第7話 女嫌いの騎士―白銀の騎士―


「ハルはモテるからいいよなぁ」



 訓練用の刃抜きの剣を打ち込むと同時に同僚が軽口を叩いてきた。


 毎回かけられるいつもの揶揄やゆに舌打ちが出そうになる。


 苛立ちがつい出てしまったのだろう。俺は彼の剣を容易たやすくいなすと、体勢の崩れた同僚の足を乱暴に引っ掛けて転倒させ、彼の喉元へ剣の切っ先を突き付けた。



「ホント、ホント」

「まったく羨ましい限りだぜ」

「ああ、あやかりたいもんだ」



 まいった、まいったと両手を挙げて降参した同僚の意見に、周囲の同僚たちも混ぜ返す様に賛意を示す。


 そんなに良いものではないのだが、と俺は思う。



「ぼやくな、ぼやくな」



 訓練中のそんな戯言ざれごとを口にする騎士達を特にとがめるでもなく団長が話に割って入ってきた。



「ハルは我が国でも有数の剣の使い手として有名だからな」



 悔しかったらお前らも強くなれと団長は発破を掛けた。おそらく訓練に身を入れさせようとしたのだろう。


 だが、その団長の思惑は当てが外れた。



「騎士団で強い奴は他にもいますが、モテていると聞いた事ありませんよ?」

「やっぱり顔じゃないのか?」

「確かにハルはこの国では珍しい銀髪に、甘いマスク、男の俺でも見惚れてしまいそうな美形だからな」



 陽光にきらりと光る銀糸の髪、凪いだ湖面よりも深い青色の瞳、抜けるような白皙の顔――自分で言うのもなんだが俺の容姿はかなり人目を惹く。


 一見すると女と見紛う程だと言われた事もあった。


 まあ、騎士として鍛えた身体はかなりがっちりしているので、実際に女性と間違われたりはしないと思うが。


 そんな俺は同僚達の言う様に女性にかなりもてる。

 これは自惚れではなく、子供の時分よりやたらと異性に付き纏われた。


 そして、それは騎士になってから更に悪化している。


 俺が異性に声を掛けたり手を差し伸べたりすると、その女性から付き纏われたり、告白や贈り物をされたりするのが日常茶飯事になっていた。


 酷い時には配偶者のいる婦人に迫られて、相手の主人から苦情がきた事例もある。


 任務の聞き込みの為に声をかけた俺に、その婦人が勝手にのぼせ上がっただけなのだが、俺が誑かしたのだと凄い剣幕だった。


 このように同僚達からは羨ましがられているが俺は寧ろ迷惑しているのだ。


 最近では少し女性不信になっており、俺が異性と距離を取ろうとするのは当然の帰結ではないだろうか。


 この際はっきり言おう。

 俺は女を忌避している。



 女はやたら鬱陶うっとうしい……


 見ず知らずの者から付き纏われたり、何処へ行っても異性の視線を浴びる。

 まるで四六時中、監視をされている気分だ。


 これでは任務中でもプライベートでも気が抜けない。

 まったく気の休まる時間がないのである。


 正直、ほっといて欲しいと思うのはいけないのであろうか?



 女はとてもわずらわしい……


 俺が他の騎士達と訓練で剣を交えている時に、やたらと黄色い声を上げてうるさいし、他の騎士達からもいい顔をされない。


 なんなら、やっかみも受ける。

 実際、今の状況がそうである。


 任務でも訓練でも、女達に何かと俺は邪魔をされる。

 利益よりも圧倒的に被害が大きいのだ。


 本当に同僚達はこれが良いと思っているのであろうか?




 女はかなり面倒臭い……



 俺は騎士だから本分として民の為に働いている。

 しかし、その対象が妙齢の女の時は本当に面倒臭い。


 救助、聞き込み、時にはほんの手を差し伸べただけで、どうやって勘違いするのか自分に俺が好意を持っているのだと触れ込む者達が少なくない。


 こちらは仕事をしているだけなのに、デートを申し込まれたり、告白されたりと面倒なのだ。


 異性からの贈り物に同僚達から羨ましがられるが、よく知りもしない相手から貰った物など気持ちが悪いだけだ。



 全く、女など厄介この上ない存在でしかない……

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