領主の館で夕食だぁ!
「ご主人様、夕餉のご準備が出来ております。」
「あぁ、直ぐに行く。」
執事が言うと領主セルフは立ち上がる。
「ファラスカは?」
「お呼びしております。」
妻の名を言うと執事はお辞儀をする、そしてセルフは屋敷のダイニングへ向かう。
「・・・なんだこの香りは。」
「チハル王女殿下の料理で御座います。」
「・・・これが噂の。」
香りだけでゴクリと喉を鳴らすセルフ、そしてダイニングに入るとファラスカがチョコンと座っていた。
「あなた。」
「ファラスカ、どうした?」
「どうしましょう。」
「ん?」
「恥ずかしながら・・・お腹が鳴ってしまいます。」
「あぁ、心配するな、俺もだ。」
恥ずかし気に言うファラスカと笑みで答えるセルフ、すると部屋に千春達が入って来た。
「お待たせしましたー!」
元気に声を掛ける千春に驚くファラスカ。
「初めまして、私はセルフの妻、ファラスカ・フィンコと申します。」
カテーシーで礼をするファラスカに千春はニコッと微笑む。
「チハル・アル・ジブラロールと申します♪」
軽いドレスに着替えた千春は同じ様にカテーシーで答える。
「セルフ卿お待たせした。」
「エンハルト殿下、この度は・・・。」
セルフが言うのを手で遮るとエンハルトは微笑む。
「チハルが好きにやった事だからな、そちらは?」
「妻のファラスカで御座います。」
ファラスカは先程と同じ様にカテーシーで礼をする。
「固い話は無しだ、食事の時は楽しく、これがジブラロールの食事ルールだ、食べ方が分からない物があれば気にせず聞いてくれ。」
「有難うございます。」
エンハルトとチハルは執事に促され席に着く、頼子達も軽いドレスに着替え席に着いた。
「ファラスカ・・・座ろうか。」
「はい。」
セルフはファラスカをエスコートし自分も席に座る。
「チハルちゃん♪」
「ティスケリーさん綺麗~♪」
「ンフフ♪お着換えしちゃった♪」
ドレス姿のティスケリーはくるっと千春の前で回る。
「ティスケリーさん、天ぷらもあるからね♪」
「チハルちゃん大好き!・・・あれ?アイトネ様は呼ばないの?」
「え?」
「呼ばないと拗ねるんじゃない?」
「えぇ~?そんな事・・・。」
((・・・・・・・・・・・。))
「うん、拗ねるわ、アイトネー。」
『チハルのいぢわるー!』
「いやいや!こういう場だからさー!私の部屋じゃないし!」
『えぇ~?別に良いわよねぇ?セルフちゃん。』
「・・・はっ!?はい!」
『ファラスカちゃんもよろしくねっ♪』
「えっ・・・あの・・・え?」
いきなり現れた美しい女性を目にしファラスカはアイトネとセルフを見る。
「えっと、この世界の創造神、アイトネ様です~♪」
千春はアイトネに片手を添えながら紹介すると、アイトネはニコッと微笑む。
「千春私も紹介する?」
「え?おかぁさんも来たの!?」
「ダメだった?」
「んにゃ嬉しい、こっちは私のおかぁさんで新人女神の・・・ハルでいいの?」
「いいわよ♪」
「です!」
「め・・・女神の娘なのですか!?」
「あ・・・えっと、はい。」
驚くファラスカに苦笑いで答える千春。
「アイトネ、おかぁさんそこ座って♪」
『は~い♪』
「は~い。」
女神2柱は千春に言われ椅子に座る。
「セルフ卿、こちらも揃いました。」
エンハルトが言うと、ハッ!とした顔でセルフが再起動する。
「え~・・・そ、それでは食事を。」
セルフはいつもの様に手をパンパンと打つ、すると執事、メイドが食事を配膳していく。
「こちらがパエリアと言う米を使った料理で御座います。」
執事はサフィーナから貰ったメモを見ながら説明を始める。
「米・・・米?」
「はい、あの米で御座います。」
「・・・。」
セルフとファラスカは不思議そうにパエリアを見る。
「やっぱりこっちの大陸でも米って動物の餌なのかな?」
「この様子だとそうだろうな。」
心配そうな千春と打って変わりエンハルトは楽しそうだ。
「こちらはブイヤベースと言う海鮮スープで御座います。」
「スープ・・・こんなに色が濃いのか?」
「はい。」
次々と並べられる料理を執事が説明していく、そして。
「こちらはヤェアダの塩釜焼きで御座います。」
薄く焼け色の付いたドーム型の物を説明する執事。
「あ、あの魚ヤェアダって言うんだ。」
「あのカラフルな魚か?」
「うん。」
執事は説明すると、美桜に教えてもらったように小さな木槌で塩釜を割る。
「これが全部塩なのか・・・。」
「・・・はい、塩で御座います。」
「なんと・・・贅沢な、これが王宮料理か。」
思わず呟くセルフ。
「そう言う事にしとく?」
「いや、多分バレるだろ、メイド達も聞いていたからな。」
千春は勘違いしているセルフを見ながら呟くとエンハルトが答える。
「それでは・・・。」
「はい、頂きましょう。」
セルフがエンハルトを見ながら言うと、エンハルトも頷き答える、そして。
「「「「「「「「「いただきます。」」」」」」」」」
皆はいつもの挨拶をすると料理を食べ始める。
「んー!テンプラ最高!」
空気を読まず最初から天ぷらに齧り付くティスケリー、その言葉で皆は笑みを浮かべ気楽に食べ始める。
「美味しい・・・美味しいですわ!」
パエリアを口にし、目を見開きながらセルフを見るファラスカ。
「これが米、初めて食べたが、こんなに美味しい物だったのか。」
「やっぱり家畜の餌なんですか?」
「はい、場所によっては食べると聞いた事が有りますが。」
「あー、そこらへんはジブラロールと一緒ですね。」
「え?ジブラロールでは食べられてるのでは?」
「食べ始めたのは最近なんですよ。」
楽し気に答える千春、ファラスカは話を聞き、頷きながらブイヤベースを口にする。
「・・・。」
ぽろぽろと涙を流し始めるファラスカ、それを見た千春は驚く。
「だ!大丈夫ですか?食べれない物有りました!?」
「いえ!違います!美味しくて!・・・おいしくて・・・・うぅ。」
「そんなに!?」
泣きながらブイヤベースを口にするファラスカ、スープを掬うスプーンは止まらない。
「これは、なんて事だ。」
ポツリと呟き同じくスープを飲むセルフ。
「ん~美味しいわぁ。」
「魚介の味が出てるねー。」
「エビのダシが良く出てるね。」
「んまいわ~。」
「パンと合うね。」
「千春、パンに付けて食べても大丈夫?下品じゃない?」
「大丈夫じゃない?ねぇハルト。」
「あぁ、好きなように食べたら良い、今ここでどのように食べても誰も何も言わない、それどころかその食べ方がこの街・・・いや、この国の食べ方になるだろう。」
ジブラロールの食事風景を思い出しながら答えるエンハルト。
「うーん♪美味しい!」
頼子がスープにパンを付け食べると頬をプルプルしながら言う、その姿を見てセルフがパンを手に取る。
「・・・これが・・・パン!?」
柔らかいパンを手にすると、何度もパンを指で押さえ、半分に割る。
「ファラスカ!見てみろ!」
イケオジのセルフはいつの間にか少年の様に目を輝かせながらファラスカに話しかける。
「白いですわ!」
「触ってみろ!」
「・・・柔らかい・・・まるで綿毛の様ですわ。」
ファラスカも涙目をキラキラさせながらパンを手に取る、そしてチラリと頼子を見た後パンをスープに付ける。
・・・パクッ
「ん~~~~~~~~!」
ファラスカは満面の笑みで咀嚼する。
「ルグラス!」
「はい。」
「この料理のレシピは?」
「はい、チハル王女殿下より許可を頂き書き写しております。」
「・・・チハル王女殿下、有難うございます。」
「いえいえ♪喜んでいただきこちらも嬉しいです♪」
「この柔らかいパンの方は・・・。」
「それも教えてますよ♪」
「なんと!」
「あっちだと商業ギルドでレシピ買えますから。」
「な・・・なんですと!?」
驚くセルフは思わず声を上げる。
「こっちって商業ギルドの繋がり無いんですか?」
「ある程度の情報交換はあるかと・・・。」
「あ~そんな感じなんですね~。」
「はい、ノワ商会会長が商業ギルドルジイタ支店のギルドマスターをしております、話を聞いてみましょう。」
「あ、あのおじさんギルマスなんだ。」
「お・・・おじ!?」
「あ!そうだ、明日ドココさん来るんですよ。」
「ど・・・何処にで御座いますか?」
「ここ。」
「え?」
思わず執事を見るセルフ。
「はい、明日お届け物をすると聞いております。」
ペコリとお辞儀をする執事。
「何を買われたので?!」
「あ、売ったお金持ってきてくれるんですよ、まぁソレは置いといてー、食事しましょ♪」
千春はそう言うとセルフは料理を見る。
「冷めると美味しさ半減しますよ?」
「それはいかん!」
セルフはそう言うと改めて食事を再開した。
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