彩葉ちゃん!

「着いたー!」

「千春元気だねぇ、お父さんクタクタだよ。」

「ビェリーが荷物持ってくれてるからまだマシじゃん。」

「本当にね、ありがとうビェリー君。」

「何ちゃ無いばい。」

 千春は玄関の鍵を開け、家の中に入る。


「ただいまー!」

 誰も居ない部屋に挨拶し靴を脱ぐ、後ろからサフィーナ、エンハルトが入り勝手知ったように部屋に戻ると千春はクローゼットの扉を開ける。


「ただいまー!」

 もう一度声を掛けると、隣の部屋から声が聞こえ扉が開き、門の部屋にモリアンが入って来る。


「おかえなさいませチハルさん!」

「ただいまモリー、何もなかった?」

「はい、いつも通りですねぇ・・・何です?その人形。」

 モリアンは千春が抱えて持つ日本人形を見て問いかける。


「おばぁちゃんに貰ったの。」

 クローゼットを跨ぎ皆を異世界に招きながら話す千春、悪戯っぽい表情をして笑みを浮かべて居る。


「お父さんもちょっとエイダンさんにお土産渡してくるね、ビェリー君、あの地酒出して。」

「ほいほ~い。」

 荷物を受け取ると、大樹は部屋を出て行く。


「モリー、お疲れ様、何もなかったかしら?」

「はい、サフィーさんお疲れ様です、いつも通りでしたよ。」

「いつも通りねぇ、何かやらかしたか?」

 モリアンの言葉にエンハルトが反応する。


「ハルト殿下ひどいですぅ、何もしてませんよ!」

「はっはっは、冗談だよ、半分な、チハル俺は着替えて来る。」

「はーい、ハルトお疲れ様ありがとうね。」

 エンハルトは笑みを浮かべ千春の頭を撫でると部屋を出て行く、笑いながら応接間に入ると頼子が参考書を開いて座っていた。


「おかえりー。」

「ただいまー、ミオ達は?」

「家帰ってるよ、明日ソラとダイアが来るかな、ヒマリはブルーワグ。」

「りょ。」

「何?その人形。」

 千春はテーブルの上に日本人形を座らせながら話す。


「おばぁちゃんに貰ったの、可愛いでしょ。」

「へぇ、結構古い?」

「うん、おばぁちゃんのおばぁちゃんが貰ったって言ってたからね。」

「へぇー、高く売れそう。」

「売らないよ!?」

 頼子は日本人形を見ながら呟く。


「ん?」

「どしたん?」

「いや、この人形今動いた?」

 じーっと日本人形を見て居ると、人形の首がギギギギと言わんばかりに頼子の方へ向く。


「うわぁぁぁ!!!」

 椅子から転げ落ち叫ぶ頼子。


「ヨリ!大丈夫!?」

「動いた!首!くび!」

「予想以上のリアクションあざす。」

「へ?どう言う事?動く人形もらって来たの?」

「うん、この子付喪神なんだよ。」

「マーーージで?呪いの人形じゃなく?」

「呪われてたらルプ達が何かするでしょ。」

「そりゃそうか。」

 人形はニコリと微笑みお辞儀をする。


「いや、怖いって。」

 悲しげな表情になり首を傾げる人形。


「うっ、うん!可愛い!可愛いからそんな顔しないで、ね?」

「そう言う反応になるよねー。」

 笑いながら言う千春、モリアン達もマジマジと人形を見る。


「モリーもそんな反応なんだ。」

「はい?」

「モリーちゃん、ラルカちゃん怖く無いの?」

「いえ、別に?かわいいですねぇ。」

「よく町で人形劇とか見てましたから。」

「こっちの人形劇って人形が動くんだ。」

「流石異世界だね。」


コンコン


「ユラちゃんと王妃殿下が来られましたね。」

 着替え終わったサフィーナはそう言うと扉を開く。


「おかえりなさいチハル。」

「チハルおねえちゃんおかえりなさい!」

「ただいまー。」

「あら、綺麗な人形ね。」

 マルグリットが人形を見て言うと、人形は手を突きお辞儀をする。


「あらあら、誰が動かしてるの?」

「この子自分で動けるんです。」

「自我があるゴーレムなの?」

「ゴーレムでは無いですねぇ、付喪神って言って魂が物に宿るんです。」

「へぇ、凄いわね、よろしくね、えーっと名前は?」

「名前?あなた名前ある?」

 千春は人形に問いかけると、人形は頼子の参考書と並んであるノートに字を書く。


「『彩葉』イロハって言うの?」

 人形はコクリと頷く。


「彩葉ちゃんは話出来ないの?」

「出来ないねー。」

 頼子が聞くと千春が答え、人形も頷く。


「話せるように出来ないかなぁ。」

「ルプ達は分かるらしいよ、ねぇルプ。」

「あぁ、千春に分かりやすく言うならテレパシーってヤツだ。」

「ふむぅ、テレパシーは使えないなぁ。」

「スピーカーに音声出したり出来ないかな。」

「えーどうやって?」

「しらん。」

 頼子はゲラゲラ笑いながら答える。


「困ったときのアイトネェ~♪」

『呼んだ?』

「うん、この子話出来る様に出来ない?」

 千春と頼子はテコテコと歩いてユラの所に居る人形を指差す。


『あら、魂が宿った人形?』

「うん、おばぁちゃんに貰ったの。」

『へぇ、綺麗な魂ね、大事にされてたのね。』

「そう言うのわかるの?」

『分かるわよ、千春が面倒見るの?』

「その予定。」

『そう言う事ならこの子にスキルを付けてあげるわ。』

「イロハちょっとおいでー。」

 彩葉は千春の所にテコテコ歩いてくると、千春に持ち上げられテーブルに座らせられる。


『それじゃ付けるわね~♪』

 アイトネはそう言うと彩葉に触れる。


「(ありがとうございます。)」

「お、聞こえた。」

『大丈夫みたいね。』

「チハル、声が聞こえたわ、この子が話したの?」

 マルグリットが不思議そうに声を掛けて来る。


「はい、アイトネが話出来る様にしてくれました。」

「これはチハルの国の言葉かしら。」

「・・・あ、翻訳道具付けてないじゃん、アイトネテレパシーにも効果ある?」

『無理ね、翻訳できるようにサービスしておくわ♪』

 アイトネはそう言うともう一度彩葉に触れる。


『どうかしら?』

「(どうでしょうか。)」

「聞こえたわ、大丈夫ね。」

「おにんぎょうさんのこえ?」

「そうだよー、イロハちゃんって言うの仲良くしてね。」

「うん!」

 ユラがそう言うと彩葉は嬉しそうにしている。


「アイトネ、スキルってテレパシーのスキル?」

『チハルの世界の言葉で分かりやすく言うなら「思念転写」ね。』

「・・・分かりやすくないんだけど。」

『そうねぇ自分の思念を送ったり張り付けたり出来るの。』

「貼り付ける?どういう事?」

『例えばー、イロハちゃんの近くに人形が有ればその人形も動かせるわね。』

「おー、1人人形劇出来るじゃん。」

 某人形やおもちゃが動く映画を思い出しながらニヤニヤする千春。


「誰か人形持ってない?」

「ユラもってるー。」

 ユラは魔法のポシェットから動物の人形を取り出す、狐の人形だ。


「イロハその人形動かせる?」

「(どうやって?)」

「・・・どうやるの?アイトネ。」

 首を傾げる彩葉、千春もアイトネに聞く。


『念を飛ばしてみたら良いわ。』

 アイトネが言うと彩葉は人形を見つめる、すると狐の人形が立ち上がる。


「おー!動いた!」

「凄いね、人形劇マジで出来るじゃん。」

「おねぇちゃんうごいた!」

「(うごかせました。)」

「これ何個くらい動かせるの?」

『そうねぇこの子のキャパだと1体くらいじゃないかしら、自分が動かなければ2体ねぇ。』

「へぇーもう一個人形無いかな。」

 千春はそう言うとアイテムボックスの中身を思い出す。


「アイトネ様、人形のサイズに制限あるんですか?」

 頼子がアイトネに問いかける。


『魔力が関わって来るからあまり大きな物は無理ね、中に魔力を詰めた魔石でも有れば話は別だけれど。』

「中に魔石かー・・・、ん?千春まだゴーレム持ってる?」

「ゴーレム?!あるけど、アレ人形なん?」

「人形っちゃー人形じゃん?」

 千春のアイテムボックスに放り込まれたアイアンゴーレムを、千春は雪が積もった庭に出す。


「デカいなぁ、流石にコレは無理でしょ。」

「どうだろ、イロハちゃんアレ動かしてみてよ。」

「(やってみるわ。)」

 彩葉は庭のアイアンゴーレムを見つめる、するとアイアンゴーレムが動き出した。


「うぉー!動いた!すっご!」

「イロハちゃん右手上げて!」

「(はーい。)」

 頼子がお願いすると、アイアンゴーレムの右手が上がる。


「凄い凄い!!!」

「コレは面白いね、イロハちゃんそのまま地面殴って見て。」

「(はーい♪)」

 彩葉も動かせるのが楽しいのか聞こえる声が嬉しそうだ、そして・・・。


ドォォォォゥン!!!!!!


「うぉあ!!!!」

「ぎゃぁ!!!!」

 地面が揺れ雪が舞い散る。


「(ごめんなさい、やりすぎました。)」

「いやいや、まぁ私が言ったから。」

「うん、今のはヨリが悪い。」

「人形使いでもゴーレムは動かせないわよ?」

 横からマルグリットが言う。


「そうなんです?」

「えぇ、大きさと重さで消費魔力が上がるもの、凄いわね。」

 ブンブンと手を振りドスドスと歩くゴーレムを見ながら呟くマルグリット。


「・・・うん、イロハ、ゴーレムはナイナイするよ。」

「(うん。)」

 ゴーレムを片付け千春達はソファーに腰掛ける、この数分後魔導士団や騎士団、エンハルトが部屋に走って来る事になる事を千春は知らなかった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る