第9話 御礼は意外と難しい2
ケヴィンは子供達の意見の一つを採用することにした。花だ。かといって、以前のように、王太子宮の庭師ジェームズに甘える気はなかった。ケヴィンが御礼をしたいのだ。ジェームズや彼の弟子が育てた花でなく、ケヴィンが育てた花を贈りたかった。
影としての鍛錬の合間に、庭師の手伝いを申し出た。ケヴィンが今後、何をして生きていくのかまだ、決まっていないのだ。庭師を経験してみるのもいいと思った。
ケヴィンはマクシミリアン公爵邸の庭師ジェームズに頭を下げた。
「まぁ、別にいいが」
ジェームズは無愛想に、ケヴィンの手伝いを了承してくれた。報酬に、花が欲しいというと、せっかくだから、球根から育てるのも経験してみろと、色々用意してくれることになった。
ジェームズの仕事は、庭師だけではなかった。人手が足りないマクシミリアン公爵邸だ。ジェームズは、下男を兼ねてもいた。
「若いもんが手伝ってくれるのはいいな」
最初に頼まれたのは薪割りだ。何故薪割りをと思ったが、自分から言い出したことだ。ケヴィンはひたすら斧を振るった。長物を振り回すなど、剣の稽古でなれているはずだった。甘かったことを翌日、自分の全身の筋肉が教えてくれた。
孤児院でのケヴィンの作業も、下働きのようなものだ。
「リズの父ちゃん、頑張れ」
ケヴィンは、子供達に励まされていた。
「芋をしっかり持って」
「剣より、包丁のほうが短いんだから。簡単だよ」
「包丁の持ち方が違うわ」
子供達は、口々に教えてようとしてくれる。あれこれ言われすぎて、ケヴィンは自分が情けなくなってきた。
芋の皮むきだ。ケヴィンの手元からは、分厚い皮と痩せ細った芋が生み出されていた。
「リズの父ちゃん、頑張って練習したら出来るようになるよ」
「初めては難しいしさ」
「すぐに出来るようになるよ。剣より包丁のほうが、簡単だよ。短いから」
「そうだよ。練習したら出来るようになるわ。私ものっぽ、マクシミリアン公爵様に言われたもの」
少女の口にした名前に、ケヴィンは驚いた。
「公爵様が?」
「懐かしいですわ」
ケヴィンの驚きに答えたのは、シスターだった。
「小さな子たちに、こうやってやるのですよって。教えてくださって。包丁も研いでくださったわ。随分前のことなのに、リリア、あなたよく覚えていたわね」
「教えてもらったの、私だもの」
唖然としていたのはケヴィンだけだった。
ケヴィンにとってロバートは、狼の一族の当主であり、元王太子アレキサンダーの近習で、今はマクシミリアン公爵だ。
「子供のときに、よく手伝っておられたそうです。とても手際よくて、お上手でした」
シスタ-の言葉はわかるが、意味がわからない。狼の一族は、未来の当主に、芋の皮むきをさせるのが習慣なのか。
「大丈夫だよ。リズの父ちゃんも練習したら出来るようになるよ。俺も最初は出来なかったんだ」
マーカスのいっぱしの慰めに、ケヴィンは決意した。
「そうだな。頑張るよ」
まずは真偽を確かめようと思った。
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