第51話 歩く偏屈屋

 

「確かにこの辺りから音がしたぞ」

「気のせいなんじゃないの?」

「お前じゃないんだ。”有り得ない”」


 ジョンが自信満々にそう言い返す。


「そう……分かったわ」


 その自信何処から来るのかしらと思いながらライラはそう返す。


「今”その自信何処から来るの?” とか思っただろ?」


 一瞬ギクッとするライラだがすぐに冷静になり


「そんな事思ってないわ全然」

「あっそ、ならいいんだが」


 と言いジョンは捜索を再開する


 彼らが探しているのはジョンの仲間のジャック、エル、メイヴィスの三人の仲間たちである

 そしてジョンが崩れかけの遺跡を捜索しているととある方向から人の話し声の様なものを聞き、今に至る

 しかしその人の話し声を聞いたのはジョンだけなのでライラは半信半疑なのである

 ひとまず崩壊は止まったがまだ予断は許さない状況、いつまた崩壊が再開されるか分からない


「何処にも人なんか居ないわよ?」

「居ないから探してるんだろ?」

「そういう事を言いたいんじゃないの、最初から此処には誰も居なくて此処を幾ら探したって無駄なんじゃないの? と言いたいのよ」

「いや、此処には誰かいる間違いない」


 ジョンの顔は自信に溢れている

 改めて何処からその自信が来るのかと思うライラ


「はぁ……分かったよ、勝手に捜索なりなんなりしなさいよ」

「お前の許可が無くてもそうさせて貰う」


 そう言いジョンは先に進む


「本当に声なんて聞こえたの?」

「さっきから同じことを言ってないか? 聴こえたと言っただろ? 間違いない」

「その声は貴方の仲間の声だったの?」

「残念ながら声の識別までは出来なかった。分かったのは微かに声が聞こえたという事実だけだ」

「おーい! 誰か居ないのか!! エル! メイヴィス!!」


 ジョンが真っ暗な前方に向かって叫ぶ


「そんな大声を出したらまた崩れ始めるかもしれないわよ」

「それは仕方ない、何かを得る為には何かを捨てる必要があるもんさ」


 ジョンの耳が足音をキャッチする


「おい、誰か来るぞ、俺の後ろに下がれ」


 とライラに言うジョン


「分かったわ」


 素直に言う事を聞くライラ

 そしてジョンは両手に短剣を持ち構える


「誰だ? 名前を聞こうか?」

「……クククッ私だよ」


 暗闇から姿を現したのは何とジャック


「悪いね、エルでもメイヴィスでも無くてさ」

「よぉ久々だな、他の二人はどうした?」

「彼女達とはさっきの騒動ではぐれてしまってね、今は私一人」

「その話は本当か? あの二人を罠に嵌めて何処かに閉じ込めたんじゃあるまいな?」

「流石の私でもこの状況でそんな事する暇は無いよ」

「この人貴方の仲間なの?」

「今はな、今だけだ」

「酷い言い方だなぁ、ジョン昔はあんなに優しかったのに」

「気持ち悪い言い方をするんじゃねぇ!」

「どんな関係なのよ……貴方達」


 ジョンは不機嫌そうに腕を組み、ジャックに問う


「で? 残り時間は幾つだ? 何時爆弾が爆発する?」

「幾つだろうね? もう爆発してるかもしれないし、していないかもしれない……クククッ」


 ジャックは不気味に微笑する


「あと残りいくつであれ今は関係無いでしょ? 脱出する事だけを考えようよ」

「脱出よりまずエルとメイヴィスを探すのが最優先だ」

「あぁ、それもあったね、ちゃっちゃと片づけちゃおう」

「あいつらとどこら辺で逸れたんだ?」

「どこら辺と言われてもね……どこもかしこも同じような場所だから、此処とは言えないよ、案内は出来るけど」

「ならさっさとしろ」

「おぉ~怖い怖い、そんな怖い顔しないでよ、案内するからさ」


 一切恐怖も感じていない余裕の顔のジャックが先行して道案内の為、崩れかけている遺跡を歩く


「それでさ、さっきから聞きたかったんだけどその人って確かナサルって人でしょ? 確か海の国に居たんじゃなかったっけ? 何でここに居るの?」

「答える必要があるのか?」

「あのさぁ……一応私と君は仲間なんだよ? 情報共有も大事だと思うけどなぁ」

「必要ない、一切な」


 ジョンのその言葉を聞くとジャックがピタッとその場で止まる


「面倒臭い奴だな……」


 と心底、面倒くさそうに溜息を吐くジョン


「ジョン、私の言いたい事は分かるよね?」

「こいつの事を話さなきゃもうこれ以上案内はしないって事だろ?」

「うんうん、よく分かってるね、流石私の元師匠なだけはあるね」

「そりゃどうも」

「貴方達、師弟関係だったの? 全然そんな風には見えなかったけど……」

「だろうね、だって”元”師弟なだけだからね、それじゃ聞いていいかな? 君は誰だい? 顔はナサルという女性と瓜二つだけど服装や雰囲気がまるで違う……」


 ライラはジャックに己がクローンである事それにそのナサルもライラと同じクローン人間である事を話す。


「へぇ、クローン人間ねぇ……聞いた事あるよ、三人の賢者の遺体から作られたんでしょ? 君達は」

「えぇ、そうよ」

「三人の賢者……?」

「何だいジョン、そんな事も知らないのかい? 呆れたね」

「悪かったな、それで? 何だその賢者とか言う奴等は何故そいつらのクローンを作ろうとする?」

「昔の話さ、三百年前の話とか言ってたかな? 三百年前にこの世界に突如として現れた魔物『ダーテエルウィン』姿形は人間の白骨の様な姿に重そうな黒い鎧を着て骸骨の馬に乗って剣を振るう、そしてその剣で刺された者は強制的にダーテエルウィンの眷属或いは奴隷となって一生こき使われるハメになるって話なんだ。そしてその力を使って次々と人や動物、時には魔物まで斬って次々と仲間を増やし一国を滅ぼせるであろう力を身につけたんだ……」

「恐ろしいな、それで? ソイツを倒したのがその三人って話か?」

「……君って本当に空気を読めないよね……なんで言っちゃうかな? 話途中だったでしょ? 我慢できないの?」

「そんな昔話に付き合っている暇は無いと言ったんだ。兎に角そんな恐ろしい化け物を倒した英雄のクローンを作って最強の軍隊でも作ろうとしたって所か?」

「三賢者の一人が珍しい治癒属性を持っていたから軍隊だけじゃなくて大きな病院も作ろうとしてたって話だね」

「軍隊に病院ねぇ……今でも研究は続いているのか? 此処は駄目な様だが……研究員も死んだみたいだしな」

「いいや、研究は途中で頓挫、研究を行っていた国が次々と研究の中止を自国の研究員に訴えかけるまでになったんだ」

「何故?」

「クローンの作成には成功したんだけど問題があったんだ……彼女達は自我を持っていたんだよ、しかし研究員たちはそんな事お構いなしに過酷な環境を彼女達に強いて来た己の研究欲の為にね……その結果、彼女たちは反逆を起こしたんだ。自分達を苦しめてきた研究員たちにね……そしてそれは各地に点在していた研究所すべてで起こったんだ。研究所に居た研究員たちは皆殺しにされ必ず研究所は燃やされたという、恐らくクローンたちがもう二度と自分達のような犠牲者を出さない様に研究所を燃やしたんだろうね……いやー感動感動」


 と棒読みで拍手をする


「そしてそんな最悪の反乱分子を生み出しかねない研究を国が認める筈も無く、この事件が発生した後クローンについての研究は一切禁止された。あらゆる国でね」


 ジョンは書庫で見た白骨遺体を思い出す。そしてライラが彼を殺したと言った事も思い出す。


「お前がアイツを殺した動機はこれか」

「……あまり思い出したくない思い出なの聞かないで」

「そりゃ失敬したな」

「話では聞いていたけどクローンに会ったのは初めてだよ、よろしくね、ライラちゃん」

「はい、よろしくお願いします」


 二人は握手する


「それで行き成りで悪いんだけど私の仲間にならない?」

「その勧誘癖まだ治って無いのか?」

「何を言っているんだい私はスカウトだよ? 言ったでしょ? これは仕事だよ」

「何が仕事だよ、前の世界でもこんな様子だっただろ、優秀な人材を見つけたら即勧誘、飽きたらポイ」

「まぁ、確かに優秀な人を見ると自分のものにしたい欲求が出てきちゃうのは認めるよ、でもそんな無責任にポイッとは道端には捨てないよ、ゴミはちゃんと焼却炉に捨てるよ」

「聞いただろ? こいつについて行くのは止めて置け」

「最初からついて行くつもりは無いです」

「それは残念だね……またの機会だね」

「またの機会は無いです」

「これは手厳しい、あとジョン一つ聞いていいかな?」

「何だ? まだあるのか?」

「さっきから気になって仕方ないんだけど君が担いでいるその人は誰だい?」


 とジャックはジョンの肩で暴れるライラの姉を指差す。


「今更かよ、触れないのかと思ったぜ」

「そうしようかとも思ったけどやっぱり気になってね」

「こいつはライラの姉の……そう言えば名前を知らないな、ライラこいつの名は?」

「ローラよ」

「ローラもクローンなんだね?」

「そうよ」

「へぇ彼女君と一緒に居た金髪の騎士と同じ顔をしているね……凄いや、君の周りにはクローン人間が二人も居たんだね!」


 ジャックがジョンに拍手を送る、意図は分からない


「いいからさっさと案内を再開しろ」

「分かったよ、せっかちだな」


 ジャックはそう言うと渋々と案内を再開する


「ねぇ、ライラちゃん」


 ジャックが歩きながら振り替えもせずにライラに話し掛ける


「なに?」

「この研究所を閉鎖させたのはライラちゃん達なんだよね?」

「……そうよ」

「それはいつ頃の話なんだい?」

「十年前の話よ十年前に私達姉妹全員でここの研究者を殺し、研究所を破壊したの」

「へぇ此処を壊したのは十年前なんだ……へぇ」


 ジャックが意味深に一人勝手に頷く


「何一人で納得してんだ?」

「ジョン、私はさっきこのクローン研究があらゆる国にて禁止されたと言ったよね?」

「そんな事言ってたな」

「それでね、問題なのは禁止されたのが二十年も前の話だって話なんだよ」

「つまり研究者達は国の言う事も聞かず此処で”極秘”に研究を続けていたって事か?」

「そうなるだろうね、だから遺跡を改造までして此処を研究所にしたんだろう、誰にも見つからないようにね」

「だからここまで警備が厳重だった訳だ」

「研究者の好奇心には感服するよ、本当にあのバイタリティは一体何処から来るんだろう?」

「此処で研究を続けていたのは研究者の好奇心も有ったんだろうがもしかしたら支援をしていた国もあるかもな」

「この研究が成功すれば医療にも戦にも使えるしね、失敗したらどうなるか分からないけど成功すれば大きな見返りが見込める……逃がすには惜しい魚影だね」

「しかし結果は失敗した訳だ」

「残念ながらね」


 とジョンとジャックが陰謀論で盛り上がっていると前方から微かに声が聞こえる

 声が聞こえた途端二人は会話を止め耳を声の方向へ傾ける


「こっちだ」


 とジョンがジャックを追い越し声の方向へ歩き出す。

 そして通路を歩いていると瓦礫の山が三人の行く手を阻む、しかし前方からは確かに声がする、引く訳にはいかない


「ライラ」


 とジョンがライラを呼ぶ

 ライラは何故ジョンに呼ばれたかを理解していた。


「分かったわ、この瓦礫を退かすから、二人共下がってて」

「退かす……? どうやって?」


 糸の事を知らないジャックはこの瓦礫の山をどうやって撤去するのか疑問に思う

 ライラはそんなジャックなどお構いなしに糸を取り出し魔力を流して瓦礫を”操作”する

 それを見て目を丸くするジャック


「……驚いたな、まさかそれが噂のラライクの糸かい?」

「らしいぜ?」

「確か私が言ったよね? 情報共有をしようってさ、聞いてなかったのかな?」

「そう怒るなよ、ちょっとしたサプライズさ、お前の喜ぶ顔が見たくてな」

「君にそんな心があったとはね、驚きだよ」



 ジョン達は声を追って暗闇の中を歩く

 瓦礫の山をラライクの糸で操り退け、先に進む、そして行き着いた先で床に伏せたエルを泣きながら介抱しているメイヴィスを発見する


「何してんだ!?」


 咄嗟にメイヴィス達に近付くジョン


「ジ、ジョン……生きていたのか……良かった……」

「そんな事言っている場合か? エルに何があったんだ?」

「分からないんだ……急に倒れて……しまって」

「急に倒れた? 落ちて来た石片に当たって気絶したとかじゃないのか?」

「違う、我もそれを疑って探したが何処にもそんな傷は無いんだ」

「……何故倒れたのかは分からないが息をしている、今はまだ死んじゃいない、原因を考えるのは外に出てからだ」

「そうだな……分かった……」


 メイヴィスが目に溜まった涙を手で拭き取りながらそう答える


(この女、千年生きたという割にちょっとした事ですぐ動揺するな……純粋な力と力のぶつかり合いなら強いんだろうが精神攻撃をされたらすぐにやられちまうだろうな……こいつとジャックを戦わせるのは避けた方がいいな、間違いなくやられる)


「ライラそういう事だから外まで案内してくれ」

「分かったわ、出口はこっちよ」


 と今度はライラが先行してジョン達を導く

 そのライラの姿を見て目を丸くするメイヴィス、そんな反応をするメイヴィスを見てまた説明しなきゃならないのか……と面倒臭そうな顔をするジョン


「ナサル!? 何故此処に? 何故だジョン……教えてくれ」

「面倒臭いから後だ後」

「みんな私を見てナサルと言うわね、慕われているのかしら?」


 ナサルという自分にソックリな姉妹に少し嫉妬するライラ

 そんな嫉妬心を抱きながらジョン達を外まで案内しようとした時だった。

 メイヴィスが突然自分の胸を両手で押さえながら苦しみだす。


「どうした!? メイヴィス! ……と言っても答えられるような状況じゃなさそうだが」


 ジョンの言った通りメイヴィスは喋る事も出来ない程の苦しみを今、味わっている


「おい! ジャックにライラ、どうやってかは分からないが俺達はどうやら何者かに”攻撃”されている、ライラ何か見当はないか?」

「無いわ……だって言ったでしょ? 此処にはもう私一人しか居ない筈だったのよ!?」

「死んだ姉が蘇り、お前の知らない罠が作動した……誰かの意思を感じるな……何処かで慌てふためく俺達を見てほくそ笑んでやがるな……?」

「それは気に入らないね……何処の誰かも分からない他人に笑われるのは趣味じゃないな」

「ジャック、ライラ、俺達三人で組んで黒幕を炙り出してやらないか? 俺達でチームを組む」

「いいよ、ぶっ殺してやろうじゃないか」

「本当に黒幕なんて居るのかしら……?」

「黒幕が居なかったら逆に驚きだぜ、罠の発動タイミング、こいつらが倒れるタイミング何もかもタイミングが良すぎる、偶然にしては出来過ぎだぜ」

「それはそうだけど……」

「それと俺は一つ疑問に思っていた事があるんだ」

「?」

「俺がラライクの糸を手に入れた時その糸は一旦解除された、その影響で遺跡は崩れ始め外に居たでくの坊は魔法が解けてただの砂に戻っていた。だが一つ元に戻っていない者がある」

「……姉さん」

「そうだ。お前の姉は元に戻っていない、ずっと虫の様にのたうち回っている、何故だ? それはこの糸は関係ないからだ。つまり糸以外の誰かがお前の姉を操っている」

「……この遺跡が崩壊を止めたのもその誰かさんが止めたからかもね、あんな大きな砂丘の下にある遺跡が魔法無しでこんな長時間持ち堪えられる訳がない」

「何故態々止めたんだと思う? 俺達を殺すだけが目的ならそんな事はしない筈だ」

「その通り、つまり私達を何処からかで見て”観察”している、目的は分からないけどね」

「そしてその黒幕は恐らく神だろうよ、神でなきゃこの遺跡全体を支える事は不可能、そうだろ! 神様よ!」


 ジョンが暗闇に向かって叫ぶ

 そしてそのジョンの答えに拍手で答える者が一体


「お見事、正解だ。素晴らしいな諸君」


 暗闇から現れたのは黄金の毛を持った狼、そしてその狼は人の言葉を話す。


「よぉ、会いたかったぜ、で? 何の用だ? 何の用もないならこの二人をとっとと元に戻せ」

「元に戻す? 何故だ?」

「……それは宣戦布告と受け取ってよろしいか?」

「構わんよ、お前達もあの二人の様に苦しみ死ぬのだ!」

「我が名はラライク! 我の命令は絶対! 朽ちよ! 人間!」


 ジョン達に向かって黄金の毛を持つ狼が高速で襲い掛かって来る、衝突まで僅か

 ライラはそれを見て慌てふためくがジョンとジャックは落ち着いていた。

 何故落ち着いていられるかはその後の現象で分かる、狼はジョン達に素早く向かったもののそのまま何もせずにジョン達の目の前で止まってしまった。

 

「何故なにもしなかった?」


 ラライクが二人に言う


「だって、私が言ったじゃないか、私達を殺すだけなら何時でも出来たハズだ。なのにそうはしなかった。何か特別な理由があるってさ」

「要するに今までも殺すチャンスが幾らでもあったのに見逃して来たお前が今俺達を殺すつもりで襲って来るのはおかしいって事さ」

「……ふむ、なるほど確かに違いないな」

「それで? 何でこんな事をしたんだ? 目的は?」

「君達の能力を見て置きたかったのだ」

「何の為にだい?」

「君達二人は外から来た人間で全てが未知数だ。だから我々の脅威になりうるかどうかを見たかった」

「我々って神全体の事を指しているのか?」

「その通りだ」

「お前達は俺達の事を何だと思ってるんだ? そんな脅威になりそうだと本気で思っているのか?」

「私達も外の世界から人を連れてくるなど初めてだったんだ。少しは警戒もする」

「お前達が俺達をそこまで警戒しているとは知らなかったぜ」

「ね、ねぇさっきから話が見えないんだけど……外の世界って何かしら?」


 何も知らないライラにとっては当然の疑問である

 しかしジョン達にとってはそうではない、説明するのが非常に面倒で説明しても理解されるか分からない

 なので三人はライラのその質問を無視する事に決定した。


「ちょ、ちょっと! 何で無視をするの!?」

「説明するのが死ぬほど面倒だからだ。兎に角いまは黙ってな」

「……分かったわ」


 不満に思いながらもライラは後ろへ下がる


「で? その警戒は解けたのかよ?」

「あぁ、君達はこっちの普通の人間と変わらないようだ」

「いいや違うね、私達は本来魔法を使えないんだから、こちらの人間という名の種の方が優秀だよ」

「俺達の世界じゃ魔法なんておとぎ話の中の話だからな」

「私達は君達を一刻も早く元の世界に戻したいと考えている、だから致し方なく君を呼んだのだ。ジョン」

「なら丁度ここに二人居るな」

「そうだ。ジャックから話を聞いた後、元の世界に戻って貰う」

「話って何の話だ?」

「ジャック、君を此処の世界へ呼び寄せたのは誰だ? それを我々は聞きたい」


 ジャックはクククと笑う


「それは無料(タダ)で教えろと? そう言うのかい?」

「ケチ臭い事言ってんじゃねぇよ」

「何とでも言ってよ、交換条件じゃないと私は何も答えるつもりは無いよ」

「だとよ、こうなったらもう何言っても聞かないだろうから、大人しく言う事を聞いた方がいいぜ」

「分かった。君には私の宝を差し出そう」

「宝ねぇ……その宝とか言う奴はどんなのだい? まさか何処かの景色なんて言わないよね?」

「黄金の剣やカップ等だ。心配する事は無い」

「なら良いんだけどさ」

「それでは君は後で裁判所へ連れて行く、ジョンはその間カランダーンの下で待機していてくれ」

「話はまとまったな? まとまったならこの二人とこの女を解放してやってくれよ」


 エルとメイヴィス、ローラの事を指すジョン


「分かった。二人は解放しよう」


 二人という言葉に疑問を感じるジョン


「二人だって……?」

「ローラについてだが、彼女は既に死んでいる、今は私が強制的に肉体を生きた状態にして操っているから生きている様に見えるだけだ。だから私が魔法を解除しても彼女は元に戻らない」


 それを聞いて顔を青くするライラ



「姉さんは生き返ったんじゃないの……?」

「違う、私の力でそう見えていただけだ」


 唖然とするライラ


「ふざけないで! 私の姉を人形として扱っていたの……?」

「そうでは無い」

「”そうでは無い”……? 実際そうしているじゃない!」

「まぁそれは違いないな、ローラをお前は利用した。それは認めろよ、余計な言い訳は逆効果だぜ」

「……」

「自分の潔白の為に言い訳をするとは神も人間も変わらんな」

「すまなかった……」


 ラライクのその懺悔に何も答えないライラ


「神様が人間に謝るのかい? 前から思ってたけどここは不思議な世界だねぇ」

「そういえばそんな事やっている場合じゃなかったな、エルとメイヴィスを元に戻してくれないか?」


 ラライクはエルとメイヴィスに掛けた魔法を解くがすぐには目は覚まさない、そしてその二人と同時にローラの魔法も解ける、今まで暴れていたローラだがその所為でピクリとも動かなくなる


「とっととこの場を離れよう、息が詰まりそうだ」

「そうだな、ではジャック裁判の時は頼んだぞ」

「クククッどうだろうね」


 ラライクが先行して遺跡の出口まで向かう

 ライラがラライクの事を憎んでおりラライクの事を睨み一番後方の方で歩いている

 ジョンは未だにローラの亡骸を担いでいる、それは何故か? ライラと約束したからだ。ライラと一緒に外へ連れて行くという約束、ジョンはまだ忘れていない


「外までどのくらい掛かる?」

「三十分程で出れる」

「らしいがジャック時間の方は大丈夫か?」

「どうだろうね? どう思う? マリアちゃん達は今頃首の一部を吹き飛ばされてもがき苦しんでいると思うかい? それとものんびりと昼寝でもしていると思うかい?」

「もし首の爆弾が爆発していなかったとしても昼寝はしていないだろうよ、今頃アーリンとカタリナに囲まれて震えてるんじゃないか? そして俺はアイツ等は今頃震えていると思っている」

「ふーん、つまり君はあの爆弾がまだ爆発していないと考えるんだね?」

「そりゃそうだ。あいつ等はお前にとって大事な生命線なんだからな、そう簡単に殺すとは思えない」

「クククッまぁ確かにね、あの子達に死なれては困るけど……でもどうかな? 私は気まぐれさ」

「いや、お前は殺さないさ、俺の予想じゃあの首輪のタイマー絶対に爆発する事は無い程の長さに設定しているかタイマー等最初から設定しておらず今あの首輪は電源がオフにされているか……どっちかだ」


 そのジョンの推理を黙って聞いているジャック

 ジャックは楽しそうにジョンの話を聞いている


「そう思っているなら私を拘束なり殺すなりすれば良かったじゃないか、あの爆弾の解除は神様にでも任せれば良い、違う? 何でそうしなかったの?」

「お前分かってるだろ? 俺が”今”お前を殺さない理由を」


 ジョンがジャックを殺さなかったのはマリア達の首輪が理由では無かったのだ。そしてその理由をジャックは知っている


「”ただでは殺さない”でしょ? 今此処で私を殺してしまったら復讐として不十分だと君は考えている、違うかな?」

「大正解だ。こんな事で殺して堪るかよ、苦渋を限界まで飲み込ませてから殺してやる」

「クククッ楽しみにしてるよジョン」


 ジャックは実に楽しそうにしている

 それとは逆にライラは不愉快極まりないさそうにしている

 そんなライラが急に立ち止まる


「どうした? ライラ?」

「もういい……外には貴方達だけで行って」


 姉の死を伝えられ外に出る気力も失ってしまったライラ


「ジョン姉さんをありがとう、もういいよ、私に渡して」


 そう言ってジョンに両手を差し出すライラ


「嫌だ」


 ジョンは偏屈者、簡単には人の言う事は聞かないのだ。


 「早く返してよ! 何で返そうとしないの!?」

「俺が嫌だからだ。それ以外の理由がいるか?」

「何を言っているのよ! 訳が分からないわ!」

「だろうな、だがお前の理解なぞ必要としていない」


 そう言ってジョンはローラを担いだまま先に進もうとする

 しかしそれを許さないライラ、ジョンが担いでいるローラの服を掴みジョンを止めようとするがジョンはそれを無視し先に進もうとする、その結果ローラの服の一部が破ける


「ま、待って!」

「嫌だね」


 ジョンは立ち止まりライラの方へと振り返る


「止めたきゃ俺を殺して見せな、そうでなきゃ止まらねぇぞ」

「は!? 訳わかんない事言わないでよ!」


 ジョンが懐からナイフを取り出す。

 それをライラの足元へ投げる


「どうする? 殺るか……退くか」

「本気で言っているの? どうにかしているわ、貴方」

「何でも良い、選べ」


 ライラは少し考えた末、ナイフを拾い上げる

 しかしライラはジョンを殺すつもりなど毛頭ない、ちょっとした脅しのつもりでナイフを拾ったのだ。


「なるほど、そっちを選んだか」

「お姉ちゃんを返して!」

「言っただろ? 返して欲しければ言葉は無用、行動で示せ」


 ナイフを持ったライラがジョンに近付く、そんな様子をつまらなそうに眺めるジャック、まだ眠っているエルとメイヴィスを背に乗せたラライクは困惑の表情を浮かべている


「彼等は大丈夫なのか?」


 とラライクがジャックに尋ねる


「さぁね、知らないよ」


 とジャックが冷たく返した時には既にライラはジョンのすぐ目の前まで迫っていたがジョンは余裕の表情を浮かべている、それが気に喰わないライラはジョンに向かってナイフで斬るかの様にフェイントするがジョンには通用しなかった様で表情がピクリとも動かない


「お前は素人なんだからフェイントなんかしても無駄だぜ? 下手過ぎてすぐにバレる」

「も、もうどうなっても知らないわよ!」


 ライラはジョンを刺すつもりでジョンに向かってナイフを突く

 だがその突き、ジョンの左手によって簡単に受け止められてしまう


「!?」

「これで実力差が分かったか? 今のお前じゃ俺には勝てないって事だ。お前は俺に命令出来る立場じゃない、姉を返せ? 無理だね」

「……」

「姉が本当に死んでいてショックだったか? だがそんな事俺には関係無い、お前がどんなにショックを受けていても知らねぇ、どうでもいい

 だがな、契約はキッチリと守らせて貰うぜ、お前とお前の姉を外の世界に連れて行く、必ずな」


 その言葉とジョンの表情を見てライラは呆れてしまう、この人は本当に何を言っているの……? もう馬鹿らしくなって来た……と内心呟くライラ


「もう勝手にしてよ……」


 全てを諦めたライラはそう言い終えるとライラは通路を引き返し走り出す。死ぬために


「あ~あ、行っちゃったよ、どうするんだい? ジョン? まさか追いかけるなんて言わないよね?」

「いや、そのまさかさ、俺はあの女を追う、お前等は勝手にしな」


 そう言いジョンもライラを追って暗闇に消える


「……嘘でしょ? 冗談も程々にしてよ……」

「どうするんだ?」

「いいよ、私達だけでも脱出しよう、勝手にしろとあの男も言っていたしね」












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