温泉旅館を探索だぁ!

「ひゅ~♪」

「すっご!違和感バリバリじゃん!」

 千春と頼子は貴族街と市井の境目にある温泉旅館を目の前にして声を上げる。


「千春これどうやったの?」

 頼子は日本建築の温泉旅館を見ながら問いかける。


「温泉マップの雑誌をダーサンに渡したら・・・こうなった。」

「そりゃ温泉旅館は日本建築多いもんねぇ、でも瓦とかどうしたのコレ、日本から持ってきた?」

「いや、多分ダーサンが見様見真似で作ったんだと思うよ。」

 屋根には立派な瓦と飾り瓦までもが忠実に再現され、誰がどう見ても日本の温泉旅館だ。


「チハル王女殿下、いらっしゃいませ。」

 日本の旅館に居そうな服を着た女性従業員が出迎える。


「・・・えー、制服まで作ったの?!」

 頼子は千春に聞くと、千春は横に首を振る。


「いや、知らない、これも多分雑誌で見て作ってるわ。

「マジか、徹底したなぁ。」

 千春と頼子、そして後ろからはサフィーナとサリナが付いて来る、モリアンとラルカはマルグリット王妃と後から来る事になっている。


「え~っと、見て回っても大丈夫ですか?」

「はい、施設はすべて出来上がっておりますので。」

「それじゃ近い所から。」

「はい、ご案内しますね。」

 入口を入ると玄関では靴を脱ぎスリッパに履き替える。


「おぉぉぉぉぉ、土足じゃない!」

「はい、生産ギルド長のダーサン様、商業ギルド長のメイソン様より、こういう仕様にさせて頂いております。」

「やるねギルマス達。」

 4人は靴を脱ぐとスリッパに履き替え、ペタペタと歩きながら廊下を歩く。


「ん~普通に廊下も板張りだね。」

「頭パニくるね。」

「ね、しかも新築っていうね。」

 普通の日本の旅館を見て回るように歩いてると、ふと気づく。


「千春。」

「なに?」

「この窓さ。」

「うん。」

「ガラスじゃん?」

「うん、ガラスだね。」

「こっちあんまり見ないよね。」

「あ!なんでこんな透明な板ガラスあんの!?」

「こちらは最新技術を使った加工ガラスでございます。」

「最新・・・。」

「千春コレって。」

「うん、多分お父さんだわ。」

 呆れるように呟く千春、千春の父大樹が宰相と進めている技術の一つにガラス加工が有った。


「こちらが宿泊出来るお部屋になります。」

 一つの部屋に案内され千春達は扉の前に立ち止まる。


「この板は何て書いてるの?」

 入口の前に小さな板が有り、文字が掛かれている。


「これはサクラと書かれていますね。」

「他の部屋は?」

「ツバキやフジ、ウメ等で御座います。」

「めっちゃ日本の花じゃん。」

「えー花の名前なんて教えてないけどなぁ。」

「いや・・・教えてるわ。」

「え?!いつ!?」

 千春が驚くと、頼子が説明する。


「たしか雑誌じゃないけど、絵と文字を書き写した紙見せられて翻訳した覚えある。」

「あー、それ多分雑誌から書き写して聞いたんだね。」

「多分ね~。」

 2人は扉を開けると、畳が敷かれた部屋が現れる。


「再現度高っ!!!!」

「もう日本じゃんwwwww」

 座敷になった部屋を見る千春、窓から見える庭には日本庭園を真似したのだろう、普通に日本の庭が見える。


「何処まで再現してんのコレ!」

「いや、もう雑誌の写真完全再現してんね。」

「力入れすぎじゃん?」

 2人は部屋を見て回ると、ふと頼子が首を傾げる。


「どしたん?ヨリ。」

「何か・・・なんだろう、足りない気がする。」

「あー、なんだろうね、私もちょっと思った。」

「「んーーー・・・・・」」

 2人は部屋の真ん中で部屋を見回しながら考える。


「あ!」

「なに!?」

「テレビが無い!」

「あ!それだ!!!!」

 テーブルに座布団、そして庭があり、障子まで再現された旅館の部屋にはテレビが無かった。


「うん、まぁあったら逆にビックリだわ。」

「いや、ダーサンなら意味が分からなくても作ってたかもしんない。」

「映らないけどね。」

「そりゃ放送無いからねぇ。」

 ケラケラと笑いながら千春達は部屋を出ると、次々に部屋を見て回る。


「うん、もう文句なしの完全再現。」

「次は?」

「こちらで御座います。」

 女性従業員はそう言うと漢字で『男』『女』と書かれた暖簾を指す。


「・・・漢字かい。」

「風情は有る!」

「まぁそりゃそうだろうけど、すみませんこれ意味わかります?」

「はい、こちらが男性用の浴室、こちらが女性用の浴室、そしてこちらが・・・。」

 女性従業員が指したもう一つの入り口を皆は見る。


「混浴で御座います。」

「・・・混浴あるんかぁぁい!!!!!」

「千春、行く?」

「やめてよ、誰か入ってきたら困るじゃん!」

「チハル王女殿下、まだ開店しておりませんので、数日は貸し切りで御座います、誰も入って来る事は御座いません。」

「・・・よし、今日は混浴行こう。」

「そだね、今入らなかったら入るタイミング無いわ。」

 千春と頼子は目を合わせると、ウンウンと言いながら話す、そして浴室に入ると脱衣所が広く取られており、扉を開けるとお湯がたっぷりと入った大きな浴槽が目に入る。


「うはー、完全再現がココにも!」

「千春これヒノキ風呂?」

「んにゃ、コレ内緒なんだけどさ、世界樹の木使ってんだよ。」

「はぁ!?どっから持ってきたの!?」

「そりゃ妖精の里から。」

「よく貰えたねそんなの。」

「最初はトレントの予定だったんだけどさー、高級感欲しいじゃん、ドライアドさんに言ったら折れた枝くれたんだよ、枝じゃなく大木だったけどさ。」

 ケラケラ笑いながら頼子に説明する、女性従業員も知らなかったようで目を見開いていた。


「あなた、この事は秘密にしておきなさいね。」

 サフィーナはポツリと従業員に言うと、従業員はコクコクと頭を縦に振る。


「チハル、それは言わない方が良いわ。」

「・・・うん、気を付ける。」

 サフィーナはコレは直ぐにバレるなと確信を持ちつつも微笑む、しかし少しだけ笑みが固かった、そして次に案内されたのは厨房だ。


「広い!」

 王宮の厨房までは大きく無いが、かなりの広さを確保し、動きやすい厨房になっている。


「厨房はルノアー様、シャリー様の監修でデザインされたとお聞きしております。」

「へー、シャリーちゃんも関わってるのかぁ。」

「デザートを作る為の厨房が別にありますので。」

「マジか、やるなシャリーちゃん。」

 千春は厨房に入り、大きな冷蔵庫を開ける。


「ほぉぅ♪色々入ってるぅ~♪」

「もう料理出来るくらい準備されてるね。」

「そちらの食材は先ほど搬入されました、本日の料理で使われるそうです。」

「・・・多くね?」

「・・・いや、今日誰が止まるんだっけ?」

「・・・ウンディーネとクジラとリヴァイアサンか。」

 千春は昼に食べた天丼を思い出しながら3人の食べっぷりも思い浮かべる。


「ルノアー様が持ち込まれましたので。」

「うん、ルノアーさんは見てるからね、あの3人の食べっぷり。」

「ほら、ロイロちゃんとかルプ君も居るじゃん。」

「あの人達はむしろ呑むじゃん。」

「あ、お酒でしたらこちらです。」

 女性従業員はそう言うと、酒蔵になっているもう一つの部屋へ案内する。


「こちらがジブラロール産のお酒で御座います。」

 そう言って扉を開けると、ひんやりとした空気が流れる。


「すげぇ、ワイン倉庫?」

「コレはヤバい、あいつらに見せれない。」

 驚く頼子と、のん兵衛達を思い出す千春、扉の奥には、ウォークインクローゼットと言うには広すぎるほどの部屋が有り、ワインが樽ごと、そして大樹と宰相が新しく作り始めた蒸留酒、そして日本酒モドキまでが並べられていた。


「こちらはジブラロール王国の各領都で作られるワインで御座います、こちらは新しく開発された蒸留酒、ういすきーと言われるお酒で、こちらは米から作られるニホンシュと言う銘柄になります。」

「マジかー・・・。」

「チハルパパヤバいな。」

 呆れながら厨房を出る千春、そして休憩出来る喫茶店の様な所へ案内される。


「こちらは温泉から出た方が御休憩される場所で御座います。」

「へぇ、お茶飲んだり?」

「お酒もご準備出来ます。」

「あ、それは今日来る人達には言わなくて良いから、ここで宴会始めちゃう。」

「了解致しました。」

「それじゃチハルお茶は私が淹れますね。」

 サフィーナとサリナは、喫茶店の厨房に立つとお茶を淹れだす。


「どう?サフィー。」

「使いやすいですね。」

 サフィーナとサリナはオープンになった厨房でお茶を淹れると千春と頼子に出す。


「あとは皆が来るまで暇つぶしだね。」

「チハル王女殿下、遊ぶ所はこちらで御座います。」

 一枚扉を開くとそこには・・・。


「卓球!」

「千春、今時卓球が置いてある温泉宿無いよ。」

「うん、私も見たことない、まぁ温泉宿行って無いけど。」

 2人はそう言いながら卓球台に行くと、簡易に作られたラケットと丸い玉を見つける。


「ピン球じゃないね。」

「流石に絵だけじゃ再現無理でしょ。」

「まぁね~。」

 千春はそう言うとアイテムボックスから卓球セットを取り出す。


「もってるんか~い。」

「100円均一で買ったんだよねー、使う事無かったからいれっぱなしだったけど。」

 2人は卓球セットで卓球を始める、途中からサフィーナとサリナが参戦するが、千春と頼子のやり方を見て覚えた2人は直ぐに千春達を超え、卓球選手かと言わんばかりのラリーを始め、千春と頼子は点数数え係になり勝負を見守った。





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