千春の誕生日!⑨
「・・・。」
目つきの悪い令嬢は千春を見つめる、千春は次々とお祝いに来る令嬢と話す。
(お父様はチハル王女殿下の礼儀作法を笑えと言いましたけれども・・・笑える所なんてありませんわ。)
暫く令嬢達と話す千春を見ていた目つきの悪い令嬢は、千春に近付く、しかし足を止めまた考える。
(これでは笑いものになんて出来ない・・・ただお祝いを言うだけで終わってしまう、お父様に捨てられてしまうわ。)
俯く令嬢、すると男性が歩いて来る。
「グレイス、大丈夫か?」
グレイスと言った男性は心配そうに声を掛ける、グレイスは男を見つめる。
「お兄様、無理です。」
「だろうな、俺が見ても非の打ち所が無い、話も聞いていたがお手本の様な受け答えだった。」
「どうしたらいいの?」
「・・・どのみち俺達は切り捨てられる運命なんだよ。」
「そうね、ココで王女殿下に不敬を働いて切り捨てられるか、何も出来ず戻ってお父様に捨てられるか・・・。」
「グレイス、お前が逝く時は俺も一緒だ。」
小さな声で2人は話す。
「私が不敬を買えばリアント男爵家も・・・。」
「いや、それは無いだろう、グレイス、お前の母親はもう、それに俺は妾の子、父上からすれば何の価値も無い人間だ。」
「逃げる事は出来ないの?」
「・・・もう後がないからな、2人で何処か遠くに逃げるか。」
2人は見つめ合う、そして吹っ切れた様にグレイスは笑みを浮かべる。
「チハル王女殿下にお祝いを申し上げてきますわ。」
「あぁ。」
グレイスはそう言うと千春の方を見る、丁度挨拶が終わり、次の貴族も居なかった。
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「ふぅ。」
「千春、途中棒読みだったよ。」
一息ついた千春に頼子がクスクス笑いながら言う。
「しょーがないじゃーん、アルデアの言う事オウム返ししてるだけだもん。」
「はい、チハル、喉乾いたでしょう。」
「ありがとうサフィー。」
受け取った果実水を千春はクピクピと飲み喉を潤す。
「チハル様、もうお一人来ましたわ。」
フランシスが声を掛ける、千春はフランシスの見ている方に向くと令嬢が近づいて来た。
「おぉ・・・ないすばでぃ。」
「目力強っ!」
「ばいーんばいーんだ。」
モデルの様に歩く姿を美桜や麗奈、青空達が賞賛する。
『チハル、例の令嬢よ。』
「うぃっす了解。」
『少し事情が変わったみたいなのよねぇ。』
「へ?」
千春が変な声で返事をするタイミングで令嬢が礼をする。
「チハル王女殿下、誕生日おめでとうございます。」
令嬢はそう言うと自己紹介をする。
「リアント男爵家、グレイス・リアントで御座います、お見知りおきを。」
ニッコリと笑みを浮かべながら挨拶をするグレイス。
「ありがとう、グレイス・・・大丈夫?」
千春はグレイスの目が潤んでいる事に気付く。
「あ・・・大丈夫で御座います。」
千春はアイテムボックスから可愛いハンカチを取り出すとグレイスに渡す。
「使って?」
「申し訳ありません。」
「・・・大丈夫?話しきこか?」
「え?」
「色々大変そうだから。」
「え?」
「ほら、お父さんから色々命令されてたんでしょ?」
「え!?なぜ!?」
「そこは色々ありまして?どう?話聞くよ?」
「・・・。」
千春の思いもよらない言葉にグレイスは言葉に詰まる。
「サフィー、お茶会ってまだ居ないとダメ?」
「いえ、チハルが退室するのはいつでも問題ありませんよ。」
サフィーナに確認しているとアルデアから声が掛かる。
『チハル、メグが応接間に来なさいって言ってるわよ~♪』
千春はアルデアを見ると、メグが立ち上がり微笑んでいた。
「おっけ、グレイス付いて来て、フランちゃん達は私の部屋に行っててくれる?」
「え?良いのですか?」
「うん、この後パーティーするから!」
「分りました。」
フランシスはテールキとヤーテを連れ一歩下がる。
「ヨリ・・・いくよ?」
頼子達は千春のやり取りを気にせずケーキをパクパク食べていた。
「もう行くの?」
「えー、まだこれ食べて無ーい。」
「そんなに食べたらパーティーで食べれなくなるよー?」
「あ、そうだあっちでも食べれるんだった。」
頼子達はそう言うと皿に乗っている物をパクっと口に入れモゴモゴとしながら千春に付いて行く。
「チハル王女殿下!」
「なに?」
「・・・あの、兄も宜しいですか?」
「お兄さん?」
千春は後ろを向く、するとグレイスを心配そうに見ている男性と目が合う、千春は手の平をちょいちょいと動かし男性を呼ぶ、男性は小走りでグレイスの横まで来ると頭を下げる。
「グレイスが何かされましたでしょうか。」
「ん、なにもしてないよー、ちょ~っとお話したいから場所変えるだけ、お兄さんも付いて来てくれる?」
「はっ。」
兄は頭を下げると千春達に付いて行く。
「さぁいらっしゃい。」
マルグリットの所まで来ると、エリーナが先頭を歩きホールを出る、そして豪華な部屋へと案内される。
「ここ初めてだー。」
「そうでしょうね、貴族同士の商談に使われる部屋よ。」
マルグリットは千春に答えると、グレイスと兄をソファーに促す。
「マルグリット王妃殿下、失礼致します。」
男性はそう言うとグレイスを座らせ自分も座る。
「アルデア、どうなってるかしら?」
「メグの指示通りコーブル伯爵とリアント男爵は例の部屋に招いてるわ。」
「そう。」
マルグリットとアルデアの会話を聞き2人は目を見開く。
「王妃殿下・・・チハル王女殿下、あの・・・。」
「何処まで知っているか・・・かしら?」
「・・・はい。」
「全てよ、コーブルはもう決定だけれど、リアントの方はどうしようかしら。」
「お母様、どうしようって何ですか?」
千春は何の話か見えず問いかける。
「んー、美味しいワインを出してあげるかどうか考えているのよ。」
それを聞いたグレイスと男性は顔が青くなる。
「あなたは確かダニオだったかしら。」
「はい、ダニオ・リアントで御座います。」
「2人とも夫人の子では無かったわね。」
「はい。」
「はい。」
「グレイス、リアントにワインを出すわよ?」
笑みが消え、マルグリットは2人に言う。
「はい。」
「構いません。」
2人は頷き答える。
「アルデア、伝えてくれる?」
マルグリットが言うとアルデアは頷く。
「えーっとぉ・・・何?」
「チハルは気にしなくて良いのよ、今全て終わったわ、リアント家の方は国王陛下が追って連絡します。」
「王妃殿下、取り潰しでは無いのですか?」
「最近ねぇ、王国預かりの領が増えすぎてるのよ、ダニオ、あなた嫡子でしょう?一応。」
「・・・長男ではありますが、母上の実子が。」
「それは別に問題無いわ、国王陛下がお決めになる事よ。」
「おかあさまー。」
「何?」
「話がなーーーーんにも見えませーん。」
「フフッ、この子達は自由になったって事よ。」
「おー!それは良かったです!」
何もわかっていない千春は嬉しそうに声を上げる。
「チハル、もうこっちは終わり、部屋に戻って良いわよ。」
「はい?そうなんです?」
「えぇ。」
「それじゃグレイスちゃん一緒に行こ!」
「え!?」
「話聞くって言ったじゃーん♪」
「あの、もう・・・。」
「良いから良いから!さ、ヨリ行こ!」
「そだね、ドレス脱ぎたいし。」
「うちもー。」
「えっと、おにいちゃん、名前何でしたっけ。」
「ダニオで御座います、王女殿下。」
「チハルでいいよぉ、おにいちゃんも行こっ!」
ダニオはオロオロとしながらマルグリットを見る、マルグリットは笑顔で頷く。
「さー!ここからが本番だぞー!」
頼子が楽しそうに声を上げる。
「チハル!楽しみにしててよね!」
「ウチらのサプライズ楽しみにしててくれー!」
「ミオ!サプライズって言ったらサプライズにならない!」
「あ!チハル今の無し!」
「あははははは!!!!」
JK達はどうしたら良いか分からないグレイスの手を引き千春の部屋に戻って行った。
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