おでん!
「え~っと後はっと。」
千春が自室の厨房で猪肉とマンドラゴラを煮込みつつ横の大鍋に具を入れて行く。
「あとは落とし蓋して煮込むんですね。」
「そ、ルプ達が狩って来た猪も、煮込めば柔らかくなるからね。」
角煮大根ならぬ角煮マンドラゴラを煮込みながらマンドラゴラの輪切りを面取りする。
「なんで角を取るんですか?」
「煮崩れしないようにするのと味をしみ込ませる為だよ。」
「へぇ~~~・・・煮崩れ?」
一緒に面取りをするモリアンがコテンと首を傾げる。
「煮ると角が削れたりするんだよ、こうすると崩れにくくなるの。」
面取りしたマンドラゴラを大鍋に並べて行く。
「チハル、すじ肉はこんな感じで良い?」
「うん、アキレス腱は串に刺しておいてね。」
サフィーナとサリナは高級肉のブラックホーンブルを解体した時に出た筋や腱を鍋に入れている。
「チハル様!玉子出来ましたニャー!」
「はーい、マクリゆで卵は少しヒビを入れて冷たい水に入れて殻剥いてくれる?」
「了解しましたニャ!」
マクリは元気よく返事をするとボウルに水を張り茹で玉子を冷やす。
「あとはっと・・・お、帰って来たね。」
スマホを見ながら千春は扉を通り日本に戻ると玄関を開ける。
「おかえりー。」
「ただいまー、これでいい?」
「うん、さんきゅ!これは流石にあっちには無いからねー。」
買い物袋に入ったコンニャクを手に取りながら言うと、2人はまた異世界に移動する。
「おぉー、だいぶ出来たねー。」
「でしょぉー、それじゃコンニャクを切りまっしょい。」
「あ、それ私がするわ。」
「おっけーヨリよろしくー。」
袋に入った他の材料を取り出し、袋を開け切っていく千春。
「はんぺんと、ちくわ、この巾着はなに?」
「餅~♪」
「厚揚げと・・・ヨリ買いすぎじゃない?」
「いや、絶対足んないって。」
「でもコレ入らないよ?」
「もう一個鍋出せば良いじゃん。」
「・・・せやな。」
「おでんの素は多めに買って来たから。」
「うぃーっす。」
サフィーナがさらに大きな鍋を別のコンロに置くと魔法で水を出しそのままお湯にする。
「魔法便利だねぇ。」
「うん、この量の水沸騰させるだけでどんだけ時間掛かる事やら。」
手を動かしつつ千春と頼子はサフィーナがサクサクと準備をするのを見る。
「・・・ヨリ、このソーセージと餃子は何?」
「ん?おでんの材料だよ。」
「うっそん。」
「いや、美味しいから。」
「マジで?まぁいいや。」
そう言いつつ千春は大きなタコ足のブツ切りを串に刺し入れる。
「え?タコ?」
「そだよ、タコ串。」
「タコ美味しそうだね。」
「って言うかおでんって何入れても良い感無い?」
「練り物は何でも入れて良い気はするね。」
次々と材料を切り、串を指し入れて行くと、二つ目の大鍋も大量の具で埋まった。
「よし、あとは煮るだけだね。」
グツグツと煮るおでんを見ながら千春は満足そうに言う。
「他に何か作らないの?」
「他?例えば?」
「大根料理ならブリ大根!」
「角煮作ってるよ?」
「ちっちっち、ちゃうねん。」
「まぁブリっぽい魚は有るけど、コンロがなぁ。」
大鍋と角煮に占領されたコンロを見る2人。
「卓上コンロならありますよ?」
モリアンはそう言うと棚から魔導コンロを取り出す。
「んじゃブリ大根・・・いやブリマンドラゴラも作りますか。」
千春は鰤に似た大きな魚を取り出すと包丁を入れる。
「凄いよね、魚捌ける女子高生。」
「やってたらヨリも出来るよ。」
「いや、そもそもやらないからさ。」
「覚えたらー?アリンに料理作ってあげるんでしょ?」
「・・・まぁねぇ。」
魚を捌く千春を見ながらマンドラゴラの皮をピーラーで落とす頼子、そしてあとは煮込むだけになり、皆は火の番をモリアンとサリナに任せ応接間で寛ぐ。
「良い匂いね。」
千春の所へマルグリットが顔を出す。
「はい、ちょっと変わった材料採って来たので料理してました。」
「マンドラゴラでしょ?」
「はい。」
「叫び声凄かったでしょ。」
「うるさかったです。」
「それにしても良い匂いね。」
「はい、今日の料理は全部マンドラゴラ使ってますから、お母様も食べます?」
「良いの?」
「はい、すっごい沢山採って来たので!」
「そう、それじゃ今日はここで夕食頂こうかしら。」
マルグリットは千春に微笑みかけるとエリーナに伝言する。
「ユラは今何してます?」
「フィンレーと勉強してたと思うわよ?」
「ラルカ、ユラとフィンレー呼んできてくれる?」
「了解しました!」
ラルカは兎耳をピコンと立て返事をするとあっという間に消えて行った。
「あとは今日頑張ってくれたルプ達に。」
先ほど届いた酒をテーブルに置く。
「ほい、今日は日本酒と焼酎ね。」
「ほぉ、おでんに日本酒と焼酎か。」
「うん、お店の人におでんに合うお酒頼んだから合うと思うよ。」
そう言うとルプ達は酒を取り自分達のテーブルに並べる、暫くするとユラが第三王子のフィンレーと一緒に訪れる。
「チハルおねえちゃん来たー!」
「チハルお姉さまお呼びですか?」
「いらっしゃい、あっちの料理を作ったから一緒に食べない?」
「たべる!」
「頂きます!」
2人は微笑み合い嬉しそうに答える、そしてエンハルト、第二王子のライリー、アリンハンドも呼ばれ、呼んでいないエイダンが寂しそうに訪れる。
「チハル、儂の事忘れておらんか?」
「・・・いえ!忘れてません!」
「そうか?」
「お父様忙しくないんですか?」
「・・・忙しいんじゃが、飯くらい食えるぞ?」
「デスヨネー、あ、美味しいお酒も有りますから!」
決して忘れていたと言わない千春は機嫌を取るように席に促し酒を置く。
「チハル様マンドラゴラも良い感じに煮込まれたようですよ。」
サリナが声を掛けて来ると千春は厨房に行き味見をする。
「・・・んっまい!」
「私が火の番しましたから!」
「うん、そうだね、ありがとモリー。」
「これどうやって運びます?」
「重いよねコレ。」
「あと熱いです。」
千春とモリアンが話をしているとロイロがひょっこりと現れる。
「チハル、知り合い連れて来たぞ・・・何しておるんじゃ?」
「あ、ロイロお帰り、これどうやって運ぼうかって話してたの。」
「儂が運んでやるわ。」
熱い鍋でも気にせず素手でひょいと持ち上げると応接間のテーブルに運ぶロイロ、千春は一緒に部屋を移動すると2人のお客が立っていた。
「あれ?ユーリン、シャルル、どうしたの?」
「やほーチハルちゃん、今日マンドラゴラ採りまくったでしょー、街で噂になってたよー。」
「商人達がすっごい話してました。」
「あははは、よく私ってわかったね。」
「そりゃぁこんなに噂になる事、チハルちゃんに決まってるもん。」
「うんうん、うちの男連中も速攻で言ってたよね。」
「失礼な・・・まぁ当たりなんだけど、2人もご飯食べてく?」
「う~ん、そうしたいけど・・・。」
チラリと周りを見渡すユーリン、そこには王族が勢揃いしている。
「あ、お父様達は気にしなくていいよ、一緒に食べよう。」
「そ、そう?それじゃ・・・頂きます~♪」
ユーリンとシャルルはそう言うと王族とは別のテーブルにこっそり座る。
「チハル、並べたぞ。」
「ありがと、それじゃサフィー、エリーナさん、お父様達にお願いしていい?」
「了解しました。」
「お任せください。」
配膳を任せた千春は頼子とユーリン達のテーブルに座る。
「さ、頂きましょうかねぇ~♪」
「美味しそうだねー。」
「チハルちゃんこれ何て料理なの?」
「初めて見る料理ね。」
「これはおでんだよ。」
「おでん?」
「おでん・・・意味は?」
「知らない、美味けりゃ良いのよ、さ、食べるよ!」
小分けにした鍋にいくつかの具を入れテーブルに置くと皆がそれぞれ具を取る。
「やっぱ最初はマンドラゴラだね。」
「そりゃそうでしょ。」
「マンドラゴラが沢山だわ。」
「贅沢な料理ね。」
「それじゃいただきまーす!」
「いただきまーす!」
「「いただきます。」」
他のテーブルでもいただきますと声が飛び交い食事が始まる。
「うっま!身が詰まった大根って感じだね。」
「うん、でも瑞々しさあるし味が凄い詰まってる感あるね。」
「ん~美味しい!」
「この汁が美味しいわ。」
マンドラゴラを食べると次は厚揚げやコンニャクと次々に食べられていく。
「サフィー、侍女達の分取り分けてる?(ボソッ)」
「大丈夫です、別の鍋に人数分確保してます。(ボソッ)」
千春が言うと勿論ですと言わんばかりの笑みを浮かべサフィーナが答える。
((・・・・・・・・・・・・・。))
「やべ。」
「ん?どした?千春」
「いや、ちょっと気配を感じまして。」
「あー・・・アイトネ様?」
『よんだーーーー!?!??!?』
「やっぱヨリ聖女じゃん?」
「呼んでないし!」
『呼んでよ!』
「はいはい、食べる?」
『勿論!』
そしてアイトネも同じテーブルに座り角煮やおでんを味わった。
「うん、やっぱ寒い時はおでんだね。」
「だねぇ、あったまるわぁ。」
「チハルちゃん、このスープの作り方わかる?」
「うんうん、知りたい!教えて欲しいわ!」
「わかるよー、後でメモあげるね。」
調味料を聞き出したユーリンとシャルルは千春と頼子からさらに聞き出した『移動式おでん屋台』と言う物を、某ギルドの者を使いジブラロール王国に普及させるのだった。
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