冷やし中華始めました!

「おはようチハル。」

 マルグリットが朝から千春の部屋に顔を出す。


「おはようございますお母様、どうしました?」

「・・・ん、別に用事は無いのよ?お茶を一緒にしたかっただけ♪」

 侍女と千春しか居ない部屋にマルグリットは入って来るとソファーに座る、サフィーナはマルグリットと千春にお茶を淹れるとマルグリットはお茶を口に含む、その姿を見た千春は左手の薬指を目にする。


「お母様・・・指輪付けてましたっけ?」

「・・・昨日ね、エイダンに貰ったのよ♪」

「もしかしてソレ見せに来ました?」

 千春はニヤニヤと笑みを浮かべながらマルグリットを見ると、マルグリットは目を逸らす。


「その・・・ね?あの人プレゼントってくれないのよ。」

「えー、そうなんですか?」

「女心なんてこれっぽっちも分かって無いもの。」

 すまし顔でお茶を飲むマルグリット、しかし顔は幸せそうだ。


「左手の薬指って事は結婚指輪ですよね?」

「えぇ、多分エンハルトから聞いたんじゃ無いかしら。」

「あ~~~~、ハルトってみんなの彼氏にも言ってたんですよ!」

「でしょうね、サプライズ成功した?」

「はい、もう盛り上がりすぎてカオスでした。」

 2人は顔を合わせ笑い合う。


「今日は皆は?」

「それぞれの家に遊びに行ってますね、例の刻印入り宝石を持って行きました。


「コレね。」

 マルグリットはそう言うと胸からネックレスを取り出す。


「あ、ネックレスにしたんですね。」

「えぇ、でも私が貰って良かったの?」

「はいっ!お父様とお母様に持ってもらいたかったんで♪」

「エンハルトは?」

「ハルトは大丈夫って貰わなかったんですよ。」

「あと一つは誰に渡したの?」

「ユラです。」

「あら、タイキさんは?」

「おかぁさんが絶対守るそうで、何か有ればすぐ分かるらしいんですよぉ。」

「愛されてるのねぇ~。」

「本当はライリーとフィンレーにもあげたかったんですよ、でもハルトが大丈夫って。」

「問題無いわよ、あの子達にはちゃんと部隊が付いてるから。」

「らしいですねー。」

 2人がお茶をしながらノンビリと話しをしているとサリナが声を掛けて来る。


「チハル様、朝食の方は如何なさいますか?」

「どうしよっかな、1人だもんなぁ。」

「あら、ハルさんは?」

「お父さんの所に遊びに行ってます。」

「そうなのね。」

「お母様朝食食べました?」

「まだよ?」

「作りましょうか!」

「あら、何を作るの?」

「えっと~何が食べたいです?」

「そうねぇ、酸味がある物が食べたいわ。」

「妊娠してるからですか?」

「さぁ?それは分からないけれど、酸っぱい物が美味しく感じるのよね。」

「酸味か~、ん~~~~~~~、お母様麺好きですよね。」

「えぇ、らーめん美味しいわよね、最近よく食べてるわ。」

「それじゃ冷麺作りましょうか。」

「れいめん?」

「ラーメンの麺を使った冷たくて酸っぱい料理です。」

 千春はそう言うと立ち上がる。


「ルプー冷やし中華たべるー?」

「おう、食べるぞ、ハム多めでな。」

「おっけ~、サフィーとサリナも食べるっしょ?」

「新しい料理ですね、いただきます♪」

「宜しいのですか?」

 ちょっとうれしそうなサフィーナと恐縮するサリナ。


「いいのいいの、他の侍女達は皆についてっちゃってるし、ついでに作るよ。」

「モリーも居ますよ。」

 サフィーナは外を見る、外ではまだ姫桜が咲き乱れ、そしてその恩恵をと貴族が並んでる、そしてその纏め役をモリアンが走り回って対応していた。


「・・・うん、モリーの分も作ったげよう。」

 千春は厨房に向かうと何故かマルグリットまでが付いて来る。


「お母様座ってていいですよ。」

「良いのよ、少し動きたいし、チハルと一緒に料理するのも楽しいじゃない?」

「お腹大丈夫です?」

 まだそれ程ではないが、既に見て妊娠しているのが判るくらいには膨らんでいる。


「大丈夫よ、何人産んでると思ってるの?」

「3人も生んだ人は違いますねぇ。」

 それなら大丈夫かな?と千春は微笑みアイテムボックスから野菜やハム、卵を取り出す。


「お母様は野菜を切ってもらって良いですか?」

「どんな風に切れば良いの?」

「えっと、このキュウリモドキを細く千切りにお願いします。」

 千春はキュウリモドキをまな板に置くと、サフィーナにお湯を、サリナにはハムの塊を同じ様に千切りにと指示をしていく。


「麺は細め~ん♪」

「麺は私が茹でるわね。」

「サフィーよろ~♪それじゃ私はタレ作りまーす、お母様は酸味のあるタレが良いですね。」

「他にもあるの?」

「はい、ゴマダレも美味しいですよ。」

「・・・両方はダメ?」

「いいですよ♪」

 千春は器に醤油、酢、みりん、砂糖と混ぜ合わせる。


「ここにレモ~ン♪」

 ぎゅ~っと絞るが少ししか果汁が出て来ない。


「さ・・・サリナ。」

「はい。」

 千春はジブラロール産緑色の固いレモンを渡すとサリナは軽々と握りつぶす。


「流石、ありがと。」

 礼を言うとごま油を垂らし味見をする。


「ん!んみゃ!」

「久しぶりに聞いたわね、んみゃ。」

「そう言えば最近新しい料理作って無かったもんね。」

 サフィーナに言われ考える千春。


「チハル、これくらいで良いかしら。」

「はい、次はトマトをスライスでお願いします。」

「これね。」

 マルグリットは慣れた手つきで野菜を切っていく。


「チハル様、次は?」

「錦糸卵と鶏肉も欲しいかな、鶏肉を茹でてもらっていい?」

「はい。」

 次の食材を指示すると千春はゴマダレを作る。


「醤油と酢と砂糖~♪あとはねりごまとごま油っと。」

 まぜまぜしながらタレを作ると次はフライパンを取り出し卵をシャカシャカとかき混ぜる。


「フライパンをあたため~の。」

 薄ーく卵を伸ばし焼いていく千春。


「チハル、そんなに薄くて良いの?」

「うん、錦糸卵にするからね~っと。」

 菜箸で卵を摘まみ、ひっくり返す、そしてすぐにまな板へ。


「はい次ー。」

 次々と薄く焼いた卵を量産する千春。


「野菜切り終わったわよ。」

「はーい次はその卵を同じ様に千切りでお願いします。」

 マルグリットは楽しそうに食材を切っていく。


「チハル様、鶏肉が茹であがりそうです。」

「おっけ、水にさらしてほぐしてくれる?」

「はい。」

「チハル、麺も良さそうだけど。」

「そっちはザルに取って、水でしめるから。」

 ザルに麺を取るとサフィーナが冷たい水を魔法で作り流していく、千春は洗濯物でも洗うかの様に麺を洗っていく。


「そんなにゴシゴシしても大丈夫なの?」

「だいじょ~~~ぶ。」

 洗い終わり冷えた麺を皿に盛り付けると、マルグリットとサリナが準備した食材を綺麗に飾り付ける。


「・・・はい!冷やし中華出来上がり♪お母様は二種類食べるのでちっちゃいの二つです。」

「綺麗ね。」

「色鮮やかですね。」

「食べるのが勿体ないです。」

 マルグリット、サフィーナ、サリナはカラフルな彩の冷やし中華を見て感想を言う。


「あとはこのタレをお好みで~♪さ、あっちで食べよ♪」

 皆は冷やし中華を手に応接間に移動する。


「ルプ、レモンダレとゴマダレどっちがいい?」

「ん~・・・ゴマ。」

「ほいよ~。」

「こっちがレモンダレ?」

「はい、この白い方はゴマダレです。」

 小さな冷やし中華を二つ並べ、マルグリットは楽しそうにタレをかけていく。


「モリーも呼ぶかぁ。」

 千春はそう言うと立ち上がり庭に出る。


「私が行きますよ?」

「サフィーはそっちで準備してて~。」

 てくてくとモリアンの所へ移動すると貴族達が騒めく。


「すみませーん、しばらく休憩入りまーす、午後1鐘から再開するので一度解散してくださーい。」

「了解致しました、皆、チハル王女殿下の言われたように午後1鐘から再開だ。」

 貴族の男性がそう言うと、皆は頷き離れて行った。


「なんか・・・ごめんね?」

「いえ!チハル王女殿下謝られないで下さい、私達が幸せを分けて頂いております故。」

 貴族紳士はにこやかな笑みを浮かべながらお辞儀をすると颯爽と去って行った。


「カッコいい・・・イケオジ。」

「たすかりましたぁ・・・。」

「お疲れモリー、朝ごはん作ったから。」

「やったぁ!」

「あのイケオジさんも貴族?」

「イケオジ・・・はい、ヴォンド・コブフレイ伯爵様です。」

「コブフレイ伯爵・・・なんか聞いた事有るな。」

「はい、ロノカさんのお父様ですね。」

「・・・誰だっけそれ。」

「ヨリさんがニキビ治療した御令嬢覚えてません?」

「あー!いたいた!・・・で?なんで仕切ってたの?あのイケオジ。」

「えっとぉ・・・嫡子のアダトニー様がー・・・私とぉ~・・・お見合いと言うかぁ~・・・お父様とぉ~・・・話してるらしくてぇ~・・・。」

「へぇ~・・・・・・マ?」

「・・・マ、です。」

「ちょっと詳しく聞こうか。」

 千春はそう言うとモリーの手をがっちり掴む、そして自室に戻る。


「チハル、準備出来ましたよ。」

「あ、そうだった忘れてた。」

「え?今食事の為にモリーを迎えに行ったんですよね?」

「・・・そうだったね。」

「この短い時間に何故忘れるんですか。」

 呆れる様に言うサフィーナ。


「モリーがお見合いっていうか、なんかそういう事言ってたから。」

「コブフレイ伯爵家ですね。」

「確か良い年ごろの嫡子が居たわね、アダトニーだったかしら?」

「サフィーは知ってたの?」

「えぇ、モリーの家は親戚ですからね。」

「で?それで?」

「チハル、その話は後でゆっくりしてあげるわ、ひやしちゅうか食べましょう。」

 マルグリットが言うと千春はまたもやハッとし、頷く。


「は~い、それじゃたべましょー♪」

 皆はいつもの挨拶をすると冷やし中華を食べ始める。


「ん~♪酸味と麺がよく合うわね、野菜も美味しいわ♪」

「ゴマダレも美味しいです、酸味と甘み、香りがとても麺に合います。」

 マルグリットとサフィーナは満足そうに麺を啜る。


「モリー食べないの?」

「・・・やさい・・・多くないですか?」

「モリー野菜嫌いだよねー。」

「トマトがー!主張してきますぅ!」

「良い事教えてあげる、この冷やし中華、マヨネーズかけると美味しいらしいよ。」

「!?サフィー!マヨ!マヨちょーだい!」

「はいはい。」

 サフィーナはマヨネーズをモリアンに渡すと千春に声を掛ける。


「『らしい』って言ってますけど、チハルはかけないの?」

「ん、地域で変わるんだよね~、私の所はマヨかけないんだよ。」

「そうなんですね。」

 そう言うとサフィーナはそっと手を上げる。


「おいしいですぅぅっぅ!!!痛ったぁぁあぁっぁぁい!」

「王妃殿下もいらっしゃるんですよ?大声上げない!」

「ふぁぁい申し訳ありませぇぇん。」

「フフッ、前も言ったでしょ、モリー、私の前でも気さくに話して良いわよ。」

「・・・はぃぃ王妃殿下ありがとうございまふぅ・・・おいしいでふぅ・・・ズズズズッ。」

 涙を浮かべながら食べるモリアン、甘やかせないで下さいとマルグリットに言うサフィーナ。


「モリーの叫ぶの何気に嬉しいんだけどねぇ~♪(ボソッ)」

 千春は満足そうに呟くと冷やし中華を味わった。





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