2話 妹はそばにいたい

妹が! 2人も! いた!!(LINEトークあり)

 朝日のまぶしさで有宮ありみや李津りつは目覚めた。


「カーテン買いに行くか……」


 二日目の日本で最初に出た感想が以上である。


 部屋を見回し、寝たときと変わらない状況に眉をひそめる。


 奇妙さを感じていた。


 日本に来る前、勉強にと読んでいたジャパニーズラノベでは、朝は100%妹が起こしに来ていたというのに。どうしたことか、部屋は静かなままだ。


 まだうまくはたらかない頭をひねり、李津はベッドから出た。伸びをしながら、あくびをひとつ。




 さて、とりあえず今のところ、自分の絵図通りに進んではいる。


 朝も、海外では養母ジョディに起こされてウザかったが、今日からはそれがない。干渉されない生活は彼が願っていたことだ。


(……でも嘘ばっかり書いていやがったジャパニーズラノベ、てめーは許さん)


 特に低血圧とかではないが、なんとなく今朝の李津は不機嫌だった。




 ◆




 顔を洗うために1階に降りれば、階段の下までバターの匂いが届いてきていた。


 リビングのドアを開けて中をのぞいてみる。


 かわいらしいピンクのパジャマワンピの莉子が、ダイニングテーブルを拭いている姿が見えて李津の顔が緩む。


 それから唐草模様のパジャマを着たつむぎがキッチンから出てきた。謎のファッションセンスに李津は顔をしかめる。


 そうしていると、二人の妹も視線に気づいた。


「あ! おはです兄。なに飲みますか?」


「おにーちゃん、おはよ〜! ちょうどパンが焼けたのでぇ〜」


「……」


 それは美しい絵画のように、幸せで完ぺきな朝の風景だ。


 李津は無言でドアを閉めると、パジャマのまま玄関を出た。


 外は雲ひとつない快晴だった。


 住宅はぽつぽつと建っているが、家の裏手は畑で大変のどか。クラシックの「カノン ニ長調」が聴こえてきそうである。


 春の日差しはまだ弱く、上着がないと少し肌寒い。


 そんな清々しい陽気の中、深呼吸すらせずに李津はポケットに入れていたスマホを操作した。相手はすぐに出た。


『Hello? 李津りつか? 無事に着いたかい?』


「おじさん!!! 妹って名乗る人間が! 2人も! いた!!」


 片や呑気、片や切実と、対応は真逆といえる。


 電話の向こうで喋るとにかく明るいオヤジは、海外にいる彼の育ての父だ。日本で発表した脳の研究が世界で注目され、海外に呼ばれて研究を続けているちょっとスゴい人。理系のパリピである。


『あー、そうそう! 言い忘れてたなあ! わはははは!!」


「え? 言い忘れてた?」


『どうも手違いがあったそうだね。二人とも同じ時期に同じ施設に入所したらしいんだが、その施設が閉鎖し別々の施設に移ったりして、どちらが妹ちゃんだかわからなくなったとか。結局どうしたんだい?』


 李津は頭を押さえた。もっと早く教えてもらっていれば、もう少しまともな対応ができていたのに……と、昨日を思い出して萎える。


「会ったけど、俺、妹のこと覚えてないし……。とりあえず昨日は泊まってもらったよ」


『そうかー。なんとかならんかったか、わっはっは!』


「笑い事じゃないんだけど。そうだ、おじさんは妹の名前とか知らない?」


『ああー……実は、きみの妹ちゃんとは面識がなくてねぇ。たしかきみの名前と関連性があったような気はするんだけどなぁ』


 “李津”と関連性があるのなら、“り”つながりで漢字二文字の莉子だろうか? “りつ→つむぎ”のように、しりとりになっているつむぎも、兄妹にありそうな名付けではある。


 李津が考えていると、間を持たせるように養父がつなげた。


『そうだ、きみのご両親の遺品は少しだが日本のマンションに保管してある。そこにアルバムでもあるかもしれないな?』


「え。じゃあ!」


『ただ、僕が日本に行けるのは半年後ぐらいになりそうなんだよ。それまで待ってくれるかい?』


「ま、待つ? だったら、あいつらは?」


『それまで3人で住めばいいじゃないか! どちらかは実の妹なんだから、施設に戻すというのもおかしいだろう?』


「で、でも、もう一人は妹じゃないんだぞ?」


『だけど、どっちかわからない状況だしなぁ。ま、これもなにかの縁だろう。女の子ひとり増えるくらいなら、ウチはお金の心配はないぞ! 3人でよーく話し合って決めなさい』


「ちょっ、軽くね!? あ、DNA鑑定とかさ!!」


『うーん、やるなとはいわないけど、結果が出るまでは家に置いてあげるんだぞ? 鑑定って保護者の同意書も必要だったかな? あー、適当に送っておいてくれたら気が向いたときにサインするよ。じゃあ、僕はこれからハニーとデートだから切るね!』


「それ一生気が向かないやつじゃん!! ちょっと! おじさん!?」


 フロムUSAの豪快な笑い声を残し、国際電話は切れた。


「……はあ? 3人で暮らす? こっちは静かに暮らしたいつってんじゃん、意味わかんねえ!!」


 のどかなで清々しい空の下、涙目でブチ切れる李津の声だけが響いていた。





【おまけ:その後、養父とのLINE】


>片桐正孝



         (通話マーク)

         7:34

         既読



片桐正孝

(手つなぎの写真)

8:12



片桐正孝

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デートなう

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8:14


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         やかましいわ!

         ----------------------

         8:48

         既読





(画像はノートに掲載)

https://kakuyomu.jp/users/asamikanae/news/16817330651271650440




 

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