第12話 完成!その名は令嬢流魔闘衣術【閑話パート】


『メイヤー・ロッテンがクビになってからもう2年が過ぎましたか。カレリンも既に8歳のはずですが……』



 現れたなポンコツ駄女神!

『まったく失礼な娘ですね』


 毎度毎度ちょっと都合が悪くなるとすぐにいなくなる使えない女神に失礼もへったくれもないわ!

『私も暇ではないのですよ』


「…………」

『何ですかその疑いの目は』


 メイヤー先生がクビになると知るや逃げるように消えたくせに。

『彼女がクビになったのは貴女が原因でしょう!』


 確かにそうなんですけどね。


 だけど私もちゃんと真面目に勉強してたのよ?

 それでも魔法が全く身につかないんだから仕方がないじゃない。

『おかしいですね……カレリン・アレクサンドールは設定では魔法が得意のはずなんですが(どうして魔法が使えないのでしょうか?)』


 設定がどうだか知らないけど現実問題どんだけ勉強しても使えないのよ。

『実際に貴女の魔力は異常に高いのですが(ちょっと調べてみましょう……)』


 他のことは問題なくできるんだけど魔法だけはどうにも……

『せっかくの魔力も宝の持ち腐れですね(……あ!これ邪神の奴の呪いじゃない! あの野郎! これって完全に越権行為じゃない!)』


 宝の持ち腐れ?

 ふっ!

『なんですか? その勝ち誇った顔は?』


 私はこの強大な魔力の有効活用方法を既に見つけたのよ!

『え? でも魔法は使えないって……』


 これよ!

『それは確かザービ・ド・ズール著の『肉体強化魔法論』……もしかして、肉体強化魔法を会得したのですか!?』


 ふぅ~やれやれ……

『なんですか、そのこいつ分かってねぇなって顔は』


 こいつぜんっぜん分かってないわね。

『こいつ言いやがりましたよ。女神に向かって!?』


 私は魔法を習得できなかったと言ったでしょう。

 まったくこのポンコツはぜんぜん理解していないわねぇ。

『(イラッ!)ではどうしたというのですか?』


 ふっふっふっ!


 私はズール先生の肉体強化魔法からヒントを得て、魔力を魔法として利用せずに100%物理パワーに変換する手段を手に入れたのよ!

『はぁ?』


 鈍いわね……肉体強化魔法は筋肉を増強する魔法よ。それなら筋肉に直接魔力を流し込んでも良いのではないかと考えたのよ!

『魔法を使わずに魔力で筋肉を強化したのですか!?』


 ちょっと違うわね。あんたは乙女ゲームで世界作るくらいだから日本のサブカルには詳しいんでしょ?


 よくあるじゃない。気を体に巡らせて肉体を強化する、あれよ。

『そんなことが可能なのですか?』


 筋肉に魔力を流し込むことで、筋肉量は上がらないけど筋繊維一本一本が強化されて、通常より出力と防御力を上げることに成功したわ。


 見てなさい!


 この大木がちょうどよさそうね。

 まずは魔力を全身に巡らせてと。


 こうやってふわっと前脚を浮かせて……



――ダンッ!!!



 ……と激しく地に打ち付けるわけ。

『いわゆる震脚ですね』


 筋肉量が増えていない以上全体重は元のままの私ではパワーが上がっても打撃は軽く、力が分散しやすくなる。そこで震脚を行うことで打撃力を増加させるのよ!


 このまま打ち込めば!


――バキッ!!!

『――ッ!!!』



 と、まあ、こんな風に私の胴回りの数倍はある太い大木が簡単にへし折れるわけ。

『まさかこんな方法が! 天才ですか貴女!?』


 とーぜん!


 これで魔法なんかよりも物理が上と証明し――『霊長類最強』に……私はなる!

『どこのゴム人間ですか! いや、しかしホントにこれは凄い!』


 驚いた?

 これぞメイヤー先生と考えに考え抜いた『令嬢流魔闘衣術』よ!

『その厨二臭い名前はどうかと思いますが……ところでメイヤーとはメイヤー・ロッテンのことですか? 彼女はクビになったはずでは?』


 流石に私のせいでクビになったままなのは寝覚めが悪いから、お父様にお願いして私の専属侍女になってもらったの。

『まあ、貴女のために婚約まで解消してしまいましたからねぇ』


 それにメイヤー先生の後に来た教師たちは、誰一人として3日と持たなかったの。だから、お父様もメイヤー先生の根性を高く評価されているわ。

『貴女を相手にすると皆が不幸になりそうです』


 そんなことないわよ?

 メイヤー先生は涙流して喜んで私に感謝してくれたもの。

 私に一生ついていきます!って縋りつかれたわ。

『あの方も大概ですね(まあ、これでナニーに続いて破滅フラグ2本目が折れましたか)』


 今ではメイヤー先生と二人三脚で『令嬢流魔闘衣術』を完成させようと奮闘しているところよ!

『ふむ……メイヤー・ロッテンは優秀な魔法使いのようですから魔力の使い方も指導できるのですね』


 ん? 何を言っているの?


 メイヤー先生から魔力の使い方なんて学んでないわよ。私、もう自由自在に魔力を体のあらゆるところに流せるもの。

『は? 今、その技を完成させようと二人三脚で奮闘していると言ったではないですか』


 技じゃないわ。『令嬢流魔闘衣術』よ。

『言っている意味がよくわかりませんが……』


 魔力操作の方はもう完璧なのよ。

 問題はこの技を何と呼べばよいか、それが問題だったの。


 私とメイヤー先生は三日三晩も寝ずに議論を重ね、ついに『令嬢流魔闘衣術』と名付けたのよ。

『三日三晩も徹夜で何やってんです』


 そして、今は技名を2人で話し合っている段階よ。

『あまりに下らない……』


 名前は重要よ!

『それで付けた名前が『令嬢流魔闘衣術』なんていう厨二臭い名前ですか』


 私とメイヤー先生とで考えたこのハイセンスな名前がわからないとは嘆かわしい。


 まあいいわ。


 今日は貴女の相手をしている暇はないのよ。

『おや? どこかへ行かれるのですか?』



 ちょっとね…………




 …………私は男ものの衣服に身を包み、荷物を詰め込んだポシェットや肩掛け鞄を手に取る。それを心配そうに見る1人の侍女。



「さてと。じゃあメイヤー先生、後のことはよろしくお願いします」

「本当に行かれるのですか?」


「ええ! 先生と考えた『令嬢流魔闘衣術』の名を広めてくるわ!!」

「ああ! お嬢様!何とご立派になられて……」

『いや、ぜんぜん立派ではないですよ?』



 ポンコツ駄女神は無視よ無視。

 私はメイヤー先生としかっと手を握り合って師弟愛を確かめ合うの。



「メイヤー先生! 私は絶対に『霊長類最強』になります!!」

「信じております。お嬢様は私の希望の星ですから!」



『普通なら師弟の感動的シーンなんでしょうが、全く心が震えません』

 私とメイヤー先生の絆にケチをつけるなポンコツ駄女神!



「それでは行ってきます!」

「お気をつけて」



 期待で胸を膨らませ、屋敷を飛び出しいざ行かん!


 これから冒険者ギルドへ行って私は冒険者登録をするのよ。

『冒険者になるのですか?』


 追放された時に生きる術になるでしょ。

『まあ確かに……』


 それに、冒険者としての活動で力を付け、資金を入手し、名声を手に入れれば、今後の展開が何かと有利になるかもしれないしね。

『能力、資金、名誉……確かにそれは重要ですね』



「だから――『冒険者王』に!私はなるっ!!!」

『だからどこのゴム人間ですか!?』



『こうしてカレリンはナニーに続く第2の破滅フラグであったメイヤー・ロッテンを図らずも懐柔し、そのフラグを知らず知らずへし折っていたのであった』




―――≪次回予告≫―――


みなさんお待ちかねぇ!

冒険者になることを決めたカレリンは冒険者ギルドへと向かいます。

しかし!そこでカレリンの前に立ちはだかったのはミスリル級冒険者タクマ・ジュダー!

彼はカレリンによって冒険者生命を断たれ暗殺者となる設定うんめいを持つ男。

スピードスターの異名を持つ彼に対して、幼いカレリンに為す術はあるのでしょうか?


次回令嬢類最強!ー悪役令嬢わたしより強い奴に会いに行くー『第五死合!悪役令嬢vs逆襲のスピードスター』に、レディィィ、 ゴォォォ!

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