5 初めてのクエスト
「えっと……ここでいいのかな?」
私達はクエスト用に手渡された地図を元に薬草が取れるという林までやって来ていた。
林は帝都からすぐ近くのところにあり、幸い道中ではモンスターに遭遇することはなかった。
「いいんじゃないか? よし、じゃあちゃっちゃと薬草回収しちゃおうぜ」
茉莉が言う。
「そうだねー。ささっとやってささっと帰ろう!」
それにユミナも同調する。
私と怜子はそれに頷き、薬草を集め始める。
「うーん……これかな?」
怜子が近くにあった草を採取する。
絵と照らし合わせると、どうやらそれで合っているようだ。
「うん、それだと思うよ。じゃあこれを指定数集めようか」
薬草は案外そこら中に生えており、それを採取し始める。
そうしていると、指定数はあっという間に集まったのだが、多く持っておくと報酬にプラスが入るようだったので、更に集める。
そうしてサクサクとみんなで薬草を集めているそんなときだった。
――ガサ……。
林の奥から何かが来る音がした。
「みんな……」
私は全員の手を止めさせる。そして、その奥を見る。
そこから来たのは――
「キシャアアアアアッ!」
「みんな気をつけて! ゴブリンだよっ!」
林の奥から、ゴブリンが何匹も飛び出してきたのだ。
私達は臨戦態勢を取る。
そうして、私達の初戦闘が始まった。
「シャアアアアアアッ!」
「く、くうっ!」
飛びかかってくる一匹のゴブリン。
それを、茉莉が盾で弾く。
「シャアっ!?」
がごん! という大きな音を立てて、ゴブリンは大きく姿勢を崩した。
「おっ、おお! できるもんだなっ!」
「う、うちだって! せいっ!」
そして、弾かれ態勢を崩したゴブリンを、ユミナが追撃する。若干のためらいはあったが、その動きは素早かった。
「ギャアッ!?」
ユミナの剣が、ゴブリンの胸を突く。すると、ゴブリンは小さな悲鳴を上げ絶命した。
「お、おおっ!? で、できたよ! 倒せたよ! 愛依っち!」
「うん! よくやった! この調子で行こう!」
私はゴブリンを倒したユミナを褒め、みんなを激励する。
ゴブリンはまだまだいる。気を引き締めないと。
「キィシャアアアアアアッ!」
「こ……こないで! ファイアっ!」
更に飛びかかってくるゴブリンに対し、怜子が魔法で炎を飛ばす。
すると、火球がまっすぐゴブリンに飛んでいって、ゴブリンの体を炎が包み込んだ。
「ギシャアッ!?」
そしてゴブリンは真っ黒になり、地面にバタリと倒れる。
「や、やれた……」
「グギイイイイイイイイッ!」
「シャアアアアアアアアッ!」
仲間が倒れたにも関わらず、どんどんとゴブリンは飛びかかってくる。
こいつらに恐れというものはないの……!?
「くっ、プロテクトッ!」
私はそんなゴブリンからみんなを守るために、障壁を生み出す魔法を唱える。
すると、白い輝きがみんなを包み込んだ後、みんなの体は鋼鉄のように固くなり、ゴブリンの攻撃を何もせずに弾いた。
「ありがと! 愛依っち!」
「ありがとう……!」
「お礼は後で! まだまだ来るよっ!」
先程襲いかかってきたゴブリン以外にも、ゴブリンの数はまだいた。
一、二、三……総計すれば十匹はいるだろうか。
私達はそのゴブリンを恐怖が混じりつつも鋭い視線で睨みつけ、戦いを挑む。
これからこれが私達の仕事になるんだ、やらないと……!
「はあああああああああっ!」
「だああああああああああああっ!」
ユミナと茉莉がゴブリンの群れに突っ込んでいく。
「怜子! 援護しよう!」
「う、うんっ!」
その後方から、私達魔法系が二人で援護する。
ゴブリンとの戦いはそうして続いてき……そうして、だいたい二十分ほど戦ったろうか。
「これで……最後っ!」
残る一匹を、ユミナが斬り倒す。
「グギャァ……!」
ゴブリンは断末魔を上げながら、ゆっくりと地面に倒れる。
「……やった、のかな?」
「なのか……?」
前衛のユミナと茉莉が疑問形で問う。
「うん……大丈夫みたい」
後衛で怜子と共に援護していた私は、他にゴブリンがいないのを確認して言う。
「勝った……勝ったよ、勝った……!」
怜子が勝利の声に震える。
そうして、私達はゴブリンの群れに勝利した。
「やった……!」
私達はそれを確認すると、ほっとしてその場にドサっと腰を落とすのだった。
「始めてのクエストの成功、おめでとうございます!」
ゴブリンとの戦いを終え少し休憩してから、夕方に薬草を持ち帰ると、受付嬢さんが私達に称賛の言葉を投げかけてくれた。
「最初のクエストで命を落とす冒険者も多いのですが、あなた達は見事やり遂げましたね! お見事です! でも、これで慢心することなく頑張ってください。モンスターはとても危険ですからね」
「……はい」
私は受付嬢さんに少し疲れた声で応える。
一方で受付嬢さんは笑顔を崩すことなく私達に報酬を渡してきた。
袋いっぱいのお金だ。
「今回持ち帰ってもらえた薬草は大変数が多かったので、報酬にも色をつけておきました」
「あ、ありがとうございます」
「それでは、これからも我がギルドをよろしくお願いします」
受付嬢さんは最後まで笑顔を私達に向けていた。
なんというか……プロを感じた。
多分私達が失敗して命を落としたときでも笑顔を崩さなかったんだろうなぁ。
そんな失礼な考えが頭をよぎってしまうほどにはパーフェクトな笑みだった。
私達はギルドを出ると、これから拠点にするのを決めていた安宿へと行く。
そして、私達は初クエスト成功の祝杯を上げることなく、その日はみんなすんなりと部屋に入っていった。
みんな疲れて、祝い合うムードではなかったのだ。
「ふぅー……」
それは私もで、部屋に戻った後すぐさまベッドに倒れ込む。
「とりあえず、これで第一歩か……」
私は確かな一歩を踏みしめたことを感じ、ぎゅっと顔の横にあった手を握る。
そして、そのまま瞳を閉じゆっくりと眠る。
翌日から訪れる、冒険者生活のことを思いながら。
◇◆◇◆◇
それから私達は四人での冒険者生活を精一杯頑張った。
ギルドで依頼される初心者向けのクエストを次々と受け、報酬を手にしていった。
そうして冒険者として徐々にステータスアップを図るのが目的だ。
本当に色々なクエストがあった。
「臭い! 鼻が曲がる! このクエストをやりたいって言ったやつは誰だ!」
「茉莉でしょうが!」
「……アタシだった」
「責任から逃げるな」
下水道に潜むネズミの駆除に、
「……すっかり慣れたねぇ、最初はあんな手間取ってたのに」
「……そうだね。でも、やっぱり怖いものは怖い」
「うん、でも頑張ってる怜子は偉いよ」
「…………ありが、とう……」
草原に出現するゴブリンの討伐、
「重いよー! こういうのうちの仕事じゃないよー!」
「くじ引きで決まったんだしぶーたれないの。そもそも今回のクエスト受注をくじにしようって言ったのユミナじゃない」
「だってー! 刺激が欲しかったんだよぅ! 重みはいらないんだよぅ! 変わって愛依っちー!」
「だめだこりゃ」
ギルドに託された荷物を運ぶお使いのような運送任務。
などなど、例を上げればきりがないほどに様々なクエストを受けた。
私達はいくつものクエストをこなすことによってどんどんとスキルアップと知名度を獲得していった。
そうしていくと私達も慣れてくるもので、いくつかは四人で慎重に一緒に受けていたクエストだったが、いつしかほぼすべてのクエストを二人ずつグループに分けて受注することなどをするようにもなってきた。
ものによっては一人でもこなしてしまうこともあるぐらいだ。
その結果、今ではギルドのちょっとした有望株の新人として見られている……らしい。いつも酒場でクダを巻いているおじさん冒険者の言うことだから信用していいかは怪しいが。
まあいろいろとあれど、最初は大変だったがだんだんとうまくいき軌道に乗り始めている。
私はそう思っていた。
でも、そんな楽観視をしていたのは一人だけだったことを、私は思い知ることになる。
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