第10話 辛辣
「…」
次の日。光はかなり目を腫らし、学校へ遅刻せず登校した。顔色は普段と変わり果て、わずかに青くなっている。光が昨日の夜間に泣き続けた証拠だ。
周囲はざわざわしながらも、誰1人心配して声を掛けようとしない。ただひたすらひそひそ話をするだけだ。男子は男子、女子女子でそれぞれ行う。
光はそんな状態ながらも集中した様子で昼休みまで授業を受ける。しっかり教科書とノートを開き、シャーペンでそれらに文字を書き込む。もちろん板書も欠かさない。
昼休みに突入すると、光は同じクラスの東雲海に声を掛ける。海は光の前の席に座る。そのため、光は後ろから海の背中を軽くタップする。
光は海と割りかし関係性を築く。休み時間などの休憩時間に会話を交わすこともしばしばあった。恋バナだったり授業など様々なタイプの話をした経験がある。
しかし、なぜか声を掛けるのはいつも決まって光だった。
「ちょっと聞いてよ!前付き合ってた彼氏が2股かけてたの。最低だと思わない?」
光は元カレに対する愚痴をこぼす。鳥のように唇を尖らせる。
「そうですか。自業自得じゃないですか?」
海は辛辣な言葉を言い渡す。その際、明らかに軽蔑した瞳を向ける。その瞳は完全にハイライトオフだった。
「えっ…」
光は思わず素っ頓狂な声を漏らす。目は点になり、口はだらしない形で半開きだ。おそらく完全に想定外な出来事なのだろう。
「あなたが同じような仕打ちを彼氏さんにお見舞いしたから。不幸な出来事を味わう羽目になるんですよ」
海は追撃をやめない。桃色の唇は一向に留まることを知らない。
海は明らかにヒートアップしている。その証拠に、彼女は額や頬などにほんのり汗を滲ませる。
「…」
光は悲しそうに黙って俯く。耐えるよう静かに膝の上でギュッと両拳を握る。
光は少なからず海に信頼を寄せていたのがわかる。
「それと今後一切、私に話し掛けないでください。これまで会話をしてきましたが、それも本日でお終いです。なんせ、不快感を覚えてしまいますから」
海は「失礼します」と頭を下げ、席から腰を上げる。
海の背中姿が光の視界に映る。そこには、
ベージュのブレザーや緑のスカートなどがあった。
海は金髪のロングヘアを靡かせ、どんどん光と距離を作る。こんな状態でもスタイルと姿勢の良さは際立つ。これは大変恐るべきことだ。
「ちょ…。まっ…」
光は勢いよく席を立ち上がり、海を制止させようと試みる。気持ちは表面化し、右手は海に向かうように伸びる。
しかし、海は完全に相手をしない。振り返りもせず、ただひたすら両腕を軽く振りながら前に進む。
結局、海は無視する形で教室を後にした。その際、両手でドアを開け、また両手でドアを閉めた。こんなときも、品の良さが垣間見える。
ばたんっと戸の閉まる音が教室内でじんわりと反響する。戸は完全に閉まった状態だ。少しの隙間も存在しない。
まるで海と光の間に境界を作るみたいに。
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