第192話 能力開発研究所 7
「お前!」
「……」
「拳銃を、銃弾を……」
今の俺はレベルも上がっている。
だから銃弾にも対処できたんだ。
これが以前の俺だったら。
「……」
拳銃の弾丸の速度を秒速400メートル、時速1440キロメートル前後だと仮定しても……。
とてもじゃないが、この距離で避けることなんてできない。
レベルアップした今の肉体でも、発射後に避けるのは不可能だ。
発射寸前に動いてギリギリといったところ。
あるいは、武志のように防御壁を構築すれば防ぐこともできるだろうが、これも構築時間が問題になってくる。
何より、ここでは魔法を使いたくない。
「本当に普通人なのか?」
「……」
もちろん、今よりレベルが上がった身体を魔力で限界まで強化すれば、もう少し余裕も生まれるだろう。
が、今度は思考がついてこない。
対処は困難だってことだ。
ただし、魔力で肉体強度を高めた状態なら、急所にでも当たらない限りは1発で致命傷を負うこともないはず。
痛みは変わらないが……。
「いったい何者だ?」
「……」
「黙ってないで答えろ!」
「……」
「名乗れないのか!」
うるさいやつだな。
「……名乗る気がないだけだ。それより、拳銃を使うのは反則だぞ」
いや、犯罪か。
「反則? 何だそれは。そんなものあるか!」
言われるまでもなく、分かってる。
分かってはいるが、異能者は異能で戦うもんだろ。
というのは、ただの俺の理想か。
「普通人相手にはなあ、銃が一番効果的なんだよ!」
「……」
そうだな。
普通人どころか、異能者にも効果はあるだろうよ。
けど、今は……よし!
身体の最大強化完了だ。
「ただ……お前、普通人じゃないな。スピード特化の異能持ちか?」
「異能は持っていない」
「嘘をつくな!」
嘘じゃない。
「まっ、今さらだな。普通人でも異能持ちでも、どっちでもいい。これで最後だから……」
その言葉と共に消える橘。
「……」
後ろか!
ダン、ダン!
姿を現した途端、至近距離からの2発!
とはいえ、予想通りの動き。
しかも、今の俺の身体は完全完璧な強化状態。
後ろに気配を感じた時点で既に動いている。
銃声が響く直前に予備動作なしのノーステップで右に跳び、そこで反転。
そのまま橘の懐に!
「なっ!?」
銃を構えなおす暇も瞬間移動の暇も与えず、掌を橘の顎に!
顎を揺らしてやる!
「うぐっ!」
当然、揺れた脳は動きを止め。
「ぅぅぅ……」
力が抜けた体は膝をつき。
そして……。
橘が沈んだ。
さてと。
何とか倒すことはできたが、前回のこともある。
今回は逃げられないように、まずは橘の異能を抑えないとな。
いまだ目を覚まさない鷹郷さんのもとに歩み寄り、スーツのポケットから異能抑制具を取り出す。
この抑制具を橘の腕にはめてやればいい。
そうすれば無事終了だ。
さっそく、と。
橘の方を振り返った、その時?
っ!
あれは?
少年!
幽霊少年だ!!
「……」
「……」
今日は現れないのかと思っていた。
けど、そんなわけないか。
ここで登場しないなんて。
そんなこと……。
俺の足下には、床に横たわる鷹郷さんたち3人。
デスクの周りには、職員たち。
通路には、武志と女性異能者。
そして、橘。
全員が倒れ伏している中、立っているのは俺と幽霊少年のみ。
その少年が橘の傍らに立ち、こちらを見つめている。
少し透けた身体を俺に正対し、ただ見つめている。
「……」
「……」
僅かばかりの沈黙の時間が、こちらの心をざわつかせ。
奇妙で不愉快な感覚にとらわれてしまう。
「……」
「……」
沈黙の中、静かな微笑みを見せる少年。
漆黒を映す瞳には、好奇心。
新月の弧を描く唇には、驚嘆。
隠しきれない感情が、こぼれている。
「……いったい、君は?」
「ふふ」
口の端から声が。
ついに、声が!
「やっぱり、見えるんですね」
「……ああ」
「はじめまして、いや、お久しぶりです、がいいのかな?」
これまで沈黙を守っていた口から流れ出る声音。
あふれ出る笑顔。
「君は……」
透けもなくなっている。
やはり幽霊じゃない。
「そうです。ぼくは幽霊じゃありません」
なっ、心が読める?
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