第29話 炎の師弟愛【STAGE 学園】


 学園の大きな校門を抜けると別世界であった。

 目の底までキラキラとなった。

 自然に私の足が止まった。



 きらびやかな学園ね。

 外とは全くの異世界だわ。


 ここが王立魔法学園……

『そして、ゲームの舞台でもあり、悪役令嬢あなたが断罪される場所でもあります』


 ふむ、つまり戦場ってわけね。

『急に殺伐としないでください』


 私のモットーは常在戦場よ!

『最初にそんなこと言っていましたね』


 いつ何時、誰の挑戦でも受けてたーつ!

『頼もしい限りです』


 だけどまずは、あの人に会わなきゃね。

『誰かと待ち合わせでも?』


 来たわ!


 向こうも私を探してくれていたようね。

 どうやら彼女も私に気が付いたみたい。



「メイヤー先生!」

「お嬢様!」



 私たちはお互い駆け寄るとひしっと抱きしめ合う。



「ああ! 先生……会いたかった」

「私もお嬢様に会えない日々は寂びしゅうございました」



 長年(3ヶ月)引き裂かれた師弟の再会。

 なんて感動的なのかしら!

『見ないと思ったら、この学園にいたのですか』


 メイヤー先生が私の両頬を手で包む。

 その目は私に対する愛情で溢れてる。


「しばらく見ないうちにご立派になられて……」

「そんなことありません……先生が居なくなって開発は完全に頓挫してしまって」

「まあ! それでは令嬢流の完成は……」

「はい、まだです。やはり先生がいないと――私ダメなんです」

「――ッ! お嬢様!」

「先生! また一緒に令嬢流の技名を考えましょう!」


 感極まって再びひしっと抱きしめ合う私たち。

『美しい師弟の絆みたいに見えますが……内容があまりに下らない』


 なんてことを言うの!?

 メイヤー先生は凄いのよ!


 私が1ヶ月も悩んでいたのに、令嬢流魔闘衣術の名前をたった3日3晩だけで思いついたのよ。

 なんて素晴らしい命名センス!

『異世界でその厨二病チックなセンスはある意味では凄いです』


 その後も次々と技を完成させたその才能――まさに悪魔的!

『完成させたのは技じゃなくて名前ですよね?』


 私は歓喜したわ。


 全く進展しなかった命名がメイヤー先生のお力でどんどん進んだの!

『技自体はとっくに完成してましたよね? なんなら名前なんて無くても問題ないですよね?』


 なんてことを言うの!?

 名前は大切なのよ!


 技は名前がついて初めて完成するの!

『それでつけた名前が厨二名称ですか』


 メイヤー先生のハイセンスを理解できないポンコツ駄女神がッ!

『分かりたくもありません……それで彼女は何故この学園に?』


 それは聞くも涙、語るも涙の物語……


 私はメイヤー先生というブレインを手に入れ狂喜乱舞したわ。

 それから夜毎に2人で令嬢流魔闘衣術の技名を語り明かした。

 私たちの師弟の絆は深まり、先生との蜜月の日々が続いたわ。

 時間も忘れ2人で朝まで濃密な時間を過ごし充実していたの。

『なんだか恋人との逢瀬みたいな語り口です』


 だけどそんな幸せは長続きせず破局が訪れたの!

 私たちの仲の良さに嫉妬した侍女が現れたのよ!

 その者は卑怯にも、お母様に全てを密告したの!

『ここだけ切り取って聞いてると、昼ドラの愛憎劇みたいですね』


 お母様から事情を聞いたお父様はメイヤー先生を学園の教師として送り込んだの。

 今年、私が入学するので、その下調べと学園での私のサポートの名目で!


 こうして愛し合う私たちは卑劣な者どもの手によって引き裂かれてしまった……

『まあ簡潔に言うと、いつも夜更かしする貴女がたを心配した侍女がお母上に相談したら、お父上にまで話が伝わって、貴女と引き離すためにメイヤーを専属侍女から外して学園に放り込んだのですね。

(経緯は異なりますがゲームの設定通りメイヤー・ロッテンが魔法学園の教師に……これも強制力でしょうか?)』


 まあ、ぶっちゃけるとそんな感じ?

『被害者ぶって……悪いのは貴女たちではないですか』



「学園の方の準備は整っております。昨日タクマ・ジュダーも着任致しました」

『タクマ・ジュダーも王都に?(これはいよいよ強制力ですか)』


 タクマ?

 来てるわよ。護衛として。

『貴女に護衛は不要そうですが……』


 要らないって言ったんだけど、護衛をつけろってお父様がうるさくて。

 まあそれで1番マシだったタクマを連れてきたの。


 タクマは学園の臨時用務員としてしばらく在籍する予定よ。

『アダマンタイト級冒険者が学園の用務員って……』



「メイヤー先生は新任教師として新入生の魔法学を受け持たれるのですか?」

「はい。ただ……」


 あら?

 先生の顔が曇ったわ。

『何かトラブルでしょうか?』

 先生……心配だわ。


「実は急に生徒指導も兼任するよう言われまして」

「まあ! さすが先生。新人でありながらもう役職を与えられたのですね」


 私は我が事のように喜んだけど、メイヤー先生の顔は晴れる様子がない。


「どうされたのですか?何か問題でも?」

「それなんですが……」


 メイヤー先生の話を要約すると、


 1.この学園にはケンカに明け暮れる問題児がいる

 2.そいつは強く教師たちでさえ手がつけられない

 3.そいつを中心にはみ出し者が徒党を組んでいる

 4.現在メイヤー先生はそいつらに手を焼いている


 という状況らしい。


「つまり、そいつを恐れて他の教師たちがメイヤー先生に生活指導員を押し付けたのですね」

「まあ、そういう見方もあります……」


「そして、その不良どもが先生のお手を煩わせていると……」

「私の言う事を聞いてくれなくて……」


 ほぅ、と色っぽいため息を吐く先生。


「許せん!!!」


 私は拳をぐっと強く握りしめ、怒りを露わにした。


「私のメイヤー先生に迷惑をかける不届き者どもめッ!――ぶっ潰す!!!」

「ああ、お嬢様。私のために……」

『過去、全く言うことを聞いてくれなかった生徒が目の前にいますけどね』


 感動でうっうっと声を詰まらせて泣くメイヤー先生の手をガシッと握った。


「安心してください。私がそいつらにギャフンと言わせてやります!」

「いけません! 私のためにカレリン様が危険な事をされるのは……」


「大丈夫です。私には先生と共に編み出した『令嬢流魔闘衣術』があります!」

「で、ですが、令嬢流はまだ完成していないと……」

『できてないのは名前だけですけどね』


「確かに令嬢流はまだ完璧とは言えません……」

『技名だけですけどね』


「ですが、メイヤー先生と苦心して生み出した令嬢流は、未完成と言えども不良ごときに遅れを取るものではありません!」

「お嬢様! 私のせいで不完全なまま闘いに赴かれるなんて……」

『どこまで技名が大事なんですか』


「私達の令嬢流を信じてください!」

「お嬢様!」


 手を取り合い、涙を流す私とメイヤー先生。

『おかしい……全く感動できません』


「それでメイヤー先生を困らせる慮外者はいったいどこの誰なのですか?」

「最高学年のマリク・タイゾンという生徒です」

『(やはり攻略対象でしたか)』


「マリク・タイゾンですね。分かりました!」


 不安そうなメイヤー先生に私は拳を握りしめ胸を叩いてみせる。


「このカレリン・アレクサンドールがメイヤー先生に代ってお仕置きよ!」


 私は天に拳を突き上げる。


「そして私はメイヤー先生の教えに恥じぬよう『レディ・ザ・レディ』の栄冠を手に入れます!」

「お嬢様、その意気です!」

『何ですかそれ?』



――レディ・ザ・レディ

 それは貴族令嬢の目指す到達点!

 全校生徒の覇権を懸けて、毎年この時期にこの国の貴族令嬢たちが、学園をリングに闘う熾烈な『武闘会』があるのよ!

『それ字が違いますよね!?『舞踏会』ですよね!?』


 そして闘って! 闘って! 闘い抜いて!

 最後まで立っていた者が「レディ・ザ・レディ」の栄光を手にすることができるのよ!

『絶対に間違ってますよね!?』



 まずは前哨戦として先生の敵を血祭りに上げるわ!


 マリク・タイゾン……

 ヘヴィー級チャンピオンみたいな名前で調子こいているようね!

『名前は関係ないと思いますよ』


 この私が完膚なきまでに叩き潰してくれる!

『ほどほどにしてくださいね』



 不良ヤンキーども覚悟なさい――汚物は消毒よ!

『嫌な予感しかしません……』



『ゲームの強制力か、メイヤー・ロッテンとタクマ・ジュダーは王都へとやって来てしまいました。

 まあ、ゲームと違ってカレリンの味方みたいですから問題はないでしょう――さて、マリク・タイゾンと不良達はゲームと同じように登場しましたが……

 カレリンはこのイベントをどう切り抜けるのか――不安たのしみです!』

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