第61話 獣の本性
アリエナが無事保護されたと村中に連絡が行き届き騒ぎは無事収まッた頃はもう夕暮れ
その頃、ジョンの部屋に訪問者が現れていた。
「やぁ、ジョン、ちょっといいかな?」
訪問者はエスカルド騎士団 団長 ジェイク・ロックロード
「何の用だ? あ、あとそれ以上こっちに寄るなよ」
「何だ。俺はいつの間にかに嫌われたみたいだな」
「気にするなよ、俺は人類皆敵だと見なしてるからな……余計な言葉は要らない、もう一度聞く何の用だ? 楽しい話じゃないんだろ?」
ジェイクはこの部屋に入って来た時、確かに笑顔だったがジョンがそう発した途端、笑顔が消える
「……まぁ、確かにごちゃごちゃ言葉を重ねるのは俺の性には合わんわな、じゃあ遠慮無く聞かせて貰うぜ、けど安心してくれよ聞きたいのは単純かつ簡単な事だ。”お前”は俺達の何なんだ? 味方かそれとも敵か……? どっちだ? ジョン・ラム」
ジェイクはジョンの顔覗き込みそう言う、そしてその顔さっきまでの気の良さそうな男性の顔では無く、冷酷な殺人鬼の顔、ジョンが此処で一言でも下手を言ったら殺される、そういう雰囲気を醸し出していた。
「おい、俺に近付くなと言っただろ、ボンクラ」
しかしジョンはそんな雰囲気、感じ慣れている
無意味、無価値
尋常では無いその雰囲気の中睨み合う両者、何時殺し合いが始まってもおかしくない
「俺の言った事だけに答えろよ、間抜け、次余計な事を言ったら……殺す」
腰の剣に手を掛けるジェイク
「ふざけるなよ、間抜けはお前だ。お前もし俺が此処でお前の味方だと言ったらどうする? お前が何故ここに来て何故こんな質問をしたのか考えれば簡単に分かる話だ。お前はローラから俺の素行について全て聞き、お前は判断したんだ。俺は信用の出来ない人間だとなぁ、だから此処に来た。つまり、俺に下される判決は既に決められてるんだよなぁ? お前の中で……」
判決・有罪(ギルティ)
互いの刃が抜かれる
ジョンは牢の中にジェイクはその外
二人は牢の扉を挟み立っている、間合いは既に必殺の間合い、力・技量が上の方が数秒後に立っている
「殺してやるよ、ジョン……!」
「そう言う言葉は殺す前に言うもんじゃないぜ? ジェイク」
「待て、馬鹿者ども!!」
二人の獣を止めたのは一人の吸血鬼・メイヴィス
「貴様ら何を考えている!? こんな所で血を流す気か!?」
「おい、クソガキ消えろよ、それともまず、お前から滅してやろうか?」
ジェイクの標的はメイヴィスに向かう
「!? り、理解出来ん……何故殺し合おうとするんだ? 此処は戦場でも無いのに」
「戦場じゃない? 千年も生きれば目も見えなくなるのか? 敵が此処に居るそれだけで十分此処は戦場に成り得るんだよ」
「お前は口を挟むなよ、メイヴィス、これは俺とこいつとで決着をつける」
「黙るのはお前だ。ジョンそれにジェイク……ジョンは一時的とはいえカランダーン様の直属の部下だ。それをカランダーン様の許可も無しに殺そうとする……この意味お前は分かっているのか? 神に逆らうのか?」
「つまりはそういう事だな、俺が奴を殺せばな」
「正気を失ったか、ジェイク……!」
と必死の形相のメイヴィスを見てジェイクは思わず吹き出してしまう
笑うジェイク
それを見て不気味に思うメイヴィス
「ど、どうしたんだ?」
「い、いやいや、悪い悪い、冗談がきつ過ぎたな」
「冗談だと……? え? 冗談?」
「あぁ、そうさ今の時点では俺はジョンを殺すつもりなんてない、神の敵になるのもごめんだしな」
「ふ、ふざけるな! だったら何故あんな事をしたんだ! 度を過ぎているぞ!」
「だから言っただろ? 悪かったって、ジョンも悪かったな、だが本当にお前が度を過ぎた事をすれば本当にさっきの様な事になる、これは冗談では無いぞ」
「ご忠告ご丁寧にどうも」
「あと、マリアお嬢さんが上の客間で待ってる、俺も行くんだが一緒に行くか?」
「いいや、俺は準備をしてから行くから後に合流する、マリアお嬢様にはそう伝えて置いてくれ」
「あぁ、分かった。待ってる」
そう言いジェイクは部屋を出て行ったのだった。
緊張が解け胸をなでおろすメイヴィス
「はぁ、ジョンお前は最初から分かってたのか?」
「……さぁ? どう思う?」
と言いジョンは牢の闇の中に消える
「おい! マリアとの約束があるんだろ?」
「面倒くせぇな……うわぁ、面倒くさい」
さっきまでのドスの効いた声とは対照的に間抜けな声を上げるジョン
「……さっさと行くんだな、まったく……心配を掛けさせおって」
ジェイクがキュベルと一緒に廊下を歩いている
「団長、少々やり過ぎだったのでは?」
キュベルはあの部屋の外に居て中の様子を伺っていたのだ。
「だな、やり過ぎた。まぁだがいいんじゃないか? ジョンは俺の演技分かっていた様だしな」
「そうなんですか?」
「あぁ、殺気はマジだったが……分かってただろうな」
「じゃあ、分かってて貴方の演技に乗っかっていた訳ですね」
「そうなるな、乗りの良い男だ」
「しかし、本当にあっちが演技と分からず襲って来たらどうするつもりだったんですか?」
「ん~死んでたかもな」
「へぇ~随分と相手を買ってるんですね、手加減できないって訳ですか」
キュベルはジェイクの実力に絶対の信頼を寄せている、だからジェイクの発言をこう解釈したのだ。
ジェイクが手加減出来ずに相手を殺してしまう所だった。と
しかし違った。
「違うぞ、”俺”が死ぬところだったと言ったんだ」
「え?」
キュベルは表情を崩さないが内心は跳ね上がる
「貴方が、負ける……? ですって? 本気で言っているんですか?」
「あぁ、あそこはアイツのテリトリー……その上近接戦闘じゃあっちの方が上だ」
ジェイクは今までこんな事を言った事は無い、お世辞や謙遜をするタイプでもない
だからその驚きが表情に出るキュベル
(あのジェイクが負ける……? あの竜殺しのジェイクが?)
ジェイクはエスカルドでは竜殺しと呼ばれエスカルドで一二を争う剣術の達人という話になっているのだ。
そのジェイクが剣術で勝てないと言ったので驚いた。
「戦っても居ないのにそんな事分かるんですか……?」
「分かるさ」
彼はジョンの必殺の間合いに入ったのだ。
達人レベルになったら分かる、相手の間合いに入った時点でその相手が自分を殺せるか殺せないかを
「ローラから凄腕だとは聞いていたが想像以上だな、化け物だ。あいつは」
化け物、その称号は元はジェイクのモノであった。
ジェイクの戦いを見たら誰もがジェイクの事を化け物だと言った。
「……」
キュベルは押し黙ってしまった。
「いや~いい者が見れたなぁ、俺も鍛えなくちゃな」
と顔を緩め嬉しそうな顔をしている
(やっぱり、この人も化け物だ。殺され掛けて何故そんな顔が出来るんだか……)
ジョンが客間に行った時には既にマリアは怒っていた。
客間にはジェイクとマリアだけが居る
「遅い! 何をしていたのよ!」
「いやぁすいませんね」
「まったく、もう」
と不機嫌そうに腕を組む
「やぁ、待ってたよ、さぁ、そこに座って」
とジェイクが笑顔で言う、さっきの人物とは別者
「マリアお嬢様、どうしたんですか? 何故俺を呼んだんです?」
「ん? 私は別に呼んでいないわよ、ジョンを呼んだからジョンが来るまで待っててとジェイクに言われただけよ」
ジョンはジェイクを睨む
「要は俺に用事があるのはお前だったって訳か、そしてその用事を俺に話すのにマリアお嬢様も同席する必要がある……と」
「その通り」
ジョンは仕方が無くジェイクに指定された椅子には座らず、別の椅子に座る、彼は天邪鬼
「話を聞こうか?」
「そうだな、早速話をしようか」
「どんな話なのかしら?」
「学校の話ですよ、お嬢様」
学校という単語が出た瞬間マリアの顔が青ざめる
「え? が、学校?」
「マリアお嬢様、学校に通っていたんですか? 初耳ですね」
「そう、エスカルドにある、学校にお嬢様は通っていた」
「いた? その言い方だと今はしていないという風に聞こえるぞ」
「その解釈で間違っていない、お嬢様は今現在学校には通っていないんだ」
「問題を起こして退学にでもなったんですか?」
「……」
ジョンの嫌味にも反応しないマリア
肩がぶるぶると震えている
「ジェイク、どういう事だ? 何が有った?」
マリアの様子を見て尋常では無いと察したジョンがジェイクに問う
「お嬢様、ジョンにあの事を話してもよろしいですか?」
答えは帰って来ない
「イエス、だとよ」
「まぁ、いいか、簡単に言うとお嬢様は学校でいじめを受けその影響で不登校になったんだ」
「マリアお嬢様がいじめられた? いじめたの間違いでは無くて?」
「あぁ、言った通り、いじめを受けていたんだ」
(こっちの世界にもあるんだな、そんなの)
「で? その不登校のマリアお嬢様がどうしたんだ?」
「俺は彼女に以前の様に学校に通って欲しいんだ」
そのジェイクの言葉を聞いた途端にまたマリアの身体が跳ねる
「ほぉ、それはそれは素晴らしい、で? 何か対策は有るのか? 何も無しで学校に無理矢理行ったってまたいじめられて逆戻りだろ」
「一応は考えているんだが……上手くいくかどうかは分からない」
「ふーん、それでマリアお嬢様は何が有っていじめを受けたんですか? その性格が災いしてですか?」
「違う、お嬢様は学校では優等生だったんだ。それにこれはタダのいじめでは無い」
「へーどういう事だ?」
「話せば少し長くなる」
「話してみな」
「……お前もお嬢様の執事だ。聞いて置いた方がいいか」
ジェイクはジョンの方を真っ直ぐに見て話しを始めた。
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