第12話 幼馴染は心配性

 昼休みの教室。


「はぁ…」


 広季は弁当を食べ終わり、疲れ切ったようなため息を吐く。視線は完全に下を向き、弁当箱一点を見つめる。


「どうしたの?もしかして身体の調子でも悪いの?」


 向かい合って弁当を食べる仁美が心配そうに尋ねる。手は止まり、箸で器用に卵焼きを摘んだ状態だ。箸はわずかながら左右に震える。


「ああ。身体は大丈夫だけど。ちょっと別れを切り出された過去を思い出しちゃって」


 広季は苦笑いを浮かべる。そう口にするなり、最悪な記憶が再び脳内にフラッシュバックする。


 光にあっさりと浮気を切り出されたあの最悪な記憶が。


 そのせいで、広季のげんなりした顔が顕在化する。目は小さくなり口もぶっきらぼうに開く。まるで痛みに耐えるような表情を形成する。


「それは辛いね…」


 仁美は同情したような仕草を示す。箸を机に置き、うんうんと首を何度か縦に振る。


「まぁ、大丈夫だから」


 広季は安心させるようにポジティブな語句を紡ぐ。さらに問題がないことを示すようにテキパキ弁当箱を片付け始める。


「ダメだよ!気分が下がってるんでしょ!自分の気持ちに正直にならないと」


 仁美は声のボリュームを上げ、広季をたしなめる。亜麻色の瞳は真剣で広季を決して放さない。


(参ったな。すごい心配してくれてるみたいだな)


 広季は仁美の顔から相手の心理状態を把握する。困ったように指で右頬を縦になぞる。


「それにしても、なんでお弁当を片付けるの?」


 なぜか、仁美は食べ掛けの弁当を片付け始める。弁当箱にはお米、卵焼き、ソーセージなどがまだ残る。


「何言ってるの?保健室に行くからだよ。広季はゆっくりした方がいいと思うからね」


 仁美は「よし終わり!」と口にし、弁当箱を仕舞う。それから自身の机に弁当袋を掛ける。


「え!?なんでだよ?大丈夫だよ」


 広季は率直な疑問を口にする。拒否するように首を強く左右に振る。


 正直、保健室で休憩するほどしんどくはない。


「ダメだよ!とにかく行くよ?」


 仁美はさっと広季の右手を取る。広季の右腕は少し強引に引っ張られる。


「ね?」


 仁美は諭すように言う。彼女の声色は子供に優しく声を掛ける母親のものと似ていた。


「…わかった」


 広季は素直に了承した。仁美の親切心を無駄にはしたくなかった。その上、ここで反抗するのは無駄だと理解できた。


 そのため広季はイスから腰を上げ、仁美と手を繋ぎながら教室を後にする。


「ちょっと?戸は閉めなくてもいいの?」


 広季は仁美と一緒に手を繋ぎながら気になる事柄を聞く。広季は甘えるように仁美の手を握る。


「いいでしょ。今日ぐらい」


 仁美は気に掛けた様子もなく答える。広季と繋いだ手を視認し、幸せそうに満面の笑みを浮かべる。それから、広季から握られた手を丁寧に包み込むように握り返した。

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