第7話 魔法の取り扱い

 次の日、空は雲一つ無い晴天である、そんな青々した空を窓から眺めながらナイフの整備をするジョン

 窓からは上は空、下は訓練場が見える

 誰かがジョンの部屋の前に来たようでジョンが


「誰だ?」


 と言うが応答が無い


「答える気無しか? じゃあ推理しよう、子供じゃ無いそれなりに身体の大きい人物、で無言、ローラ、ナサル、ジークなら何か喋るはず、俺に話し掛けづらい桃毛天才系女子と言えばそうだな……エルだな、何の用だ?」


 扉が開きジョンの言った通りそこにエルが立っていた。


「扉を開けたんだ。何か言ったらどうだ?」


 エルはそこに立ってるだけ、よく見れば頬は赤く、目も充血している


「おいおい、まさかずっと泣いてたのか?」


 無言のまま、ジョンの前まで寄って来るエル、潤んだ目でジョンを見つめる


「教えて……」

「何を?」

「剣を教えて!」


 唖然とするジョン


「何だそれ本気で言ってる?」

「ボクは本気だよ、いや……です」


 昨日までのエルとは違いしおらしい


「お前も人殺しを生業としてるなら分かるだろ、自分の技術を他人に教えるのは、自分の首にナイフを徐々に刺していくのと同等の行いだ、昨日今日会ったばかりの奴に教えるかよ」


 エルはそれを聞くと黙り俯く


「責任……取って下さいよ」

「何の責任だよ、全く」

「ボクを傷物にした責任ですよ!」

「なんだよあの程度の事で傷物だのなんだのって大袈裟な」

「何言われても聞きませんからね、先生に教えて貰うまで先生から離れませんから」

「キモいぞ」


 食事もエルと一緒に取る事になった。


「それで? この屋敷に勤務し始めてどのくらいなんだ?」

「一年ぐらいです」

「一番長いのは誰なの?」

「隊長とナサル先輩です」

「バーングって奴が何処に居るか分かるか?」

「二階の右一番奥の部屋にいます……で、でも勝手に行っちゃ駄目なんですからね! 絶対ですよ!」


(こいつはいいな、何でも答えてくれる、内容によっちゃ弟子の件受けてもいいかもな)


「魔法について聞きたい事がある」

「なんですか?」

「この屋敷に会話を盗聴出来る魔法使いは何人いる?」


 ジョンはパンを千切る


「詳しくは分かりませんが副隊長は使える筈です。でも、条件付きみたいですが」

「何時もこの屋敷中を盗聴してる訳じゃないのか」


 ジョンはスープを飲む


「そんな事してたら魔力切れちゃいますよ」

「盗聴はそんな魔力とやらを使うのか?」

「うん、どんな仕組みかは知りませんが相当複雑な魔法のはずですから」

「そうか、じゃあ今盗聴されてるか分かるか?」


 エルはキョロキョロと部屋を視回す。


「魔力は感じませんからされてないと思いますよ」

「されてたら弟子の話は無しだぞ」

「え! いいんですか!?」

「だが取引だ。俺はお前に技を教える、お前は俺が聞いた事全て正直に話せ、俺の命令は必ず聞け」

「知ってる事なら教えます! 命令も聞きます!!」


(騎士様がそんな簡単に忠義を捨てても良いもんなのか?)


 複雑な気分になるジョン 


「じゃあ、それで取引成立だ」

「じゃあ早速ご飯食べたら修業しましょう!」

「その前に非常に面倒で死にたくなるがマリアお嬢様を部屋前まで御迎いに行かなきゃならない」

「えぇ~じゃあその後に」

「多分、マリアお嬢様が許さない遊べと言われるだろうよ、残念ながらな」

「えぇ~じゃあ何時出来るんですか」

「マリアお嬢様に相談して決めるしかないな、あの頑固お姫様が言うことを聞くと良いがな」


 ジョンはスープを飲み干し、マリアお嬢様の御迎いに向かうジョンの後をつけるエル

 二階でナサルと合流し三階に向かう、三階にはマリアの両親のワルクルス夫婦の部屋、ネルヒムの部屋、マリアの部屋等が並んでいる

 ナサルがマリアの部屋の扉をノックする


「お嬢様、ご朝食の時間です、ご支度を」


 と言い隣の部屋に向かうナサルそれについて行く二人


「これを毎日?」

「あぁ、そうだ」

「よく気が狂わないな」


 マリアと同じ様に部屋をノックし朝食が出来た事を伝えるナサル、そして階段前にて待つ


「そういえば朝食は誰が作ってるんだ? 俺達のは作り置きだったがマリアお嬢様達のは違うんだろ?」

「昨日会わなかったのか? コックのバーグ・カルルントが作ってる」

「調理場では会わなかったが何処に居るんだ?」

「三階の調理場だバーグが居るのは、一階の調理場は私達や使用人用の調理場だ」

「うわ、格差感じちまうな、差別反対!」

「五月蠅いぞ」


 まず最初に支度が済んだのがワルクルス夫人


「おはよう、ナサル、エルそれに……あぁ! 貴方が新しい使用人のジョン君?」

「えぇ、よろしくお願いします。」


 深々とお辞儀をするジョン


「宜しく、私はリリ・ワルクルス色々娘が迷惑を掛けると思うけどお願いね」

「はい」


 次にマリア


「お早う御座います。お母様」

「おはよう、マリア、ジョン君に迷惑を掛けていませんよね?」

「はい、大丈夫です」

「そう、分かったわ」


(分かっちゃったのかよ)


 最後にネルヒム


「お早う御座います、リリ様、マリアちゃん」

「おはよう、巫女様」

「……おはよう」


 笑顔の二人とは裏腹にマリアは不機嫌そうに挨拶を返す。


「おはよう、ナサルにエルそれに……ジ、ジョン君どうして?」

「おはよう御座います巫女様、光栄な事に今日からここで働かさせて貰ってます。ジョンです」


 と言いジョンは右手をネルヒムに差し出す。それに応えるネルヒム


「よ、よろしくね」


 精一杯の笑顔をジョンに向ける、それを尻目にニヤリと笑うマリア


「食堂に向かいましょう」


 とリリが提案したのでそれに従い六人は三階にある食堂に向かう


「今日のご飯は何かしら?」

「朝は鹿の肉のシチューらしいですよ」

「まぁ素敵」


 朝食を終えるまで奴隷三人は食堂で貴族三人の食事風景を眺めているだけ、食堂は大きなテーブルが置いてあり、椅子が七個置いてある

 朝食を終える貴族三人、そこでマリアが早速口を開く


「ナサルにジョン行きましょ」

「マリア、周りに迷惑を掛けてはいけませんよ」

「はい」


 マリアと三人の僕が食堂を出る


「あら? エルも来るの?」

「はい、よろしくお願いします~」

「まぁいいわ、じゃあ訓練場に行くわよ」

「マリアお嬢様、鬼ごっこでもするんですか?」

「違うわよ、今日は魔法の稽古があるの」

「誰に教えて貰うんですか?」

「ナサルよ」

「へぇ~成程ねぇ、じゃあその隣でエルと剣の稽古をしても構いませんかね?」

「お前も稽古するの? まぁいいわ、私の邪魔にならない様にね」

「はい、気を付けます~」


 そういう事で午前の魔法の稽古が始まる


「お嬢様、いいですか? まず前に教えた通り杖を無闇に人や動物に向けてはいけません」

「分かってるわよ」

「特にお嬢様の魔法は相手の精神を撹乱させたり記憶を消してしまったり出来るのですから下手な火炎魔法より危険です」

「それも聞いたわよ」

「マリアお嬢様そんな事が出来るのですか?」


 ジョンが驚きマリアに聞く


「そうよ、すごいでしょ」

「ひぇ……エルお前もまさか出来るのか?」

「ボクは出来ませんよ、ボクは水属性の魔法しか扱えません」

「コラ! エル、人に容易く自分の魔法属性を教えるな!」

「ふーんだ、人の勝手ですよ~だ」


 エルがナサルに向けてベーと舌を出す


「なんだ? 魔法属性というのは一人一属性なのか?」


「そうですよ、水なら水、精神なら精神、生まれ付き持った自分の一属性しか基本扱えませんよ、術式を使えば別ですけど」


「つまりマリアは精神属性の魔法しか使えず、お前も水魔法しか使えないって訳だな……で? その術式とやらは何だ?」


「そうですねぇ、魔法陣とも呼ばれるんですけど何でもいいですからまず何か書ける物と書く物を用意してそれからそれに円を書きます。そして円の空白に何か模様を書くんですよ。その模様に応じて炎を扱えたり水を扱えたり出来るって訳です」


「ふーん、分かれば誰でも書けるのか?」


「いいえ、それがすっごく難しいんです。なんせ円も本当まん丸じゃなきゃいけませんし模様も一寸の狂いも無く正確に書かなければ術式は作用しません、ついで言って置くとボクは書けません、バーング先輩なら書けるでしょうけど」


「一寸の狂いも無くと言っていたがそれは一寸の狂いも無い元があるということだよな? それは何だ? 誰が書く?」


「魔術師には人の魔法属性を解析し術式を探しだすのを生業としている人達がいるんですよ」

「術式を探しだす?」


「魔法を扱う時、人は無意識の内に自分の頭の中に術式を描くらしいんです。それを利用して魔術師達に魔法を使わせてその間に専門の魔術師がその魔術師の頭にダイブして術式を盗み見るそして忘れない内にそれを紙か何かに書き留めるって話らしいです」


「じゃあどんな魔法も全員、使える訳か」


「そう簡単でも無いんですよ。例えば”炎を出して相手に飛ばす”ってだけの魔法でも術式に直すと相当の大きさの術式になるみたいで時間も場所も取るし実用的では無いんですよねぇ、炎を出すだけの術式を書く時慣れた術式者でも半日ぐらい時間が掛かるらしいですから」


「そんな非実用的な術式はどんな時に使うんだ?」


「主に防御属性の魔法を使う時に使われます。例えばよく都市を囲ってる結界に入ってる限り魔法を扱えなくなる、魔法除去結界とか優秀な防御魔術師が複数人いなくても魔力さえあれば扱える訳ですからね、そんな時に術式は役に立ちます。ついでに言って置くとそういう極大術式を扱う時は人間が魔力提供するんじゃなくてブルークリスタルから魔力を抽出して使うんです」


「ブルークリスタル?」


「簡単に言うと魔力の結晶ですね」


「どこで手に入るんだ?」


「まぁだいたい、神様から提供される物を使います。神様の居る洞窟なんかは神様の魔力に反応して回りの岩とかクリスタル化しちゃうんですよ」


「そりゃ凄いね」


「まぁ実際すごい事ですよ、実際あんな大きな術式を発動できちゃうんですから」


「へぇ~さぞ大きな術式になるんだろうな」


「はい、だから都市の地下に大きな穴を作りそこに術式を描くんです。そしてそこは城と同じぐらい厳重に警備されます」


「ふーん、魔法除去ねぇ、あの山に掛かってる結界もそれで消せたりしない?」


「人間が扱う魔法じゃまず無理なんじゃないですか?」


「あぁそうかい、まぁ最初から分かってたがな」


(そう簡単じゃ無いか)


「魔法の事何も知らないんですね」

「そりゃそうだ、なんせ俺の周りじゃ魔法は使われてなかったからな」

「へぇ~今時珍しい所で住んでたんですね、それより! 早く稽古を始めて下さいよ!」

「へいへい」


(先は長そうだな、トホホ)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る