第5話 悪魔幼女ばある
年回りはどうみても小学校1年生。
黒いワンピースに黒いタイツ。
髪は鮮やかなオレンジ色のショートボブ。ぴょこんとアホ毛が1本出ている。
目は幾分つり気味で、小さいのにアイシャドウをしている。
額に6の数字。そして両方のほっぺに6の数字が書かれている。
(おいおい、マジックで落書きしたのか?)
そして、何より不思議なのは小さなコウモリのような羽が背中にあって、それを小刻みに動かしているのだ。
(随分、凝ったコスプレだな……じゃない!)
「お前は、誰だと聞いている!」
「ケケッ、わちきね。わちきの名は、『ばある』」
「ばある?」
変な名前だ。それよりもこの幼女はどこから入った。こんなの部屋に連れ込んだら、高校生といえど、社会から抹殺される。
「ケケケッ、『ばある』は悪魔じゃぞよ」
「バアル? 悪魔? ああ、なんかのゲームで出てきた奴だな」
悪魔バアルは、元はメソポタミアあたりで崇拝された神様。キリスト教の伝来と共に、こういう異郷の神はみんな悪魔にされてしまった。
バアルは元々豊穣の神であったのに、キリスト教の聖典では、6万人の悪魔を率いる軍団長。
『ハレンチ』『復讐』『決断』『不穏』『高慢』等を司ると言われている。
姿はヒキガエル、クロネコ、老人を合体させたキメラみたいな絵がよくネットで見かけるが、ベルゼブブやサタンのような有名な悪魔ではないから、小説や漫画ではあまり見ない。つまり、マイナーな奴なのである。
(そして目の前にいるのは、恐ろしげな姿でなく、ちんちくりんの変な幼女)
パタパタと動かすコウモリの翼の仕組みは分からないが、どうみても悪魔には見えない。ハロウィンの仮装パーティでもあったのかと思ったが、今は7月初旬である。
「何やら、悩んでる顔をしているぞよ……ケケッ」
この幼女。語尾に時々不気味な笑いを入れる。
その時に見せる口元の小さな牙。八重歯と思ったが両側にある。マウスピースだと思うが、ここまで凝らなくてもと思う。
「悩んでなんかいない。お嬢ちゃんの名前はわかった。で、聞きたいのだが、どうしてお兄さんの部屋に来ちゃったのかな?」
「何やら、わちきを馬鹿にしておる言い方ぞよ……くくく……まあ無理もないか。お前は……我ら悪魔にとって……おっと禁句じゃったな、ケケッ」
何だか、上から目線の幼女である。しかも初対面なのに思わせぶりな口調だ。知らない男の部屋に来て怖くないのだろうか?
「バカにはしてない。それにお嬢ちゃんとは初体面だ。お嬢ちゃん、もう夜だから、おうちへ帰りなさい」
「ふん。確かにわちきはお前とは初対面。だから教えて置こう。ばあるは大人じゃ。年は1000歳を超えておるぞよ。わちきには逆らわない方がええぞよ……少年、ケケッ」
「嘘つけ!」
流石に俺も優しくすることを止めた。この上から目線幼女の両ほっぺをギュッとつまむ。泣くかもしれないが、ちょっとお灸を据えてやろうと考えたのだ。
「イタタタッ……何をする!」
「お仕置きだ」
『ばある』と名乗った幼女。パタパタと翼を速く動かす。
(おい、こいつ、浮いてるぞ!)
俺は驚いた。背中の羽はお飾りではない。
「お、お前、空飛べるのか!」
「当たり前ぞよ。わちきは悪魔ぞよ。そんなことまで忘れておるのか。ケケッ……」
俺はつねるのをやめた。冷静な判断ができたのは、あまりにもファンタジーな展開に頭が混乱しすぎたからだろう。普通なら恐ろしさで何もできないと思う。
(忘れておるかって、どういうことだ。こんな変な奴とは初対面。似たようなものも見たことはない)
そもそも人を惑わすようなことを言うのが悪魔だ。
俺はそう思い、ばあると名乗る悪魔幼女を適当にあしらうことにした。
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