第2話 ライフはとっくにゼロよ
空の散歩から帰還すると、魔法館の前に見知らぬ男性がたたずんでいた。ゆっくりと舞い降りてくるふたりを見上げて口を開く。
「こいつはたまげたっすね」
「こんにちは」
あきらかにこちらをみているので挨拶をしてみた。
「へえへえ、こんにちはっすよ。お初にお目にかかるオイラはシデ。ここ魔法館の雇われ使用人、姫さんの腕の中でぐったりしてるノエル坊ちゃんたちの世話係兼雑用係っすね」
「まあ。魔法館の方なのですね。不束者ですがこちらの主に選ばれましたの。よろしくおねがいいたしますシデさん」
シデは「どーも」と覇気のない返事をしてから、ぐったりしてるノエル坊ちゃんを覗き込んだ。
「まだ息ありますかねぇ」
「え。もしかして病弱でいらっしゃいましたか」
「ここの魔法使いさんらはみんな弱々に弱ってますよ。オイラは魔法使いじゃないんでよくわからんですが、今魔法館でまともに話せるのってこのノエル坊ちゃんとあとひとりくらいですし」
「えっと、ノエル?さん。しっかりなさって」
ついはしゃいでしまったことを反省した。死なないで!という気持ちで地面に降りたあともしっかり抱きしめた。
「だ、大丈夫です、主様。すこし酔っただけです」
ノエルの返事は弱々しく、顔色もばっちり悪い。
「もう部屋で休まれたほうがいいっすよ。姫さんの相手はオイラがしとくんで」
「ではこのままお連れしますわ。シデさん、ノエルさんのお部屋まで案内してくださいな」
軽々とノエルを抱きかかえるのを見て、シデは目を白黒させた。
「姫さんは力持ちなんすかね」
「え?」
「え? いやだって、女の細腕で成人男性をお姫様だっこして運ぶとかあんま見ねえですし」
「ああ……えっと、それはきっとわたくしのもつ浮力のことですわね。翔ぶためにそなわっている力なのですが、わたくし自身と、わたくしが触れているものは軽くなるのです」
「へえ。おもしろい力っすね。魔法かと思ったっす」
シデに導かれて魔法館を進む。ノエルの部屋は三階にあった。
「どうかゆっくり休んでくださいね」
部屋の前でノエルを下ろし別れる。なんとかお礼だけ述べてノエルは重たい体をひきずるように部屋に入った。薄暗い部屋の中には先客がいたので思わず小さな笑いがもれた。
「待ち伏せとは悪趣味だな……」
「今度の主はどうだ」
「どうもこうも……お元気な方ですよ、生命力にあふれている」
「──そうか」
「どいてください、少し眠ります」
相手が寝台に腰掛けているので邪険にしながら、上着を雑に脱ぎ捨てて倒れ込む。
「空は、もう少し、元気に、ならないと……」
そのまま気絶するように眠りに落ちたノエルがぐうぐう音をたて、冷めた視線を落としてから男は立ち去った。
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