第13話 堕天使の選択
「マジかよ、本当に殺されたのかよ!」
『堕天使』の呆然とした感じの言葉の文字。
「……」
俺は一言も発せられない。気持ち悪さと恐怖で頭が混乱する。侵入者をダンジョンで殺すゲーム。それだったはずだ。まさか、自分たちも殺されるゲームだとは。
(うっ……)
吐き気がこみあげてくる。たまらず俺はゴミ箱に胃袋の中身をぶちまける。恥も外聞もなく。こんなものをリアルに見れば誰でもこうなるだろう。
「ケケッ……。当然ぞよ。殺そうとすれば、殺されるのは当然ぞよ」
「はあ……はあ……。ばある、お前……」
「お主たちはわちきに聞かなかったぞよ。冒険者どもがROOMに入ってきたら、どうなるかを。答えは今見たとおりぞよ。斬首、斬首ぞよ」
「こいつめ!」
俺は『ばある』の首を片手で掴み持ち上げる。この悪魔幼女。俺たちに重要なことを隠していた。このゲームは冒険者を殺すだけではない。ダンジョンマスターが住む部屋に侵入を許したら、こちらも死ぬゲームなのだ。
「苦しいぞよ……いいぞよか……奴ら、次のROOMに向かうぞよ」
「くっ……」
冒険者の一団は炭酸のエリアを引き返している。行き着く先は3方向の分かれ道。左に行けば堕天使。真っ直ぐに行けば俺のエリア。右に曲がれば帰還する。
(右に曲がれ……右に曲がれ……)
一つのROOMを陥落させたのだから、今日はこれで帰る可能性もある。今は混乱と恐怖で冷静な判断ができない。今日はもう帰って欲しいと俺は祈った。
だが、それは虚しいものであった。
冒険者たちの目標は、ダンジョンマスターの討伐。ただそれだけなのである。
「お、俺の方へ来る!」
堕天使の悲鳴に近い言葉。文字だが俺には伝わる。先頭の戦士は左へ曲がる。そこには迷いがない。
(昨日と同じだ……)
俺は躊躇なく左へ進んだ冒険者たちの動きに違和感を覚えた。まるで知っているみたいな動きだ。
昨日の魔法使いが踏み込んだ細い廊下エリア。両側には堕天使が40KPを使って仕掛けた矢を放つ壁がある。
「畜生め! 全部、ぶっ殺したる!」
先頭の戦士めがけて堕天使が矢の雨を降らす。しかし、先頭の戦士は二人並んで歩き、両側の壁を盾で塞ぐ。
どうやら、トラップがあることを知っているようだ。床は昨晩、ここで殺した魔法使いの血で汚れている。
死体は一晩で立つと消えるので、トラップの詳細は分からないと思われるが、床の血だけで察知されたのだろうか。
シュバシュバッ……。
矢が連射されるが、全て戦士の掲げる盾に刺さる。
4ブロックにも及ぶ堕天使自慢の『ウォール・アロー回廊』がいとも簡単に突破される。トラップは不意をついてこそ、効果がある。そこにあると分かれば対処されてしまう。
(昨日の冒険者ならともかく、こいつら、今日、このダンジョンに入ったばかりだよな。どうして知ってるのか?)
俺が今日、この冒険者たちから感じた違和感。それが確かなものになる。
こいつら、明らかに昨日の経験をものにしている。だが、堕天使は炭酸のようにダンジョンの強化を怠っていなかった。昨日に得たKPで新たなトラップを購入していたのだ。
通路を突破した冒険者たちは道なりの左へ曲がったが、そこで振動に気づく。
「これでこの先にはいけない……ふふふ……ははは……」
動く壁。通路の右から1エリア分の壁がズルズルと動き出して通路を塞いだ。これでは、この先に進むことができない。
「はははっ……お前たち、ここは行けないぞ。戻って、別のエリアへ行けよ!」
「堕天使さん、それじゃ、俺やSATOさんのところに来るじゃないか」
「すまんな、TR、SATOさん。俺は生き延びたい」
(自分さえ良ければいいのか!)
俺は堕天使の自分本位な考えに怒りを覚えた。しかし、自分が同じ立場だったらどうするだろうと考えたら、これ以上、言葉を発することはできなかった。
たぶん、俺は堕天使と同じ行動をするだろう。それは卑怯でも何でもない。あの無残に斬首された炭酸のおっさんの生首を見れば、誰だってビビってしまうだろう。どんな手を使っても生き延びたいと思うだろう。
冒険者たちはそれ以上、堕天使のダンジョンを進むことを諦めたようだ。
今の体制では突破できないとの判断だ。もう一度、分かれ道へ戻って左へ曲がる。
そこから先は俺の支配するエリアだ。
いよいよ、俺の支配するダンジョンに冒険者たちが侵入してくる。
(ついに来た……どうやって守る……)
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