とある王女様のおはなし
ヨマレ
●
「……。」
私は、ベッドの上で天井を見つめていた。
ここ最近、私が本当に何がしたいのか分からなくてなってきた。
皆は私のことを凄いとか天才だとか言ってくれるけど……全然嬉しくない。
ただただ疲れるだけ。
最初の内は嬉しかった。
今はもう慣れてしまった。
その言葉の裏にある『期待している』という気持ちが透けて見えるから。
それに応えようと努力した。
今だって、そうしようとしている。
でも、何かが違う気がする。
一体、何をすればいいんだろ?
あぁ、ダメだな。
思考がネガティブになってきてる。
こんなんじゃいけない。
…ベッドから降りて寝間着から普段着のドレスへと身を包む。
そして…またいつものように一日が始まった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝起きて朝食を食べ、色々な勉強をして昼食をとり、魔法の訓練をして夕食を食べる。
全て、立派な“王女様“になるためのお勉強。
これがルーティーン。
だけど、このルーティーンの中に最近は違和感を感じるようになった。
前までは何とも思わなかったのに。
これも、周りの人の視線や感情がよく分かるせいなのだろうか?
これは良い事なのか悪い事なのか分からないけれど。
多分、良くないんだろう。
どうせなら、もう少しポジティブになれるような性格ならよかったのに。
そうしたら、少しはこの生活にも楽しさを感じられたかもしれない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「今日も、お疲れ様。ミリス。」
「はい。ありがとうございます。」
…今日はお母様と二人で食事をする事になった。
お父様は、執務で忙しいらしい。
まぁ、それは仕方がないと思う。
国のトップなんだから。
「ねぇ、ミリス?」
「はい、なんでしょう?」
「あなた最近、更に魔法の技術に磨きがかかってきたらしわね。」
「はい、お陰さまで」
「流石、私達の自慢の娘。才能に満ち溢れているわね。」
「…いえ、そんな…」
「謙遜する事はないわ。自信を持ちなさい。」
「…はい。分かりました。」
お母様に言われて嬉しいはずなのに、何故かあまり嬉しさを感じなかった。
…いつからだろうか。
こうなってしまったのは。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
…私の事を応援してくれる人の言葉は全部嬉しかった。
家族も、使用人の方も…貴族の人も…。
みんなの期待に応えるために、私は頑張ってきたつもりだった。
でも、次第に段々と重荷になっていった。
…それからしばらくして、味覚がなくなった。
食べ物は美味しく感じられなくても、栄養はあると思って無理やり食べた。
だけど、日に日に強くなっていく周りからのプレッシャーがストレスになっていた。
そのせいで食事が喉を通らず体重が一時期かなり減ってしまった。
流石にこのままじゃ、周りに心配をかけると思ったので、今は元通りにしている。
でも、未だに時々食欲が湧かない時がある。
☆
☆
☆
☆
☆
「…でね、お父さんったら…」
「ふふっ、そうなんですか。」
お母様とお話ししている間、ずっと笑顔でいるように心がけていた。
そしたら、だんだん楽しくなってくる…と思うようにしている。
「……でね、それで……」
「えぇ、はい。」
お母様はいつも私に期待している。
だから、それに応えたいと思っている。
けど……最近その気持ちが薄れてきてしまっている。
この人が、私のことを愛してくれているのは分かってる。
「……あら…聞いてるのミリス?」
「…ごめんなさい。ちょっとぼーっとしちゃって。」
「もう……しっかりしてよ。私達の娘である以上、完璧な存在であって欲しいの。貴方は、この国の立派な“女王様“になるんだから。」
「…はい。ごめんなさい。」
完璧……か。
そんな風に、私はなれないのに。
……それでも、周りからはそう思われているんだろう。
私は、何もない空っぽの存在。
自分が、どうなりたいのかも何をしたいのかも分からない。
でも、皆は私の事を勘違いしている。
完璧で、欠点のない完全な人間…だと。
確かに、他の人より出来ることは多い。
だけど、それだけ。
……皆は、私に理想を抱き続けている。
…だから、期待に応える為に演技を続ける。
きっと、これから先も同じことをしていく。
周りが私に期待し続けている限り。
ずっと ずっと ずっと ずっと。
私が今していることは、間違いなのだろうか?
そんな疑問がふと頭の中をよぎる事もあった。
…でも……何が正しいかなんてもう分からなくなってきた。
「…さぁ、早く食べてしまいましょう。まだ暖かい内にね。」
「そうですね。」
……そんなことを考えていたら、今日も一日が終わった。
とある王女様のおはなし ヨマレ @sp-
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