第10話 いかにもな男キャラがテンプレな事を言ってきた
「アステリ! どういうこと?!」
「国境に建てようが変わんねえよ。それに三国協定でどこに玄関を置くかで管轄する国が決まるって分かってんだろ」
「そう、だけど……それなら最初に言ってよ」
「そこは悪かったわ」
「もう」
そこでやっと第三王子殿下は気づいたようで「アステリ」と驚きの声を上げた。
アステリが「よっ」と軽く手を挙げる。
「お前、まだ彼女の側に」
「まーなー」
私を逃がすにあたり魔法使長が手助けしたことは広まっている。けど、この城にいると思ってなかったなんて意外ね。新聞記事にもアステリがこの城にいることは書かれていた。知らないはずはない。
「で? 保護だっけ? なんでそんなことを提案するわけ?」
「あ……貴殿はパノキカトから命を狙われる身だ。しかし聖女としての祈りの功績は三国に渡る。我が国に来た以上は、貴殿の身の安全を守る義務が我が国にはあると考えての提案をお持ちした」
「ふうん……で、本音は?」
「え?」
「建前はどうでもいいわ。貴方の本音は?」
訊くと黙ってしまった。
国として私を保護したいのは、聖女の力を利用する為だろう。外交でもいい盾になる。他の国に売りにだしてもいいだろうけど、囲うのが一番利用価値があるかな。パノキカトに戦争を吹っ掛ける理由にもなるし、聖女が一人手の内にいるだけで選択肢は広がる。
「本当は……」
「うん」
言い淀む第三王子殿下をしり目に、指をいじりながら返事を待つ。すると予想と反する言葉が返ってきた。
「……本当は、君に結婚の申し出をしようと思っている」
「……は?」
見下ろせば真っ直ぐ見上げる視線とぶつかり瞬間悟った。この人真面目に言っている。
隣のアステリが吹き出すのが聞こえて我に返った。
「結婚?」
「ああ。本当は婚約破棄をしたあの場ですぐにでも申し込もうと思っていた」
社交界でテンプレな婚約破棄断罪現場で新しく結婚の申し出? テンプレだけど、
純粋に三国間の問題と力関係を冷静に考えれば答えはすぐに出た。
「……結婚して囲い込もうってことね?」
「え?」
王家との結婚となれば強力な縛りになる。それを見越してきたの。あ、他でのテンプレ思い出した。断罪後の救済措置の相場は決まっている。
「ええと……婚約破棄してすぐに結婚を申し込んで?」
「え、あ、ああ」
「そのまま貴方の国に連れていく気だった?」
「ああ、そのつもりだった」
「連れていったら後宮とか離宮に住んでもらうとか?」
「君が望めば」
「はっ」
鼻で笑うと王子殿下は目を丸くして驚いた。本編シナリオは関係ないけど、大方この流れもテンプレだったわ。急に言われて動揺するなんて私もまだまだね。ちょっと不快感が競り上がってくるわ。
「テンプレおつねえ」
「え?」
不穏な私の雰囲気を察した王子殿下が少し戸惑っている。
「お言葉ですが、アギオス侯爵令嬢」
「?」
後ろの副団長が声を上げた。
見た目ちゃらそう。仮称ちゃら男でいくかな。まあ場が場だから真面目にしてるけど。
「あの時あの場にて、王子殿下が声を上げなかったのは俺が止めたからです」
「カロ、やめろ」
ちゃら男くんの物言いにもイラっとした。言いたいことが分かってしまったもの。
「もしかして、あの時どうして助けてくれなかったのって私が言うとでも思ったわけ?」
苛立ちが伝わったらしく、副団長であるちゃら男くんは緊張した面持ちで頷くだけだった。
「違う。あれは誰かに助けを求めて無い物ねだりすることじゃない」
「アギオス侯爵令嬢」
こんなもんか。もういいでしょ。お友達割もここまでだ。これ以上は本当に怒ってしまいそうだもの。
「帰ってくれる? 後はアステリと昔話に花でも咲かせていいから」
「待ってくれ、話を」
「はあ?」
この期に及んでまだ話? しつこいな。
「保護の話ならお断りね。勝手に城建てたのは申し訳ないから、城やめて普通の家にしてもいい。けど貴方の国に滞在することはもう少しだけ許して。その類のお金なら払うし、用事が済んだら出ていくから」
「違うんだ、俺は」
「結婚もお断りでーす。アステリあとよろしく」
「違う、俺は君と話が!」
「しつこいなあ」
しつこい男は嫌われるよ。
「私、人と関わりたくないの。一人にして」
「俺は君の事が」
「お帰り下さい」
「駄目だ、どうかもう少しだけ」
「もーちょっとイラっとした。折角怒る前に終わろうと思ったのに、やれちゃうとこまで来ちゃったじゃない」
「おい、待てまさか」
どこからともなく大剣を出した私を見て隣のアステリが血相を変える。
どうやら私はテンプレという窮屈な展開から解放されたいらしい。怒りの感情を元に、パワーアップした祝福・俺つえええモードがやってきた。
「スイッチ入っちゃった」
「待て、それはやめろ」
「というわけで第三王子殿下、私自らお見送りしてあげる」
「え?」
「エフィ、剣を構えろ! 防御壁はれ!」
「え?!」
なによ。アステリったら、あっちの味方して。
「くそが! 俺つえええモードは面倒なんだよ!」
「ごめんね? みなぎってきたわ」
悪役らしく笑った。
この笑い方と力の強さで魔王呼ばわりされてるけど、また体験者が出たら紙面が盛り上がるかな?
「前にあれだけ言ったつーのに! 城半壊じゃ済まねえだろ!」
「必殺技でるーむりー」
「どちくしょうが!」
「どういう事だ?」
瞬間、転移した。
城の上、空中にいて、互いに魔法で調整して浮いているけど、アステリったらやり方が荒いんじゃない?
まあこれだけ高度あれば城に影響なさそうかな。私も手加減はするわけだし。
「アギオス侯爵令嬢?!」
言われた通り剣をかまえ、防御壁張ってる。アステリの言う事ちゃんときいて真面目な人なのね。ぱっと見た所、実力は充分ありそうだし、直撃しても大丈夫でしょ。
「いくよ?」
「え?!」
剣を振り上げる。
雷が轟いた。今日は雷な気分らしい。
付随属性変更は私の当日の気持ち次第です、なんて説明の追加が必要ね。
必殺技名は聖が命名したけど、目の前の第三王子には分からないだろうな。ま、いっか。
「さーいしょーかーら」
「ま、待て」
「クライマックスだぜ!」
「え?!」
振り下ろした剣から、おおよそ想像のできない雷風が吹き荒れ轟いた。
「ええ?!」
最後までついていけない第三王子殿下が私の剣の攻撃によって爆発した。
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