瞬の思いを拾わないでよ。
「あ、いや、違う。自分の部屋に戻ったつもりだったんだ。イリニには一切触れていない。あ、さっきまでのは不可抗力で、ただ抱きしめてただけで」
「エフィ」
ベッドの中でエフィを見上げた。
いつになく表情を崩していて顔は真っ赤だった。相当焦ってる。
目が合った途端、身体を跳ねさせて距離をとろうとして身体をずらす。
あ、と思った途端、エフィはベッドから転がり落ちて、ドンと床に落ちた音がした。
「え、エフィ、大丈夫?」
「あ、ああ」
「ラッキースケベだった。ごめんね」
「え、いや、え?」
寝ぼけてるのか、相当焦りすぎてたのか、床から起き上がり座り込んで私を見上げて瞳をぱちぱちしていた。いつも仏頂面気味なのに、今日は新鮮な表情ばかり見せてくれる。
「……私が寝てる間にエフィに何かした?」
「それ、は……」
してたよねえ、確実に。
悲鳴を上げながら私に起きてって言ってたし、起きた瞬間抱き着いてる時点で、ラッキースケベは起きていたとしか判断できない。いや、今回のはラッキースケベ超えてセクハラだと思う。
「大変申し訳ございません」
ベッドの上で土下座した。エフィはぽかんとしている。
「いや違う。元々俺が勝手にイリニのベッドに入ったのが原因だ。ラッキースケベとはいえ、酔っ払って自分の部屋に戻れなかった俺が悪くて」
「落ち着いてよ」
エフィの中では余程よろしくない行為らしい。焦りすぎてて、少し笑ってしまう。エフィってば、なんでこの城にい続けるのかな。
というか、ハグ係はオッケーだけど、朝ちゅん (未遂)は駄目らしい。基準が謎だ。
「イリニ…………っ!」
「ん?」
座り込んでたエフィががばっと勢いよく立ち上がった。
ベッドに座る私が首を傾げていると、エフィはいつもの仏頂面に戻って坦々と応える。
「部屋に戻る」
「うん、気にしないでね」
「……」
真っ直ぐ部屋の扉に足早に向かい、私を見ることなくでていった。扉は優しく閉じられるあたり、エフィの育ちのよさが伺える。
「……着替えよ」
モードの中でも、俺つえええモードや魔王モードは比較的私の中で制御しやすい。怒りや悲しみの感情は扱い慣れているからか、精霊王の祝福加減なのか分からないけど、モード状態でもある程度の手加減ができる。
なのにラッキースケベだけは例外だ。
なぜか制御できない。
おさめることができないし、一時の淋しさを解消しても必ず出てきてしまう。
ラッキースケベこそ制御できた方がいいのに。
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