彼女に勝ちたい赤宮さん!

たるたるたーる

〜プロローグ〜

「ともみー!また負けたにゃー!」


お昼の時間がもうすぐ終わる時。

あたし、赤宮陽毬〈あかみや ひまり〉は友達のともみに泣きつく。


「あーはいはい。よしよーし。ってかなんなのその語尾?」


あたしを慰めながら、不思議そうに質問する。


「うっ…。これはにゃ…。」


「まぁ理由はわかるけど。どうせいつものアレでしょ?」


あたしが理由を説明する前に察するともみ。

だけど、一応説明させてほしい。

別にあたしは普段からこんな話し方をするわけではない。

これにはちゃんと理由があるのだ。

それは…。


あたしにはライバルがいる。

同じ女子校に通う、同じ1年生でクラスは別のライバルが。

名前は碓氷唯〈うすい ゆい〉。

中学は別々で。

初めて碓氷唯と会ったのは高校に入学した時だった。

入学式の新入生代表として挨拶をする碓氷唯は凛としていて。

身長も高く顔立ちも整った碓氷唯に、気づくとあたしは目が離せなくなっていた。


そして、その日からあたしは碓氷唯を眺める日々を送る。

碓氷唯は容姿端麗なだけではなく。

頭脳明晰、スポーツ万能のまさに完璧で。

あっという間に人気者になった碓氷唯。

だれもが憧れて。

あたしもこの頃はまだ憧れの対象だった。

だけど、そんな碓氷唯にも欠点があった。

それは表情が乏しく、いつもつまらなそうな感じで。

なにより決定的だったのがあまり他人と話すのが好きではないのか冷たい態度で。

最初は人気者だった碓氷唯の周りからは一人また一人と離れていき。

気づくと碓氷唯の周りにはだれもいなくなっていた。

それでも表情を一切変えない碓氷唯は、いつしかこう呼ばれるようになる。

…孤独が好きな氷の女王と。


本当にそうなのかなと疑問に感じつつ、未だに碓氷唯に憧れがあったあたし。

そんなある日。

掃除当番のあたしはジャンケンで負け、黒板消しの掃除をすることになる。

あたしジャンケン強いはずなのになぁ…。と思いながらパンパンと八つ当たりしつつ叩いていた。

だけど、なんだか楽しくなってきたあたしは調子に乗って叩きすぎてしまい、手元が滑り黒板消しを落としてしまう。

慌てて取りに行くのだったが、そこで信じられない光景を目の当たりにすることとなる。

それは黒板消しを見つけ、教室に戻ろうとした時だった。

前方から碓氷唯が歩いてくるのに気づく。

慌てて隠れるあたし。

別に隠れる必要はなかったのだけど、ずっと碓氷唯を眺める日々を送っていたせいか自然とそうしてしまっていた。

(碓氷さん今日も綺麗だなぁ。)なんて考えているあたしだったのだけど…。

なんだか碓氷唯はいつもと様子が違っていて。

暗い表情というか、寂しそうというか。

放っておけない雰囲気で。

今まで話しかけることが出来なかったのに。


「碓氷さん…?」


と、思わず話しかけてしまう。

そんなあたしに気づいた碓氷唯は一瞬驚くと


「…なに。」


と、いつもの表情に戻ってしまう。


「あ、え、えっと…。」


と、言葉に詰まってしまうあたし。

他の子とは普通に話すことが出来るのに、碓氷唯にだけは憧れているせいか緊張して上手く言葉が出なくて。

(なんか寂しそうだったけどどうしたの…?って聞いてもいいのかな。)(っていうか初めて碓氷さんと話しちゃった!碓氷さんの声透き通ってて綺麗!)(ってそうじゃなくて!)(わわわ!碓氷さんのまつ毛長い!)(だ、だからそうじゃなくて!)(やっぱり碓氷さん、小さくて子供っぽいあたしと違って身長高いし大人っぽいなぁ!)

なんて、頭の中でぐるぐるといろんなことが廻って混乱するあたし。

そんなあたしに痺れを切らした碓氷唯は「…用がないなら行くから。」と歩き出そうとする。

きっとこのまま見送ればまたいつもの日々に戻るだけなのだけど。

でも、このままじゃもう話しかけることが出来ない気がして。


「ま、待って…!」


と、呼び止めるあたしだったけどやっぱり考えがまとまらず。


「…だからなに。」


と、冷たく言う碓氷唯にそれ以上言葉が出てこず。


さすがにこれ以上引き留めることが難しく、諦めようかと思った時だった。

ふと、手にした黒板消しを見て碓氷唯にこう言い放つ。


「あたしとジャンケンで勝負よ!!!」と。


正直なに言ってるんだろあたしと思ったけど。


「…勝負?…なぜ?」


と、碓氷唯にも言われたけど。

言ったものはしょうがないと開き直り。


「あれー?もしかして負けるの怖いのー?」


なんて煽ってみて。


「…負けないけど。…勝負する理由がない。」


と、たしかにと思わされたけど。


「負けた方はお願いを一つ聞くっていう条件を追加するのはどう!」


なんて提案して誤魔化してみて。


「…なんでもいいの?」


「んー。難しいお願いはナシで。」


「…わかった。…やる。」


と、やる気を出した碓氷唯。

そして、ジャンケン勝負が始まるも見事に負けるあたし。

ジャンケン弱いのかなぁと自信をなくすのだった。


さて、それから碓氷唯のお願いが始まるわけで。

(どんなお願いされるんだろ…。もしかして金輪際関わってこないで…とか!?やだ!やだ!)

なんて自分から提案しておいて不安になるあたし。

だけど、碓氷唯からされたお願いは全然違っていて。


「…3回回ってニャンってやって。」


と、意味不明なお願いをされる。

やるのはいいけど、なぜ?と疑問に思っていたあたしだったのだけど…。


「…やって。」


と、ちょっと圧が強い碓氷唯に負けて、とりあえずやることにした。


「えーと。3回回って…ニャン。」


碓氷唯のお願いを実行したあたしだったのだけど。


「…だめ。…手はこう。…それともっとネコの気持ちになって。」


そう言うと手をネコの手にしてクイっとする碓氷唯。


(なにそのこだわり!?っていうか碓氷さんかわいい!)と驚きつつも圧がすごいのでもう一度することにした。


「3回回って…ニャンッ!」


今度は碓氷唯の言う通りにしたあたしは(やってみて思ったけど、これ結構恥ずかしいんだけど!)と顔が赤くなってしまう。


「こ、これで満足…!?」


と、顔を隠して尋ねると


「…うん。…いいよ。」


と、今度はお許しが出てお願いが終わる。

それから、満足した碓氷唯はその場を立ち去ろうとするのだけど。

あたしは負けたままじゃ悔しいというか。

碓氷唯とこうしてるのが楽しいというか。

とにかくこれでお別れはなんか嫌で。


「碓氷さん!勝負はこれだけじゃないからね!まだまだこれからも勝負するからね!」


「…いいけど。…次も私が勝ってお願い聞いてもらうから。」


と、言う碓氷唯はなんだか嬉しそうな顔をしている気がして。

もしかして…。なんて思うこともあり。

これからは憧れの碓氷さんではなく。


「ふふーん!今度はあたしのお願い聞かせてやるんだから!これからはライバルよ!覚悟しなさい!碓氷唯!」


「…ライバル。…わかった。」


ライバルの碓氷唯として接することにしたのだった。


というわけであの日から碓氷唯がライバルになったんだけど。

未だに一回も勝てない!

毎回負けるの!

そして毎回ネコ関連のお願いばっかされる!

さっきも負けてネコの真似させられるし!

おかげで語尾がおかしいことになってるし!

どんだけ碓氷唯はネコ好きなの!

まぁ正直それを知れて嬉しいけど。

でも、次は絶対勝つ!

そして、あたしのお願いを聞かせる!


そう意気込むといつのまにか一日の授業が終わり。

慌てて帰りの支度をして。


「おー!がんばれー!次は引き分けくらいになるといいねー!」


「かーつーのー!」


と、ともみに返すと碓氷唯がいるクラスへとまた向かうことにした。


次こそは勝負に勝って。


「あたしと友達になって。」というお願いを叶えさせるために。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る