第1話 焚き火

 おや、どうした。坊主。あぁ、お前はライティーザのヴィンセントの息子か。父親によく似ているな。懐かしい。私がお前の父に初めて会った頃を思い出す。あぁそう。私がお前の父親に会った頃は、もうすこしお前の父親は大きかったな。懐かしい。


 どうした。焚き火が珍しいか。あぁ、そうか。お前は白い鷹と一緒に焚き火をしたのか。それはいいな。いいことだ。ん? 白い鷹が誰かって。お前の祖父、ロバートのことだ。我々ティタイトの民はお前の祖父ロバートのことを、白い鷹と呼ぶ。


 なぜ、私がここで焚き火をしているのかって? 今日は私の息子、祖父ロバートの名をいただきロバートとなった私の息子がティタイトの国王となる目出度い日だ。お祝いのために、こうして昔を懐かしんでいる。


 エミリアはどうしているのかって? 私の妻、宵の明星は孫の寝かしつけだ。そう。エミリアは、ティタイトの名を持っている。宵の明星というのだ。私が考えた。私は寝かしつけをしなくていいのかって? 残念ながら私は孫に、お髭がチクチクするから嫌だと言われてしまった。髭はティタイトの男の証だというのに残念だ。触ってみるか? ライティーザの男は髭を剃るからな。お前には珍しいだろう。


 私は若い頃、まだ髭もさほど無かった頃だ。お前と同じように白い鷹と焚き火を囲んだ。そうそう。お前の言う通り、この国から逃げたときだ。あぁ。私は逃げた。逃げたんだよ。誉められたことじゃない。あの時、私は逃げるつもりなどなかった。ここで戦って死ぬつもりだった。


 そうか。お前には不思議な話か。そうだろうな。あの時、白い鷹にも言われた。生き延びろと。生き延びて戦えと。今、ここで死ぬのは無駄死にだと。そうか。坊主、あの日の話をしてやろう。お前の父が、今のお前よりももう少しだけ大きかった頃、このティタイトで何があったかを。


 お前は祖父や父から話を聞いているだろう。お前の祖父も父も、伯父達も皆、親戚を少し助けただけだと思っている。確かにそれはそのとおりだ。だがな、恩を受けた側がそれを忘れてはいけない。


 草原の国ティタイトは、この大地は、救ってくれた人々のことを忘れはしない。子供のお前が覚えていられるかは分からないが、あの時あったことを、私が聞かせてやろう。おいで。こちらに。一緒に火にあたろう。

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