Bonus Stage 吾輩はフェンリルである
其は西方の大魔獣!野生の矜持―令嬢邂逅篇―
これは大陸の4大魔獣の1柱、西方で敵なしと謳われた魔狼フェンリルである彼が、彼の引き起こしたスタンピードの処理にやって来たカレリン・アレクサンドールと邂逅し、アレクサンドールの屋敷に
吾輩は魔狼フェンリルである。名前はまだ無い。
西方の大森林のどこで生れたかとんと見当がつかぬ。いつも薄暗いじめじめした森の中でウォンウォンと他の魔獣を威嚇していた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。
しかもあとで聞くと、それは貴族令嬢という人間の中で一番
しかし、その当時は最強であるという自負があったから、考え無しに森を抜けてしまった。
ただ、吾輩を恐れて大潰走した魔獣達が一斉に引き返して来た時、何だかゾワゾワした感じがあったばかりである。その流れに逆らい大森林を出た直後に貴族令嬢の顔を見たのが、いわゆる人間というものの見始めであろう。
この時、恐ろしいと思った感覚が今でも残っている。吾輩の全身の毛を恐怖に総毛立たせる目の前の人間は、まるで災厄そのものだった。その後、他の人間にもだいぶ逢ったが、これほどまでの恐怖には一度も
そして、吾輩は襲い来る恐怖心に敗れた。尻尾を丸め、伏せをして敵意が無い事を示した。
だが、何故か貴族令嬢は吾輩を挑発し、闘うよう強要してきた――イカれてやがるッ!
敵意が無い事を示すだけでは足りぬと言うのだろう。西方最強の大魔獣と評判の吾輩でも、目の前の貴族令嬢には全く勝てる気がしない。
仕方なく吾輩は
吾輩のこの行為に、イカれた貴族令嬢もさすがに闘気を引っ込めた。後にも先にもこれほど安堵した経験は無い――少し漏らしちゃった……
貴族令嬢の次なる行動も吾輩を
貴族令嬢はあろう事か吾輩の腹をわしゃわしゃと撫でくりまわした。何という狼藉であろうか。吾輩はこれ程の屈辱を生まれてこのかた味わった事がない。
腹を撫で回すは魔狼フェンリルの大魔獣としての矜持を踏み
あッ、そこぉーーーッらめぇ〜〜〜!
ゼェ、ハァ…ゼェ、ハァ…
吾輩は貴族令嬢を
しかし、吾輩の方で少しでも手出しをしようものなら彼女の計り知れぬ膨大な魔力で迫害を加えられるは必定。ちょっとの抵抗も許されぬ。
吾輩は耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、この仕打ちにじっと我慢――ッン、フ〜ン♡
ふぁ、くッ、アッ! アァーーーーーーッ!
ハァ、フゥ…ハァ、フゥ…
ま、まあ
人間の一生は吾輩と比べ非常に短いと聞く。僅かの光陰を人間の観察に充てるのも一興であると愚考しての事――決して愛撫に屈したんじゃないんだからねッ!(キリッ)
この時より吾輩は、この貴族令嬢なる者に従属する事になった。しかし、魔狼フェンリルたる矜持、西方で敵なしの大魔獣を称する自負、何者にも縛られぬ野生の魂は、
あッハぁ〜ン、いヤァ〜ン……
ハァ… ハァ… ハァ… ハァ…
ヒック…ヒック…、グスッ……シクシク…
吾輩――汚されてしまったのね……
そして
「で、あんたは何者なの?」
「――ッ!」
――
西方最強と魔獣界でも呼び名も高い魔狼フェンリルを知らぬらしい。人間の世界はどうやら情報に
「吾輩は魔狼フェンリルである」
「フェンリル?ふーん……」
令嬢は分かったのか、分からなかったのか、吾輩からは判別できない表情で相槌を打った。
「私はカレリン・アレクサンドールよ!これから宜しくねッ!」
これから我が主人となる令嬢は名乗ると口の端を僅かに上げて不敵に笑う。人間の美醜には
ふむ……彼女が我が主人となるのも悪くないやもしれぬ。
『
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