第6話 マリアお嬢様

 赤い絨毯が引かれた屋敷の廊下を歩く三人


(こりゃ不味い流れだな、このままじゃ本当にこの女の下僕にされる、そりゃ御免だぜ……)


「なぁお嬢ちゃん……」


 ジョンの足を思いっきり蹴るマリア


「痛で!」

「マ・リ・アお嬢様でしょ? 教育が必要な様ね」


(糞! マジかよ、泣ける)


「あぁ、それで? マ・リ・アお嬢様はどうして俺を下僕にしようと思ったんだ?」

「教育の甲斐がありそうな下僕ね、フン、まぁいいわ教えて上げる貴方を此処に置いてたらきっとまたネルヒムが泣く姿を見れるわ」

「だから俺を下僕に?」

「何時でも泣かせられる様にね」


(分かってはいたがこいつは性格が悪いぞ)


「お嬢様、そんな事仰ってはいけませんよ」

「ふん」

「それで何をするんです?」


 ジョンが質問をする


「そうねぇ、ネルヒムは泣いているし……そうだ! かくれんぼしましょ、お前が鬼ね」


 とジョンを指差す


「隠れる方が好きなんですけど」

「主人に口答するの?」

「いいや滅相も無い」

「それじゃあ二十数えなさいよ、範囲はこの屋敷の敷地だけよ」


 と言い残し逃げるマリア


「アンタは行かなくていいのか?」

「うん、まぁ忠告をして置こうと思って」

「分かってる、簡単には見つけちゃいけないんだろ?」

「嫌、かくれんぼの事じゃなくてあの子の事」

「マリアお嬢様の事? 多少性格が悪い事以外に何か問題があるのか?」

「確かに少し問題はあるけど悪い子じゃないよ」

「都合の良い言い方だな」

「問題なのはあの子の両親の事、あの子の前で基本両親の話はしちゃいけないよ」

「さっきの話を聞いていてそれは何となく分かってたさ」

「それと君の事信用出来ないなんて言って御免ね」

「謝るなよ、これからも不審者扱いをされるんだろ?」

「まぁそれはね? 分かってよ」

「別に一切気にして無い」

「次にかくれんぼの事だけど、君が言った様にすぐに見つけると不機嫌になるよ」

「ふぅん」

「あと遅すぎても、手を抜いたとバレて怒られるし見つける前と後のリアクションもちゃんとしないとワザとらしいって言われて怒られるよ」

「面倒臭すぎないか? どれくらいの時間で見つけるのがベストなんだ?」

「それは私もよく分からないな、ナサルなら良く知ってると思うけど」

「へぇ、普段あの黒髪が子供達の面倒を?」

「うん、巫女様とお嬢様、たまに村の子達とも遊んでるね」

「子供好きって訳だ」

「うん」

「それじゃ、あの子の面倒を見る事になるならナサルに話を聞いてみた方が良さそうだな」

「そうだね、実際そうなるかは分からないけど、もしなるとなったらナサルと一緒に面倒を見て貰う事になるから仲良くしてね」

「もう既に仲悪くなってそうだがな」

「まぁ殴り合わなきゃいいよ、それじゃあそろそろ私も隠れるね、もしやってないと分かったら何言われるか分からないからね」


 と言いローラも何処かへと消える、誰も居ない廊下で


「はぁ」


 と一人溜息を吐くジョン


 そしてかくれんぼを再開するジョン

 ジョンがかくれんぼで最初に捜すのはローラでもマリアでも無くナサル、彼女にマリアとのかくれんぼの極意について教えて貰おうと捜し始める

 取り敢えず客間に戻ってみるジョン、そこにはまだジークが居た。


「やぁ、お嬢様とのひと時を楽しんでるかな?」

「まぁそりゃ当たり前として今ナサルが何処に居るか知ってるか?」

「ナサル? 一体どうしたんだ? 嫌、何となく分かった。ズバリかくれんぼだろ?」

「よく分かったな」

「鬼ごっこなら訓練場でやるだろうしね、ナサルなら二階の廊下にいる筈だ。もっと言うと廊下の何処かの扉の前」

「情報を有難う」

「気にせず、私の屍を越えて行くのだ。ジョン」


 と片手に木製のコップを持ったジークが言う

 客間を後にして二階に行くべく廊下を探し見つけ上がり廊下に出る、そしてとある扉の横で腕を組みながら壁に立ちながら凭れ掛かっているナサルを発見するジョン


「よぉ、元気?」

「ん? あぁ、ジョンか……」

「おいおい、嫌な顔をするなよ」

「そんな顔はしていない」

「そうか? まぁいい、それより俺がマリアお嬢様の御付きになるかもしれないって話は聞いたか?」

「何!?」

 さっきまで無表情だったナサルが驚きを見せ腕組を崩し壁から離れジョンに向かい合う


「聞いてなかったみたいだな」

「どういう事だ!」

「俺から言った訳じゃない、彼女から俺を下僕にしたいと言い出したんだ」

「君がそんな事出来る訳無いじゃないか!」

「やっぱそう思う? 一応聞いて置こうか、理由は? 何故俺は彼女の下僕になれない?」

「君は既に二人の人を不必要に泣かしている、ネルヒム様に関しては素直に君が頭を撫でてれば良かったのだ」

「あぁ、そう、でもエルに関しては仕方ないだろ?」

「あの実力差なら他にどうにでも出来ただろう!」


 扉の向こうでむせび泣く女性の声が突然起こり、ナサルがしまったと口に手を当てる


「今のを聞いて余計悲しい思いをしたみたいだな」

「場所を移そう」


 そう言ってナサルとジョンは一階に下り客間に向かう、客間には既にジークの姿は無かった。


「兎に角そんな事、私は認めない」

「お前にはそんな決定権無いだろ、決めるのはマリアお嬢様のご両親だ。隊長も副隊長ももう諦めてる」


 顔を俯かせるナサル、それを見てジョンが言う


「成程ね、お前もうあの二人の親代わりにでもなったつもりなんだろ? だから「私は認めない」なんて言葉が飛び出したんだ」

「そんなつもりは無い」

「いや、あるね、間違い無くお前はあの子等に特別な感情を持っている、まぁこの話はここまでにしよう、そんな事を聞きに来たんじゃ無い」


 ナサルは納得行かないと言った顔だが諦め


「何の用なんだ?」

「マリアお嬢様からかくれんぼのお誘いを受けてな、だからどの位のタイミングで見つければいいのかという事さ、適当に相手して何か言われたんじゃたまったもんじゃないからな」

「……お嬢様の気分と隠れた場所に寄る」

「気分が分かるが隠れ場所?」

「あぁ、お嬢様にはここならバレ難い、易いといった隠れ場所の基準がある」

「成程、見つけ易い所なら短い時間で、バレ難い長い時間で見つけろって訳だな」

「そうだ」

「ふぅーん、疑問だなぁ」

「何がだ?」

「何で見つかり易い所に隠れるんだ? 普通見つからない或いは難い所に隠れようとするのが自然だろ?」

「お嬢様は少々問題はあるが、根は優しさで出来ている、この屋敷で初めてかくれんぼをする人には易しい所に隠れてくれるんだ」

「ただ初心者相手に見つかり難い場所に隠れてゲームにならない事を恐れてそうしてるだけじゃないか?」

「違う、お嬢様を見ていればよく分かる、お嬢様は少しひねてるだけなんだ。本当は慈悲深い女性だよ」

「ママの言う事ならそうかもな」


 ジョンを睨むナサル


「睨むなよビビり過ぎて漏らしちまうだろ、あと一ついいか? マリアお嬢様ってのは何者なんだ? この屋敷は巫女の為に建てられた物じゃないのか?」

「ここの地域の領主様の屋敷だ。ここは」

「マリアお嬢様はその領主様の娘って訳か」

「そうだ」

「ふーん」

「そろそろお嬢様を探した方がいいんじゃないか?」

「あぁ、不味い! 探して来る」


 ジョンは客間を出て行く

 だが時すでに遅し

 不機嫌に腕を組み赤い廊下を歩く栗毛の少女、その隣にはジョンが居る


「最低よ! お前、私達を探すでもなく何をしていたの!?」

「トイレを探してたんですよ、なかなか見つからなくて」


 ナサルに言われ客間を出たジョンだがその後すぐ隠れるのに痺れを切らしたマリアがジョンを発見し、説教を始めたのだ。


「嘘おっしゃい」

「まぁそう言わないでくださいよ、マリアお嬢様」


 ふんと鼻を鳴らしソッポを向くマリア


「そう怒らずに」


 と言ったのはローラ、マリアの怒鳴り声を聞きつけて出て来たのだ。


「これが怒らずにいられる!? まったくもう!」


 その後も鬼ごっこからおままごとまで続き、日が暮れる


「お嬢様そろそろご夕飯にしましょう」

「そうね、お前後は片付けて置いて」


 とジョンを指し、マリアは屋敷へと走って行く


「今日はお疲れ様、どうかな? 続けられそう?」

「三日ぐらいで胃に穴が開くかもしれない位だな問題なのは」

「ははは、まぁ今日は私だったけど明日からはナサルが私の代わりになるから多少楽にはなると思うよ」

「明日から彼女の周りで働く事は決定なのか? 両親の許可はどうした?」

「あの子の母親からはもう許可を取ったよ、後は父親だけど、今都市の方に居て帰って来るのが明日だからその時取るよ」

「そんなアバウトなやり方で問題にならないのか? 勝手に執事なんかになってその父親から説教なんて御免だぞ」

「されるとしても私達だから大丈夫だよ」

「ふーん」

「夕飯食べたら、ジョン君の部屋に案内するから、待っててね」

「何処で夕飯を食べるんだ?」

「基本私達は食堂で食事しちゃいけないよ、私達は客間で食べる事になってるよ、まぁでも皆各々の部屋で食べる事が多いけど」

「騎士隊は仲悪いのか?」

「悪い訳じゃないけど、まぁ一緒に食事をする程じゃないってだけだよ」


(それは結構悪いって事じゃないか?)


「ここのご飯は美味しいの?」

「美味しいよ、今日の献立はカブと玉葱のスープとパンだよ」

「ここら辺の奴等はカブと玉葱のスープしか飲まないのか?」


 食事を客間で取るジョンだが、ジョン以外人は居らず静かな食事風景が進むのみ、そうして食事が終わりローラを待つジョン

 暫くすると客間にローラが現れ、ジョンの部屋に案内する、部屋は一階の角部屋

 部屋にはベットに机と椅子のみ置かれている、案内が終わるとローラは部屋を出て行った。

 ジョンもローラが消えたのを確認すると部屋を出る、そして屋敷の探索を始める

 一階をグルッと回る、一階には大きな台所があり客間それに使用人用の部屋が何部屋かある、それと物置用の部屋もある

 二階から上には行かないように言われているが行ってみるジョンしかし二階に上がった所にナサルが仁王立ちしてジョンを待ち構えていた。


「何をしている?」

「実は俺は階段愛好家でな、俺の欲望を掻き乱すこの魅力的な階段の様子を伺ってたんだ」

「嘘を付け、戻れ」

「分かった分かった、聞きたい事あるんだがいいか?」

「……なんだ?」

「バーングって奴は何処に居る?」


 ジョンに対するナサルの目付きがキツくなる


「何処でその名を聞いた?」

「ミランダから聞いた。彼女は魔法に詳しいらしいからな魔法について聞きたい事があるんだ」

「だったら残念だったな彼女は今、研究に没頭していてな部屋に籠って出て来ない、暫く私も彼女の姿を見ていない」

「もしかして研究に没頭している時は何言っても聞かないタイプ?」

「その通りよく分かったな」

「ふぅん、分かった。今日は諦めよう」


 と言いジョンは階段を引き返す。

 今日は取り敢えず休む事に決め、明日に備える

 ベットには横にならず椅子に座り眠る、これは彼の習慣、彼は横になって眠れない




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