第9話 再び 4



 ということで、ステータスを色々と調べたのだけれど、鑑定初級の効果もあってあっさり終わってしまった。知りたい箇所で鑑定と念じれば簡単な説明が出るのだから、すぐ終わるというものだ。


 もちろん、内容を理解しただけで、魔法などの詳しい検証はまだしていない。夜中の自室でするもんじゃないからな。


 といっても、魔法に関しては40歳の俺も20歳の俺も普段から訓練していたので、使用自体に問題はないと思う。実際、外で軽く使ってみたけど問題なく使えた。あとは、どの程度まで使えるか、熟練度に変わりがないかの確認をするだけだ。


 ただまあ、感覚的には使える魔法も熟練度も40歳当時の俺と変わりはないような気がする。



 身体的なステータスに関してはゲームなどでよく見る表記で、内容もその通りのものだった。

 ちなみに、表記の単語は変更可能なようで表記変更をイメージすれば、



生命力  110

魔力   155

力    183

敏捷性  125

知性   211


 という感じに変更された。

 内容的に理解は容易だが、このステータスの数字が高いのか低いのかは全く判断がつかない。



20歳 男 人間


 年齢を鑑定しても大した情報は手に入らなかったが、気になるのは20歳という年齢に引きずられるように若干気持ちが若返った気がするという点だ。何と言うか、身体だけじゃなく心にも活力が溢れているし、この30年で摩耗しつつあった冒険心とか正義感という純粋な気持ちが満ちているような気がするんだよな。


 異世界で冒険するんだという強い思い。

 少し恥ずかしいが、そんなものが心に溢れているような気がする。


 まっ、異世界に行けると分かったから、思いが蘇ってきただけかもしれないけれど。


 ……。


 次。

 それぞれのギフトはと言うと、


異世界間移動

基礎魔法

鑑定初級

エストラル語理解

セーブ&リセット


 についても鑑定による説明はとても有効だった。


 異世界間移動とは、言葉通りこの地と異世界を往来する能力。使用には結構な魔力が必要となるようだ。また、一度移動すると残存魔力に関わらず、12時間経つまで異世界間移動はできないとのこと。


 なので、今から異世界に行った場合、あちらで12時間を過ごさないといけない。

 この12時間の縛りが2つの世界を往来する生活の肝になりそうだな。

 まあ、あちらとこちらの時間の流れが同じだとも限らない。

 これも検証が必要だ。


 基礎魔法は、10歳の時から今までずっと使ってきた魔法。最初からライターのような火を出したり、コップ半分程度の水を出したり、同じ程度の土を出したりとか、その程度のことができた。


 当然40歳の俺の魔法はかなり上達している。使える魔法の種類も結構なものだ。

 今の20歳の身体では、これまた不明だけど……。


 鑑定初級は、今使っているように自分のステータスを調べる際にはかなり便利なものだ。

 知りたい事物を前にして念じれば頭の中に基本的な情報が浮かんでくる。


 ただし、自分に関すること以外は、ほんの僅かな情報しか浮かんでこない。実際に幾つかの物で試してみたが、本当に少しの情報しか浮かんでこなかった。ステータス以外では、あまり使えないかもしれないな。


 まっ、初級なのだから、それも当然か。


 エストラル語理解とは、これから移動する異世界で最も話されている言語であるエストラル語を使いこなす能力。エストラル語とは地球での英語みたいな言語なのだろう。

 そういえば、10歳の時に異世界の人と普通に会話ができたのはこの能力が当時すでに備わっていたからなのだろうか。


 この鑑定と言語理解には魔力は必要ないようだ。



 そして、セーブ&リセット。

 これは本当にとんでもない代物。

 こんなものを使ってもいいのか悩んでしまうほどだ。


 まあ、持っているのだから必要になれば使うのだろうけど、どうにも釈然としないものがある。


 やり直しができるというのは、どうもなぁ……。


 と言っている、20歳の今の俺自体がやり直しみたいなものか。


 で、その使い方は。

 あらかじめセーブと念じておけば、後ほどリセットした際にセーブ時点まで戻ることができるという分かりやすいもの。


 ただし、いくつかの制約が存在する。


 まず、このセーブには有効期限が設定されており、その期間が経過するとリセットの効力は消えてしまう。

 次に、セーブの複数使用は不可だということ。つまり1度セーブした後にリセットせず次のセーブを使用した場合、1度目のセーブは消失することになると。


 そして、何より注意すべきは先の4つのギフトとの大きな違い。

 この力が1度使えるだけの使い捨ての能力だという点。

 セーブした時点に戻れるのは1回だけなんだ。

 

 となると、使いどころが重要になるのは言うまでもないな。

 複数所持できるなら話も変わってくるが、そうそう手に入るものでもないだろうし。


 ……。


 使用を迷うものを複数所持すればなんて、我ながら矛盾しているとは思うが、そこはまあ……。

 まあ、そういうことだ。




 <クエスト>

1、人助け 済 


 これは、10歳の頃にリーナとオズを助けたあれか。

 神様からのサービスクエストだったんだろうな。


 ちなみに、次のクエストはまだ表示されていない。

 異世界に行けば、また新たなクエストが現れるのかもしれないな。


 所持金については……。

 うーん、なぜ異世界のお金を持っているんだ?

 神様からのプレゼントだろうか?


 ちなみに、メルクは通貨単位で、1メルクでパン1つが買える、5メルクで軽食が可能という程度らしい。


 1メルクは100円程度。

 とすると、15、000メルクという金額は相当なものじゃないのか。


 40歳の俺にしてみたら、まあ驚くような金額ではないけれど。

 20歳の現状ではかなりの金額だ。


 しかし、メルクなんて稼いだ記憶はないけどなぁ。


「……」


 で、そんなお金がどこにあるというのだろう?

 当然そんなものに心当たりはない。俺の財布にも入っていない。

 ステータス上の15、000メルクという表記を眺めながら悩んでいると。


 ドスン。


「えっ!?」


 驚いてのけぞってしまった。

 突然目の前に布袋が現れたのだから。


 その袋を確認すると、中には小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、金貨が入っていた。

 それぞれ、1メルク、10メルク、100メルク、1000メルク、10000メルクの価値があるようだ。


 けど、どこから現れたんだ?


 ……。


 もう、これは神様からのプレゼントということで納得するしかないか。

 そうだな。

 異世界での活動資金として、ありがたく使わせてもらうことにしよう。




「今は21時。少し疲れているけど、大丈夫」


 ステータス確認後、夕食をとって風呂も入って準備万端。

 もちろん、服装も装備も思いつく範囲でそろえている。


 では。

 いざ、異世界へ。


「異世界間移動!!」



 目の前が真っ白になり浮遊感のような感覚が少し続いた後。

 気付けば、日本とは異なる趣のある路地裏に立っていた。

 まだ陽が空に残っているようで、周りは十分明るい。

 さっきまでいた日本は夜だったのに。


 ということは、ここは異世界!

 異世界だ!!


「あぁ……」


 やっと来ることができた。


「やった……」


 30年、そう30年も待ったんだ。


「戻ってきたぞ!!」


 無意識のうちに両手を握りしめてしまう。


 神様から異世界へ渡ることができると伝えられてはいたけれど、こうして実際にこの世界に来てみると、本当に本当に嬉しい。感慨無量とはこのことだ。


 喜びをかみしめた後、腕を見るとそこには腕時計。

 懐を確認すると、懐中時計もある。


 予想通りのことなのだが、これは助かるな。

 腕時計をはじめ移動前に携帯していた物は俺の身体と同様に異世界に移っていた。


 あらためて時計を確認すると、10分が経過している。


「……」


 周りを見渡すが誰もいない。

 路地裏でひとりガッツポーズをして10分。

 人に見られると、かなり恥ずかしい。周りに誰も居なくてよかった。


 40歳の男が何をしているんだかと反省してしまうが、30年分の思いがあるのだから仕方ない面もある、そう仕方ないのだ。


 少し気恥ずかしい思いをしたが、おかげで冷静になれた。


「さてと」


 町を散策したいが、その前にステータス確認かな。



  有馬 功己 (アリマ コウキ)


20歳 男 人間


HP  110

MP  75/155

STR 183

AGI 125

INT 211


<ギフト>

異世界間移動  基礎魔法  鑑定初級 エストラル語理解


セーブ&リセット 1


<所持金>  

15、000メルク


<クエスト>

1、人助け 済

2、人助け 未




MP    75/155


 魔力がかなり減っている。異世界へと渡ったのだから、これくらい魔力が減るのは当然なのか。とりあえず異世界に渡るには魔力80が必要と頭に入れておこう。


 ところで、12時間後には魔力は80以上に戻っているよな?

 回復していないと日本に帰れないってことに……。

 まっ、あと5だけ回復すればいいのだから大丈夫か。


 その他のステータスは特に変わっていない。

 ギフトも変わりなく、クエストは……追加されてるぞ。


 <クエスト>

1、人助け 済

2、人助け 未


 人助けの文字を念頭に入れながら鑑定してみると。


 人助けをするクエスト。内容不問。達成報酬有。


 そんな内容が頭に浮かんできた。

 神様からは強制ではないと言われたけれど、基本的に無視するつもりはない。可能なクエストはなるべくこなそうと思っている。


 とは言っても、今回も非常に簡単なクエストだ。

 このクエストが神様の手助けになるなんてことがあるのか?

 あるとは思えない。


 こんなことで報酬を貰ってもいいのか疑問に思ってしまう。

 まさか、今回もセーブのようなとんでもない報酬では?

 だとすると、かなりバランスが悪いと思うのだけれど。


「……」


 まっ、今は報酬のことは考えず。

 先に進もうかな。


 それでは、町を散策しながら助けが必要な人を探すことにしよう。


 と、ちょっと待てよ。

 ここはセーブすべきなのかな?


 久々の異世界、何が起こるか分からない。

 ずっと身体は鍛えてきたし、魔法も自分なりに使いこなせるようになっているとは思う。

 それでも、この世界の強さの平均が分からないからな、俺なんてただの三下って可能性は十分にある。


 1度しかできないセーブだけど、使っておくべきだな。


 よし!


「セーブ」


 これで使ったことになるのだろうか?

 ステータスを確認してみると、セーブ&リセットの部分が点滅している。

 これは……。


 使用中ということみたいだな。


 少しもったいない気もするけど、最初なのだから用心は必要。

 使えるものは使っておかないとな。

 問題無い。


「ふぅ~」


 ここで一息ついて感じたのだが……。


 この路地裏には見覚えがあるような気がする。

 10歳時に異世界に渡った際、ここに来たのでは?

 そうなのかもしれないな。

 


 そんな風に考えていると、また、くすぐったいような感慨がわいてくる。


「やっぱり、いいなぁ」


 まだまだこの思いに浸っていられるけど、時間がもったいない。

 とりあえず、ここを出てみよう。


 路地裏を出て大通りに足を踏み入れてみると。

 俺の前には異世界の人々。


 結構な人が通りを歩いてる。

 かなりの賑わいだ。


 でも、そんなことより……。


 通り沿いの街並みに覚えがあるような。

 やはり、ここは10歳の時に訪れた異世界の街と同じ街なのか。


「……」


 10歳の時に1度来ただけなので懐かしいという気持ちとは少し違う、名状しがたい感情が浮かんでくる。


「それもこれも全てこちらに来ることができたからこそだ」


 喜びと好奇心がそんな感情をすぐに吹き飛ばしてしまい、軽い足取りで大通りへと歩を進め散策を開始する。


 都会に出てきたお上りさんさながらに周りを眺めながらゆっくりと歩いているので多少目立っているだろうが、服装はジーンズとシャツの上に大きめの生成りのマントを羽織っているので、それほど目を引くようなこともないはず。


 俺の記憶の中の異世界の人々は中世から近世にかけての西洋人のような衣服を身につけている。

 今の俺はそんな服など持ってないのでマントでごまかそうというわけだ。



 うん、この店は?


「お客さん、いいのが揃ってるよ」


 道の端に果物や野菜を並べた小さな店。

 これは……あの時、果物をもらったあの店。

 この人、そうだ見覚えがある。


 あぁ。

 何て言ったらいいんだ。

 

 嬉しいし懐かしいし……。


「ひとつ、どうだい?」


「……これ、2つもらえますか?」


「あいよ」


 渡されたのはレモンのような果物。


「ヴィーツ2つで5メルクだ」


「どうぞ」


 大銅貨1枚を手渡す。


「おつりは要りませんので」


「いいのかい」


「ええ、取っておいてください」


 子供の頃のあの代金です。


「悪いな」




 懐かしいヴィーツを口に入れながら、大通りの散策を再開。


「やっぱり、美味しいな」


 10歳の時感じたあの味が口の中に広がっていく。

 甘味と酸味が混ざり合った爽やかな風味。


 いいな、これ。

 あっという間に2つを食べてしまった。


 ヴィーツに向かっていた意識が街並みに戻ると。

 右手に立派な建物が見えてきた。


 興味を引かれるまま、その建物の前に足を運ぶ。

 これは教会か。

 この世界にも教会はあるんだな。


 エスト大教会というらしいこの教会には自由に入れるようだ。

 門番はいるけれど、特にとがめられることもなく教会に入ることができた。


 外観もなかなか素晴らしいが、中はそれ以上に見応えがあるぞ。

 神像らしき彫像が左右に並び中央にはひと際美しい彫像が飾られている。


 これが主神なのかな。

 人々がそれぞれの神像の前でお祈りをしているが、中央の神像の前で祈る人が圧倒的に多い。


 この立派な建物、神像の前で祈る人の多さ。

 やはり、この世界でも宗教は大きな力を持っていそうだ。


 実際、こちらの世界に来ることができたのも神様のおかげだし……。

 この世界では、神様と人々との関係は地球でのそれより近いものがあるのかもしれない。


 ところで、沢山の神像があるんだけど説明書きなど無いので、何の神様なのかさっぱり分からない。


 と、そこで思い出した。

 こういう時に鑑定を使うんだよ。


 で、さっそく使ってみたところ。


 主神エスト神像


 それだけ?

 情報が少なすぎる。

 神様の名前が分かったから、役には立っているけど。


「……」


 まっ、鑑定は初級だからしかたないか。


 その後、左右に並ぶ神像を鑑定してみても、同様のことしか分からなかった。

 名前だけ分かった多数の神様。

 多すぎてすぐには覚えられないな。


 ちなみに、俺をこの世界に導いてくれた神様がこの中にいるかどうかは分からない。

 似ていると言えば似ている神像もあるけど、何とも言えない程度だから。


 それに、そもそも、あの空間では神様の顔がはっきりと見えていた訳じゃない。

 顔や表情のイメージが伝わってきただけ。


 その記憶で判別するのは、無理ってものだな。


 でも、もし次の機会があるのなら、神様の御名前をお聞きしたいものだ。



 ひと通り見学した後は教会を出て再び通りを歩いて回る。

 衣料品店や書店、宝飾店など日本と同じような店もたくさんあるが、武器屋に防具屋に魔法具屋といった珍しいというかロマンあふれる店もちらほらと目に入ってくる。


 こうして歩いているだけでギフトの有用性を身に染みて感じられるな。

 店名が読めるっていうのはホントに助かる。

 文字が読めなかったら、不便で仕方ないところだった。

 言語理解さまさまだ。


 大通りの中でも商業地区のようなあたりを歩いていると、多くの商店、食堂、それに屋台や露店なども目に入ってきた。


 ゆっくり見たい店も結構あったが、教会以外は奥まで立ち入らず簡単に覗くだけでひと通り歩いて回ることを優先する。


 1時間ほど散策していると、通りの左右が徐々に寂しくなってきた。

 どうやら商業地区を抜けたようだな。

 これだけの範囲にわたって商業施設があるということは、ここはかなり大きな街なんだろう。


 さてと、訊きたいことがいろいろあるけれど、どこで訊けばいいのやら。

 無難に怪しまれずいろいろとゆっくり調べるには……。


 食堂か宿屋かな?

 武器屋や魔法具屋にはかなり惹かれるが、ひとまずは情報収集優先ということで。



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