春風戦争 第1部 ~ウルス戴冠~

@give0921

~卒演事件~

1章 1節 1話

星暦993年2月14日


惑星ペンシル。

琥珀銀河の中にあって、恒星ディノードを主星とするディノード系の中の

一惑星である。

有人惑星としては一般的な惑星であり、特筆するほどの星ではなかったが、

一部の人たちにとっては有名な惑星であった。

一部と言うのは主に軍事関係者や軍事マニアであり、

この星が毎年、士官学校高等部の卒業演習に使われることで、

ペンシル演習場の名と共に広まっている。

星暦993年のこの年も、例年に習ってこの地で卒業演習が行われていた。

演習が行われるコンパック地方では、花火が打ち上げられたような

爆音が至るところで聞こえてくる。

砲弾の爆発音だった。


琥珀銀河の10分の3を占める領土を持つスノートール王国の王太子

ウルスは、士官学校高等部の卒業演習に挑んでいた。

王族の、ましてや王太子が士官学校に通うのは前代未聞であり、

国民の一部、特に愛国心が強い層には注目されている。


「いや、これは凄いな。第3砲撃隊は。

初弾から3発以内で目標を捕らえているんじゃないか?」


ウルスの言葉に、近くにいた同じ学年の一人が反応する。


「ガル隊ですね。初弾からほぼ2発目で的中させていますよ。」


手に持つボード型の携帯パソコンを覗きながら言った。

指でフリックしながらデータを見る。

ページをめくりながら驚愕しているようである。


「流石に、ウルスと学年主席を3年間競った男ってところか。」


2人の会話に新たな学生が入ってきた。

その学生を見ながらウルスは苦笑する。


「その言い方だと、まるで僕が同じ事を出来るように聞こえるね。

僕には無理だよ。あんな芸当。」


それは謙遜ではない。

この卒演では、最新機器と旧式の前時代的な兵器を織り交ぜて

惑星ペンシルの山岳地帯に作られた敵防衛陣を突破するミッションが

儲けられている。

そのため、ミサイルなどの近代的な兵器は使用不可で、

もちろん自動追尾系の計器類も使用できない。

基本は視認で、目標を観測し位置を調整しながら

砲弾を飛ばすといった古い戦闘スタイルでミッションをクリアする必要があった。

ウルスが芸当と呼んだのも、ガル隊が初弾で着弾位置と敵との位置のずれを確認し、

修正することで2発目・3発目で

確実に敵に命中させているという事実を指している。

それは熟練の兵士でも難しい神業と言ってよく、誰にでも出来る事ではなかった。


「あいつの目には、計測ソフトでも組み込まれてるのかも知れないな。」


男は笑う。もちろんそんな事はない。


「砲撃部隊にガルを配置したのは君だっけ?ゲイリ。

彼を砲撃隊に配置するのはもったいないと思ったんだけど、

この成果を見ると正解なのかな?」


ウルスはテーブル上の作戦図を見た。

コンロー山岳地帯を3方から攻略する作戦であり、ウルスは

中央部隊を率いている。

学年主席であるウルスが中央部隊の司令官であるのは当然であったが、

学年2位のガルを、右翼や左翼の司令官ではなく、

同じ中央部隊の、しかも更に一砲撃部隊の隊長に配置するのは

違和感があった。


「あいつは、実働部隊向きなのさ。

なんでも出来る奴だからな。」


ゲイリと呼ばれた彼はそう答える。

人の良さそうな優しい顔立ちではあるが、その言葉は辛辣だった。

学年2位の成績の彼を、実働部隊向きという。

それは暗に司令官、つまりはリーダー向きではないと断言していたからだった。

その辛辣さに気付いたウルスであったが、彼はその言葉を流す。


今回の卒演の作戦立案を計画したのはゲイリである。

彼は全体の成績は中の上であったが、

戦略科での成績だけはトップであり、模擬シミュレーションでも

ウルスやガルを何度も破っていた。

そのため、司令部の参謀役として今回の卒演に配置されていたのであったが、

総司令官に配置されたウルスとしても、彼の能力を全体的に信頼し、

ほぼ彼の計画を丸呑みしている。

通常であれば、ガルのポジションはウルスの隣か、

右翼か左翼の司令官であるはずであったが、

ゲイリの言を受け入れたのである。

そしてその配置は成功している。

中央部隊は順調に各拠点を制圧していたが、その一番の要因は、

ガル隊の成果が大きい。

副官や右翼左翼の司令官には配置されなかったが、

流石ガル!と評価を上げることに繋がっていた。


「しかし、ちょっと突出しすぎてるな。

右翼や左翼の進軍スピードが追いついてきていない。

B38を攻略したら、前線部隊を交代させて休ませようか。」


ゲイリが言うと、ウルスは再び作戦図を見る。

彼が言うように、中央部隊の進軍スピードは

想定よりかなり早く、右翼や左翼と連動しているとは言い難かった。

ましてやB38地点とは、前年の卒業生が攻略できなかった

この卒業演習でも屈指の難関とされた場所である。

ここを短時間で突破してしまうと、中央部隊だけが完全に

突出した形になってしまうのは誰の目でみてもあきらかだった。


「前線部隊!B38の攻略にかかりますっ!」


オペレータの声に、臨時の司令部に緊張感が走った。

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