第12話 花畑

 ニコラスに近づくことができて、話しかけることが出来る人は限られている。ケヴィンは迷ったが、ロバートに鉢植えを預けた。


 ライティーザ王国唯一の公爵家の当主であるのに、奢ることのないロバートは気安く引き受けてくれた。

「これならば、ニコラスも花を楽しめますね。彼が自分で育ててみても良いかも知れません。部屋から出るきっかけにもなるでしょうし」


 ロバートはニコラスに水やりを教えたらしい。庭の片隅の鉢植えの前で、青年をみかけるようになった。庭にいれば、ジェームズ達庭師と会う機会も増える。ニコラスは庭師達やケヴィンを見ても、逃げなくなった。話しかけたら頷くようになった。


 ニコラスは花が咲いたのが、嬉しかったらしい。花の絵を沢山描いた。鉢植えが置いてあった場所は、花畑になった。庭師達はニコラスの花畑と呼んでいる。自分の名前がついた花畑が気に入ったのだろう。ニコラスは庭師に混じって庭仕事をするようになった。


 ニコラスの花畑を気に入ったのは、ニコラスだけではなかった。屋敷に出入りする絵描きや、絵描きの見習いが、花の絵を描きにきた。ニコラスは、絵描き達とも少しずつ親しくなった。


 見習いと並んで、絵描きに手ほどきを受けるニコラスの姿にリックは感激したらしい。

「俺は、ロバートに一生ついていく!」

付き合いがあまり長くないケヴィンですら、もう何回聞いたかわからない決意表明を叫んでいた。


 宣言した瞬間に、エリックの訂正が入るのもお決まりだ。

「マクシミリアン公爵様です」

「俺は」

「私」

「私は、マクシミリアン公爵様に一生ついてきます」

「よろしい」

懲りないリックと、諦めないエリックは、何故か仲が良い。


 ある日、ケヴィンは、ロバートから一枚の絵を渡された。

「ニコラスからの御礼です。彼がこういった絵を描くのは、相当珍しいそうですよ。彼は見たものしか描かないはずですから」

絵の中には、モニカとリズが手を繋いで並んでいた。その隣にケヴィンが立っていた。


 ニコラスの記憶にある若い頃のモニカとリズに、今のケヴィンを並べて描いてくれたのだろう。三人の足元には沢山の花があった。ニコラスの花畑の花だ。嬉しかった。

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