閑話:ジブラロール王都!①
「ココがジブラロール王都か。」
「やっと着きましたぜ。」
「おめぇがチンタラしてっからだろ、馬にまで逃げられやがって。」
ガラの悪い男2人はジブラロール王国の門をくぐり、大通りを目にしながら話す。
「すいやせん!」
「まぁ良い、まずはギルドに向かうぞ。」
「情報屋はいますかね。」
「そりゃ居るだろ、スラムか酒屋に向かうぞ。」
男2人はそう言うと、目に入る居酒屋に入る。
「ぃらっしゃい!開いてる所に座ってくださいね!」
「お、おう。」
「居酒屋ですよねココ。」
「そう・・・だよな?」
居酒屋の喧騒が聞こえず、にこやかに話をする物達、若い女の子ウェイトレス、酒を呑む物も居るが食事がメインの様に見える。
「旅人の方ですかぁ?」
ウェイトレスは水を持ってテーブルにやって来る。
「お、ぉう、水なんぞ頼んでねぇぞ。」
「あ、これサービスですから!注文が決まったら呼んでくださいね♪」
水を置き、メニューが載っている板を置いて戻るウェイトレス。
「王都の居酒屋はコレが普通なのか?」
「さ、さぁ、自分も初めて王都に来たもんで。」
2人は水を飲みメニューを見る。
「なんだこの水、うめぇな!」
「ほんのり果実の香がしやすね。」
メニューを見れば、普通の串肉や塩漬けも有るが、見た事も聞いた事も無い名前が並んでいる。
「・・・おむらいす?」
「こっちは、はんばーぐ・・・何ですかね?」
「俺に聞くな、値段が高い物もあるな、びーふしちゅーって何だろうな。」
「聞いてみますかい?」
子分的な男はウェイトレスを呼ぶ。
「お嬢ちゃん!」
「は~い♪決まりましたー?」
「初めて見る物ばかりでさぁ、お勧めはあるかい?」
「そうですねー、お腹が空いているなら、このカツ丼とか牛丼がお勧めですね。」
「おぅ、俺はカツドンって奴にするわ。」
「それじゃ自分はギュードンって奴で。」
「は~い!カツ丼、牛丼入りました~♪」
ウェイトレスはそう言うと厨房に戻って行った。
「・・・居ませんね情報屋。」
「そうだな、どの客も飯食ってるばっかりだ。」
男2人は客のテーブルを見回す、情報屋ならばテーブルの角にそれとなく分かる物を置くのが業界のセオリーだ、しかしどの客も食事をするとすぐに店を出て行った。
「カツ丼、牛丼おまちっ!飲み物はいらなかった?」
「あぁ、先に飯を頂くぜ。」
男はテーブルに置かれたカツ丼を見る。
「卵が生じゃねぇか。」
「この卵は今朝取れた新鮮卵だから大丈夫ですよっ!」
にこやかに笑みを浮かべ、ウェイトレスはまた戻って行った。
「まぁ食ってみっか。」
「兄貴、すっげぇ良い匂いだ!」
「うっせぇ、それくらい俺も分かるわ!」
そう言うと2人はスプーンを手に取り、それぞれ丼を口に入れる。
「!?」
「・・・兄貴ぃぃ!」
「うっせぇ!黙って食え!」
兄貴と呼ばれた男は黙々とカツ丼を食べる、子分も牛丼を口にかき込む。
「兄貴・・・。」
「おぅ、嬢ちゃん!」
「はーい!」
「次はギュードンくれ!」
「自分はカツドンで!」
「は~い♪」
男2人は再度注文を入れる、大の男がソワソワと厨房をのぞき込む。
「はーい!お待たせっ!」
「おう!待ってたぜ!」
「こっちも美味そうだ兄貴ぃ!」
「それもうめぇぞ、さて食うか。」
2人は二杯目とは思えない速度で食事を始める、そしてあっという間に食べ終わった。
「かぁぁぁ!美味かった!こりゃ王都に来たかいが有ったぜ!」
「ホントですぜ、こんなうまい物初めて食べました!」
「さて、嬢ちゃん!勘定!」
「は~い、丼4杯で銀貨2枚ですっ!」
「・・・は?間違ってねえか?」
「間違ってませんよー、一杯大銅貨5枚なのでっ!」
「そ、そうか。」
男はそう言うと銀貨を二枚渡し席を立つ。
「あ、そうそう嬢ちゃん、ここら辺のスラムは何処らへんに有るんだい?」
「スラムですか?無いですよ?」
「・・・は?無い!?」
「はい♪夏くらいまでは有ったんですけどね~、無くなりました♪」
「何故だ?スラムの無い街なんぞねぇだろ!?」
「何故と言われてもー、ないんですもん。」
ホッペタを膨らませながらウェイトレスは言う。
「そ、そうか、悪かった、飯美味かったぜ。」
「はい!またよろしくです!」
男は手をプルプルと振ると店を出る。
「兄貴ぃどうするんで?」
「どうするも何も・・・ん~犯罪ギルドが無くなる事はねぇだろ、情報収集だな。」
「でも兄貴、スラムは無い、居酒屋は料理美味い、どするんで?」
「料理が美味いのは別に関係ねぇだろ、やっぱ夜に動くしかねぇか、流石に夜ならその手の者も居るだろ。」
男2人は時間を潰す為に王都を歩いて回った。
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「兄貴、アレ、あれ見てくだせぇ。」
「ん?」
子分が指差す方を見ると、白金の耳をピクピクさせている狐族の少女が居た。
「アレは白金狐族ですぜ!」
「珍しいな、しかも綺麗な服着てるじゃねぇか。」
「どこかの貴族に買われた奴隷っすかね。」
「バカ野郎、奴隷があんな立派な服着るわけねぇだろ、しかし大人が居ねぇな、子供だけで買い物か?」
「かっさらいますか?」
「ん~まずはギルドに顔を出してからと思ってたが、少し稼いで行くか。」
兄貴はそう言うとユラに近づいて行く。
「兄貴どうしました?」
「・・・戻るぞ。」
「え?」
立ち止まり、子分に声を掛けられたが、兄貴は踵を返し人込みに紛れる兄貴、額には汗が流れていた。
「どうしたんでやすか?」
「ヤバい、アレはヤバい。」
「あのガキがですか?ほけ~っとしたガキでしたぜ?」
「違う、何処からか殺気が飛んで来た、あのまま行ったら死んでたぞ。」
「へ?」
スタスタと歩く兄貴は、その場から離れると屋台の椅子に座る。
「なんなんだこの王都は。」
「なにがですかい?」
「何かが違う、いや、全部が違う、他の国やジブラロールの領都とは別もんだ。」
「そうですかい?普通の街にみえますがねぇ。」
屋台の女店主が声を掛けて来る。
「旅人かい?」
「あぁ、さっき王都に着いた。」
「へぇ、飯は食ったかい?」
「食べた、クッソ美味かった。」
それを聞いた女店主は微笑む、女店主が売るフランクフルトを貰い、無料で付け放題と言われたケチャップとマスタードを付け食べる男2人。
「・・・これもうめぇな!」
「美味いっす!」
「そりゃよかった。」
パクパクとフランクフルトを食べる男2人、すると遠くで声が聞こえた。
「お、喧嘩か?」
「まぁ喧嘩くらい普通っしょ。」
「直ぐ収まるよ。」
女店主はそう言いながら上を見ている。
「?」
「どこみてんですかい?」
男2人が上を見ると、小さな黒い影が喧嘩をしている者の所へ飛んで行く。
「なんですかねアレ。」
「ぐ・・・軍隊蜂!?」
「ヤバいっすよ!軍隊蜂がなんで王都にいるんっすか!?」
2人が声をだし、喧嘩をしている者を見ると軍隊蜂が取り囲む。
「・・・襲わない?」
「何もしないっすね。」
「そりゃそうさ、あのまま喧嘩してたら子アミちゃん達に刺されちゃうからねぇ。」
「子アミ?」
「あぁアミちゃんの子だから子アミだよ、王都を警備してくれてるのさ。」
喧嘩が収まると、軍隊蜂は青空へ消えていく、そしてその遥か上をドラゴンが飛んで行く。
「あにきぃ!?ドラゴンですぜぇ!?」
「マジで居やがった、噂は本当だったのかよ。」
「あのドラゴンは竜騎士団だねぇ、王都の周りを見て回った帰りだね。」
女店主はそう言いながら空を見ている。
「あー、姐さん、王都に犯罪ギルドって有るのかい?」
「ん?有るよ。」
「ほう、何処に有るんだい?」
「はっはっは、あんたらやっぱりソッチのモンかい、そうさねぇ、黒竜の涙って飲み屋を探しな。」
「黒竜の涙か、姐さんありがとよ、その肉詰め美味かったぜ。」
兄貴はそう言うと多めに金を払う。
「それで、どこら辺に有るか教えてもらえるかい?」
「ちょっと入り組んでるからねぇ、お、ユーリン!」
道を歩いている冒険者に声を掛ける女店主、ユーリンと呼ばれた女の子は気付いて走って来る。
「なにー?おばちゃー・・ぐはぁ!」
「お姉さんだろ?」
ユーリンは頭にヒットしたジャガイモを手に取り女店主の所に来る。
「なにぃ?おb・・お姉さん。」
「この2人を黒竜の涙に連れて行ってあげな。」
女店主はフランクフルトをユーリンに渡しながら言う。
「別に良いけど、なに?そっちの人なの?」
「あそこに行くんだそう言う事だよ。」
「ふ~ん、付いて来ておじさん。」
「おじ?!俺はこう見えてもまだ30だぞ!?」
「おじさんじゃん、行くよー。」
ユーリンはそう言うと興味なさげにフランクフルトに齧り付きながら歩く。
「・・・行くか。」
「へい。」
男2人はそう言うと、ユーリンの後ろを付いて行く、そして裏道に入ると、何度かの分かれ道を曲がり一軒の店に辿り着く。
「ここだよー。」
ユーリンはそう言うと、扉の前に居る男を無視し扉を開ける。
「こんちゃーい!」
「お、ユーリン、どうした?」
「お客さんだよー。」
「ほ~?入ってもらえ。」
ユーリンは扉の外で止まっている男2人に声を掛ける。
「入って良いよ?」
「お、おう、嬢ちゃん何者だ?」
「ん?冒険者だけど?」
「冒険者ぁ?なんで冒険者が犯罪ギルドと仲良いんだよ!?」
「ん~、ここのボスと仲良いから?」
「ボスの女か。」
兄貴はそう呟くと扉を抜け中へ入る、中には数人の男達が酒を呑んでいた。
「おう、らっしゃい!」
「よく来たな、うぇるかむ王都って奴かぁ?がはははは!」
「何しに来たんだ?ってここに来たって事はギルドに入るつもりか?」
男達はワイワイと話だす。
「あー、まぁそう言う事だ、ボスに合わせてくれるか。」
「ボスかぁそろそろ来るよな?」
「そろそろだなぁ。」
男は壁に掛けられた丸い文字盤の付いた物を見る。
「ん?来たんじゃない?」
ユーリンは風を切る音を耳にし、皆に言う。
「ん?なんじゃぁ、こいつらは。」
「ロイロちゃんに会いたいってさ。」
「ほう?儂に用事か、何の用じゃ。」
ロイロはそう言うと、他よりも綺麗なソファーに腰を落とす、カウンターに居た男は酒を注ぐとテーブルに置く。
「メラディオ国から来た、あっちでやらかし過ぎてな、この国に来たんだがあんたが犯罪ギルドのボスなのか?」
「そうじゃなぁ、一応そう言う事になっとるのぅ。」
「良かったら身を置かせてほしい、あとコイツもついでにな。」
子分を指し言う兄貴はロイロを見る。
「構わんぞ、ジブラロールの籍が居るのぅ、ソダリス、こ奴らの住民登録しといてくれ。」
「はい、了解しました。」
「分からん事が有ればそのソダリスに聞け、儂はこの時間くらいに居るからのぅ。」
「有難うございます、で、俺達は何をしたらいいのですかい?」
「セルフィン今何やっとるんじゃ?」
「そうですなぁ、色々やってますがねぇ、王都を知ってもらう為にまずは屋台で店でも出させましょうか。」
「ま、妥当じゃのぅ、無理はしなくて良いからの、のんびり慣れれば良いじゃろ。」
「は、はぁ、えっと、犯罪ギルドですよね?」
思わず聞き直す兄貴。
「はっはっは、犯罪っちゃー犯罪じゃが、ジブラロール王国の法で出来ない事をしてるだけじゃ、殺しや盗みはせんぞ。」
「それじゃ俺らの金はどうやって・・・。」
「ん?ユーリン、預けてる袋1つ出してくれ。」
「どれ?」
「小さいヤツで良いじゃろ。」
ユーリンはアイテムボックスに手を入れ、小さな巾着袋を取り出す。
「はい。」
「ほれ、おぬしらの給料じゃ、そのまま逃げても構わんが、このギルドで働くなら保障はするぞ。」
ユーリンに巾着を渡され、兄貴は袋を見る。
「・・・金貨じゃねぇですか!」
「それだけあれば暫くは良いじゃろ、しっかり働くんじゃぞ。」
ロイロはそう言うと、グラスに入った酒を呑む。
「あー・・・ユーリン・・・姐さん、どういう事で?」
「んーっと、簡単に言うと、犯罪ギルド自体はもう無いのよねぇ、ただやってる事が法ギリギリアウトな事多いからさ、ちょっと危ない王都自警団だと思ってくれたら良いかな?」
「衛兵に捕まる事は?」
「無いね!さっきの店のおばちゃんも知ってるくらいのギルドだもん。」
「もしお前らが仮にでも捕まったら儂が助けてやる安心するがいいわ。」
ロイロはそう言うとゲラゲラ笑う、ユーリンもつられて笑う、気付けばギルドのメンバーも笑っていた、男2人は放心状態でその光景を見ていた。
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