老紳士が来たよ!
「ジブラロールへようこそ。」
門番は声をかけ旅人達を街へ入れる。
「ありがとう、ところであの大きな木は?」
老紳士は城と変わらない大きさのピンクに着飾った木を指差し問いかける。
「あれは姫桜ですよ。」
「姫?」
「えぇ、この国の第一王女、チハル王女殿下の木です。」
「アレが・・・ありがとう。」
老紳士はお礼を言うと微笑む、そして城の方へ歩く。
「いらっしゃい旅人さん!宿は決めたのかい!?」
若い女が呼び込みを掛ける。
「まだ決めてないが、日も高い、困ったら声を掛けさせてもらうよ。」
「絶対だよー!」
賑やかな王都を歩く老紳士は思わず微笑む。
「素晴らしい国だな。」
老紳士は背負った荷物を担ぎ直し、商店の並ぶ通りを歩く。
「良い匂いだ、寄った街よりも美味そうだな。」
ふと目に付く露店の食べ物を見る。
「なんと!油煮か!」
「おや?食べるかい?」
店主の男は唐揚げを揚げながら老紳士に声をかける。
「油で煮るとは、なんとも贅沢な料理を。」
「なんだい、あんた旅人か、ジブラロールは今じゃ油も沢山作っているからね。」
「ほぉ、凄いですな。」
「そりゃぁ姫様の料理には必要だからね、それに賢者様が搾油器を開発して下さったんだ。」
「賢者様?」
「あぁ、どうだい?一つ食べてみるかい?」
店主は唐揚げを串に一つ刺すと、老紳士に渡す。
「良いのか?」
「食べて見な、驚くぜ?」
店主はニヤニヤと笑いながら答える。
パクッ・・・モグモグ
「美味い!」
「だぁろぉ~?これにエールを流し込んだら最高だぜ?」
店主が言うと老紳士はゴクリと喉を鳴らす。
「このカラアゲ串3つ頂こう。」
「あいよ!」
店主は相変わらずニコニコしながら揚げたての唐揚げを串に刺し、老紳士に渡す。
「3本で大銅貨6枚だ。」
「・・・は?銀貨ではないのか?」
「はっはっは!銀貨じゃ誰も買わねぇよ。」
大銅貨を6枚渡し、老紳士は唐揚げを食べながら歩く、向かうのは城の方だ、唐揚げも食べ終わり暫く歩いて行くと景色が変わる。
「おい、そこの旦那、そっちは貴族街だぞ。」
通りを抜け商店も無くなる、貴族街へ向かう道を歩いていた老紳士に兵士が声を掛ける。
「城に向かうにはここを通ると聞いたのでな。」
「城に何か用か?」
「聖女にお会いしたい。」
「・・・誰かの紹介状か何かは?」
「いや、無い。」
「王女殿下の知り合いなのか?」
「いや、お会いしたことはない。」
「・・・王女殿下は気さくな方だが、見知らぬ者と会う事は出来んぞ?」
「まぁそうだろうな、しかし会わなければならない。」
兵士は男を見る、初老の紳士の体格は兵士と変わらない、いや、兵士よりも良く現役の騎士と言われても見劣りしない。
「名前は?」
「ワートスと申す。」
「出身は?」
「デッサバ・ルブ王国だ。」
「・・・聞いた事はあるな、元帝国のさらに向こうのはず、そんな所から?」
「あぁ。」
兵士は考えるが答えは出ない、しかしこのまま城に向かわせるのも問題だと。
「わかった、案内しよう。」
まずは騎士団長に会わせ、対応を考える事にした兵士は、一緒に城に向かう。
「何処で王女殿下の事を?」
何かしらの情報が有るかと話しかける兵士。
「帝国で耳にした、聖女が現れたと。」
「聖女が現れたら何か有るのか?」
「あぁ、私は聖女の為にある。」
「それはどういう事だ?」
「聖女の為に生き、聖女の為に死ぬ、それだけだ。」
「意味が分からないが、宿命的な?」
「あぁ、私は前の聖女からお願いされているんだ、『また私を守ってね。』と。」
空を見上げいう老紳士、視線の先には咲き乱れる大きな桜の木が有った。
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「はい!できましたー!桜餅ぃー!」
千春と春恵は厨房で桜餅を作っていた。
「これが桜餅?」
マルグリットは皿を受け取り綺麗なピンクの桜餅を見る。
「チハルおねえちゃんおいしそう!」
「おいしいよぉ~ん♪」
「千春、アイトネ様呼ぶわよ?」
「はーい、おかぁさん。」
『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!』
「・・・何処で覚えたのそれ。」
『ウカちゃんが言ってたの。』
「宇迦之御魂様・・・何教えてんだろ、まぁいいや桜餅たべるでしょ?」
『もっちろ~ん!』
「モートさーん♪」
「やぁチハル。」
モートも嬉しそうに現れる。
「はい、お代わりも有るよ。」
テーブルに並べると、マルグリット、ユラ、アイトネ、モートが桜餅を食べ始める。
「千春、おはぎも出すの?」
「だすー!私が食べる~♪・・・ぼたもちじゃないの?」
「こっちは春だからぼたもちでも良いわよ。」
「あっちは秋だね、秋だとおはぎ?」
「そうよ。」
春恵は教えながらテーブルにおはぎを置く。
「おねえちゃん、これ桜なの?」
「はっぱが桜の葉だよ。」
「おもちは?」
「食紅で色つけただけだよ~、美味しい?」
「おいしい!」
口いっぱいに桜餅を入れ満面の笑みで答えるユラ。
コンコン
「はーい。」
千春が返事をすると、サリナが扉を開ける。
「失礼致します、お食事中申し訳ありません。」
エーデルが畏まりながら声を掛けて来る。
「んー大丈夫ですよー、どうしました?」
「それが、その・・・チハル王女殿下にお会いしたいと言う者が。」
「へぇ~、そういうのってお母様が窓口って言ってましたよね。」
「えぇ、エーデル、誰かしら?」
マルグリットは何処の誰だと眉間に皺を寄せる。
「デサッバ・ルブ王国から来たワートスと言う老騎士で御座います。」
「・・・デサッバ!?」
「何処ですか?」
「帝国のさらに先、ジブラロールと同じくらい大きな王国よ。」
「へぇ~、で?私に何か用なの?」
「聖女様にお会いする為に来たと。」
「会うだけなら別に・・・良いですよね?」
「聖女・・・デサッバと聖女に関わりあったかしら、前の聖女は数百年前のはずよね。」
思い出す様に言うマルグリット。
「へぇ、聖女様が居たんですね。」
『チハルも聖女よ~?』
「だれかさんのせいでね~。」
じと~っとした目で千春はアイトネを見る。
「今何処にいらっしゃいます?」
「自分の執務室で待たせてます。」
「呼んできてもらって良いですよ。」
「良いのですか?」
「うん。」
「何か有れば・・・いや、連れて参ります。」
エーデルはソファーで寛ぎながらおはぎを食べる三柱を見て返事を返す。
『モート、この子の魂って記憶残してるわよね?』
「あぁ、強い魂だな、前の主君をよっぽど慕っていたんだろうな。」
『そうみたいねぇ、ここまで来ると呪いねぇ。』
アイトネとモートが虚空を見つめながら話す。
「何?今来てる人視てる感じ?」
『えぇ、チハルが前の聖女の生まれ変わりだと思ってるわねこの子。』
「は?私の聖女ってアイトネの後付けじゃん?」
『言い方ぁ~、まぁそうだけどぉ。』
「千春って私が産む前って聖女だったの?」
春恵は不思議に思い、アイトネに問いかける。
『違うみたいよぉ?何世代も前は私でも追えないわ、モートわかる?』
「いや、これと言って特殊な魂でもないからな。」
「普通って事だよね?」
千春は気にせずおはぎに齧り付く。
『向こうが特殊なのよねぇ、ま、話せば納得すると思うわよ、私達もいるし♪』
「んだねぇ~、なんかあったらよろしくぅ~。」
千春達は老騎士が来るまでの~~~んびり和菓子を味わった。
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