温泉入ったらコレだよねぇ!

「いらっしゃいませー♪」

 女性従業員がパタパタと小走りで玄関に移動すると、マルグリットやマリーナ、ティスケリー達が入って来る。


「どう?チハル、温泉旅館の出来は。」

「はい、凄いですねぇ。」

「フフッ、メイソンやダーサンが張り切っていたもの。」

「ギルマスさん達、力入れすぎですよ、日本でもこんな立派な温泉旅館見つける方が難しいです。」

 あはははと笑いながら千春が答えると、後ろからヒョコっと顔を出すユラ。


「チハルおねえちゃん来た!」

「ユラも来たの?」

「うん!レンちゃんも!」

 ユラの後ろからまたもやヒョコっと顔を出すイーレン。


「お呼ばれしました、よろしくおねがいいたします。」

 たどたどしく挨拶をするイーレン、その後ろにはイーレンの執事と思われる男性が荷物を持っている。


「チハル王女殿下、こちらはゴールマン家からの差し入れで御座います。」

 千春はそう言われ差し出されたカゴを受け取る。


「有難うございます。」

「なにそれ千春。」

「・・・酒ぇぇ。」

「ロイロちゃん達行きだねぇ。」

「あら、チハル、ゴールマン家の領都で作るワインは絶品なのよ?」

「そうなんです?・・・って呑まないもんなぁ、ヨリ呑む?」

「んー、味見程度に付き合うかなぁ、千春薄めて呑んだら?」

「スプリッツァーって奴かな、お父さんが言ってた気がするなぁ。」

 千春と頼子はそう言うと、アイテムボックスに入れる。


「それじゃぁ案内してもらおうかしら。」

 マルグリットは女性従業員に声を掛けると部屋へ案内される。


「チハルおねえちゃん今日ここにとまるの?」

「そだよー、ユラとレンちゃんも泊まる?」

「とまるー!」

「はい!おとまりさせていただきます!」

 笑顔でピョンピョンと飛び跳ねながら言う2人に千春と頼子は笑みを浮かべる。


「チハル待たせたかのぅ。」

「ロイロいらっしゃい、遅かったね。」

「うむ、疲れた方が酒も旨かろうと思ってのぅ、範囲を広げて王都の周りを飛んで来たんじゃ。」

「で、疲れた?」

「いや、よく考えたらこれくらいで疲れる体じゃなかったわい。」

 ロイロはそう言いながら宿に入ってくる、そして後ろからルプも狼の姿でノシノシと入って来る。


「こりゃぁ良く出来た宿だなぁ。」

「凄いばい、日本家屋やん。」

「いらっしゃいルプ、ビェリー。」

「千春お土産あるぞ。」

「え!?なになに!?」

「魔物狩って来た、ビェリーに出させるがどうする?」

「・・・いらない、ヨリあげる。」

「いらない、厨房の料理人に渡したら?」

「ふむ、そうするか、ビェリー行くぞ。」

「うぃー。」

 ルプに乗ったままビェリーは返事をすると、そのまま中へ入って行った。


「揃ったっぽいね、あ、私達の部屋って何処になるのかな。」

 千春が言うと、他の従業員が声を掛けて来る。


「チハル王女殿下のお部屋はサクラで御座います。」

「あー最初に入った部屋か、ユラはどっちで寝るの?」

「チハルおねえちゃんといっしょ!」

「私もいっしょにおねがいします。」

「おっけ~、それじゃ着替えて温泉入ろう!すっごいよ~♪」

 千春は皆を連れ部屋に入る、そして部屋に有る浴衣に着替えると温泉に向かう。


「たのしみー!」

 ユラはイーレンと一緒にスキップしながら付いて来る。


「はーい浴室は滑るからスキップしちゃだめだよー。」

「「はーい!」」

 4人で浴室の前に到着すると立ち止まる。


「さて・・・混浴いくかぁ。」

「一番広いし外の庭も綺麗だもんね。」

「しれっと露天風呂もあるからねぇ、よく作ったよねこんな街中に。」

 そう言って入ると脱衣所にはマルグリットの侍女、エリーナとアルベルが立っていた。


「あれ?お母様達入ってます?」

「はい、御入浴中で御座います。」

「あー、それじゃ女性用の所入るかぁ。」

「いえ、チハル王女殿下が来られたら入る様に言われております。」

「・・・はい、それじゃ入ります~。」

 4人は服を脱ぐと中に入る、中にはマルグリット、マリーナ、ティスケリー、そして何故かヴァンパイアのアルデアも湯に浸かっていた。


「いらっしゃい先に入ってるわよ。」

「はーい・・・なんでアルデア居るの?」

「散歩してたら見えたから。」

「散歩して見える所じゃないでしょ。」

 千春が言うとアルデアは外を指さしながら空の散歩をしていたと答える。


「まぁいいけどねぇ、ユラ洗うよー。」

 ユラ達と体を洗い流し、露天風呂の方へ合流し湯船に浸かる。


「あ゛~~~~~~。」

「んぁぁぁぁ~~~~。」

「チハル、ヨリ、もう少し可愛い声出しなさいな。」

 マルグリットは小言の様に言う、しかし顔は笑みを浮かべている。


「チハル!アレはあるかぁ!」

 ロイロは真っ裸の姿で浴室に来るなり声を掛けてくる。


「はいはい、あるよー、先に体洗いなよー。」

「汚れてないぞ?」

「だーめ、温泉のルールで~す。」

「しょうがないのぅ。」

 ロイロはブツブツと言いながらも体を洗い、律儀に髪も洗う。


「チハルお酒?」

「そうです、温泉には日本酒らしいので、大吟醸の良いヤツ持ってきました。」

 千春はそう言うと日本酒と升を取り出す。


「コレは何?」

「マスって言うグラスの代わりですね。」

「この木で出来た入れ物で呑むの?」

「そうです、ヒノキって言う木で作るんですけど、こっちっぽい素材で作ってます。」

「・・・もしかしてアレ?」

「多分そのアレです、資材で使った余り物の木でダーサンに作ってもらいました、升は縁起物なんですよ。」

 世界樹の木で出来た升をお盆に乗せ一升瓶の酒をトクトクと注いでいく。


「はい、どうぞ。」

「チハル!洗ったぞ!」

「はい、ロイロも。」

「おぉ?なんじゃこれは。」

「日本のコップだよ。」

 升に注ぐと皆は酒に口を付ける。


「・・・うんまい!」

「美味しいわね、ちょっと飲み難いけど。」

「良いじゃない?これはこれで楽しいわ。」

「・・・・美味しいわぁ。」

 ロイロやマルグリット達は楽しそうに酒を呑む。


「千春!酒くれ!」

「酒がないっちゃ!」

 急に入口から声が聞こえる、ルプ達が入ってきたようだ。


「あ、忘れてたわ。」

「もうこっちで飲んでもらいなさい。」

「え!ルプ達男ですよ!」

「混浴って聞いてるわよ?ココ。」

「良いんですか!?」

「人間じゃ無いでしょう、神側の聖獣・・・神獣でしょう?」

「まぁ括り的にはそうですけどねぇ。」

 飲兵衛のイメージが大きい千春はルプ達に声を掛けると入って来る。


「もう飲んでるじゃねぇか。」

「升酒やん、風情あるやーん。」

「一緒に入って良いってさ、体洗って入りなー。」

「俺は面倒だから洗浄魔法掛けてもらう。」

 ルプはそう言うと脱衣所に待機しているサフィーナに魔法を掛けてもらう、ビェリーは子供の姿になり体をチャチャッと洗い出す。


「あらったばい!」

「千春俺もにくれ。」

「自分で注ぎなー。」

 千春は一升瓶を渡すと湯船の宴会が始まる、広い露天風呂とは言え人も増え酒臭いと、ユラ達を連れ中の風呂に戻る。


「倒れなきゃ良いけどねぇ。」

「大丈夫じゃん?人間って一人しか居ないし。」

「・・・お母様だけじゃん人間、大丈夫かな。」

 のんびり湯に浸かり4人は風呂から上がる、そして体を拭き浴衣に着替えると休憩所へ移動した。


「はい、ユラ、レンちゃん。」

 千晴がアイテムボックスから瓶を取り出す。


「わかってんねぇ千春。」

「温泉って言ったらコレっしょ。」

 そう言うとテーブルに牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳を並べる。


「私コーヒー牛乳♪」

 千春は茶色い瓶を手に取る。


「ユラとレンちゃんはこっちね。」

 頼子はフルーツ牛乳を2人に渡す、そして牛乳を手に取ると蓋をパコっと開ける。


「ユラちゃん、レンちゃん、飲むときはこうね。」

 頼子は左手を腰に当て牛乳をグビグビと一気に飲む。


「っぷはぁぁあ!!!うめえ!」

「ッぷはぁ、やっぱコーヒー牛乳だわ。」

 千春も同じ様に腰に手を当て一気飲みする。


「こう?」

「こうかな。」

 ユラとイーレンも腰に手を当て真似をしながらグビグビと飲む。


「おいしぃ!」

「うんうんおいしぃ!」

「でしょう、まだあるからね、後でまた温泉入ったら飲もうね。」

「また入るの?」

「もうきれいになりましたよ?」

「チッチッチ、温泉は何度も入るんだよ、こういう宿の時はね。」

「千春、別に何度も入らなくても良いじゃん、湯あたりするよ?」

 頼子はクスクス笑いながら言う、すると入口の方から声が聞こえた。


「ん?お客?」

「いや、全員来たっしょ?」

 女性従業員がパタパタと急いで入口に行くと千春達にも声が聞こえた。


「ルプ様ぁ!いらっしゃるのですかぁ!」

「あ、ルクレツィアさんの声だ。」

 声を聞き頼子が反応する。


「あー、訓練終わった感じかな。」

「訓練してんの?」

「うん、一応軍の方に籍置いたらしいから、訓練させないとずっとルプにくっついてるらしいよ。」

 千春達は入口に行くと、女性従業員に止められていたルクレツィアが千春を見る。


「チハルちゃん!ルプ様は!?」

「温泉入ってるよー。」

「私も!私も!」

「はいはい、関係者なので入れてあげてください。」

 千春が言うと、従業員は一歩下がる、そしてルクレツィアは温泉の方へ一目散に走って行った。


「良いの?」

「大丈夫だよ、中にお母様居るし、多分怒られるだろうけど。」

 そしてのんびり休憩し、ユラとイーレンを連れ温泉旅館を案内する千春、混浴浴場の方ではまだ声が聞こえ覗くと、脱衣所で正座させられたルクレツィアが悲しそうに千春を見上げていた。


「・・・ありゃ、怒られちゃった?」

「・・・・。」

 うんうんと泣きそうな顔で千春を見るルクレツィア。


「お母様、ルクレツィアさん反省してますよー。」

「仕方ないわね、ルクレツィアも入って良いわ、ちゃんと体洗って来なさいよ!」

「あぃ・・・。」

 ルクレツィアの仲裁をし、千春達は部屋に戻り食事の時間になるまで部屋でトランプ大会で楽しんだ。





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